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第二十一話 決着

 

「――何?皇国の召喚士官だと!?」


 ギヨン軍曹は息を弾ませながら上官に報告した。


「あの狼煙は仲間と合流する合図であり、そして――」

「我々を誘き出し各個撃破する罠でもあったと」


 ルマール少尉は奥歯を軋ませる。



「――打って出るぞ!」



 口火を切って振り返る。

 居並ぶ兵士達が二人を見つめていた。


「森林での戦闘になる。銃兵と弓兵は各々剣を持って出撃だ!」


 命令が発せられると、兵士達が弾かれたように動き出す。



「愚か者どもに我が帝国の恐ろしさを思い知らせてやる!」






 総勢十七名となった帝国軍第一〇六小隊が森の中を進撃していた。

 声が届くギリギリの距離を保ち周囲を索敵している。

 すると、一人の兵士が声を上げた。


「二人を発見しました!」


 ルマール少尉とギヨン軍曹が声を上げた兵士の方向へ駆け寄る。

 足元に視線を落とす。


 二人の遺体が血だまりに沈んでいた。


「お前たち……」


 彼らは全身傷だらけであった。

 二人とも肩口からわき腹にかけて斬り裂かれている。

 これが致命傷になったのだろう。


「ッ!!まだ遺体がある以上、敵はそう遠くに行っていない筈だ!」


 このSWOでは遺体が細かい光となって消滅する。

 しかし、倒された直後の遺体はしばらくその場に現存するシステムであった。


「必ず探し出し、奴らを――」

「ぅがはッ――!」


 背後から言葉にならない悲鳴。


「ッ!!」


 振り向いた先には、崩れ落ちる仲間の姿。


 そしてその背後には、クロスボウを持つ男が立っていた。



「あいつだッ!奴が我々を襲撃してきたエルヴェル皇国の召喚士官だ!」


 ギヨン軍曹が声を上げる。



「――……」


 カイは無言でクロスボウからサーベルに持ち変える。

 直後に、弾かれたように動き出した。


「囲めッ!取り囲んで圧殺しろッ!」


 ルマール少尉は指示を出す。


 しかし、いかに帝国側の数が多いといっても、ここは森林。

 障害物が多すぎて、上手く兵を展開することが出来なかった。

 それに警戒していたとはいえ、視線が仲間の遺体に集まった、その一瞬の隙を突かれている。

 結果として――。


 序盤はカイたちの優位に戦況が推移した。




 だが、カイが二人の帝国兵を葬った辺り、再び戦況の流れが変わり始める。


 落ち着きを取り戻した帝国軍によって押し返され始めたのだ。



 彼の判断は早かった。


「ッ、撤退するぞ!」


 すぐさま撤退の命を下す。

 同時に、召喚兵士も波が引くように退却を開始した。



【グロート大森林】の奥深く、方角でいえば西に向かって撤退するカイ陣営。



「敵が退却していきます」

「よし、では追撃に――」


 追撃に移ろうとするルマール少尉。

 それに対して〝少尉殿!〟と口を挟む。


「……不自然ではありませんか!?」

「何がだ?」

「確かに森林での戦いは、乱戦が形成され大軍の利は活かせません」


 数拍の間。

 ゆっくりと口を開いた。


「しかし、それは敵の勝利を意味するものではない。乱戦になれば此方の犠牲を強いることは出来ても、数で勝っている我々の勝利は揺るぎません。地の利でもあれば話は変わってくるのでしょうが相手にその様子もない」


 カイたちの会話を思い出す。


(あいつらは【グロート大森林】に初めて訪れた様子だった)


「では、どうして敵は最初から撤退していなかったのでしょう?」

「言われてみれば確かにそうだ……」


 焦らずにさっさと撤退を指示している時点で、カイも最初から勝てると思っていなかったことが伺えた。



 それ以上に不自然なのは――と彼は前置きして後を紡ぐ。


「なぜラグハイム帝国のある、西側に撤退するのか?」

「――あ」

「撤退するにしてもエルヴェル皇国のある東に向かって撤退するのが常識では?」


 カイの所属するエルヴェル皇国にとってラグハイム帝国は敵対国家。

 それにもかかわらず、わざわざ西に向かって撤退するのはあまりにも不自然。

 最低でもラグハイム方面に撤退するのだけは避けるのが当然の選択である――とギヨン軍曹はそう言っているのだ。


「焦って……というのは有り得ないか」

「ええ」


 二人にはカイが冷静な思考を失っているようには見えなかった。


「だとすると……考えられるのは此方の注意を引き付けるためか、時間稼ぎだろう」

「囮と時間稼ぎ……」

「そのどちらにせよ、この状況で導き出される答えは――」

「援軍の存在ですね?」


 後を引き継ぐと、ルマール少尉は頷いた。


「貴様の報告では他にも仲間がいる様子だったな?」

「はい」

「だとすれば、その仲間たちと合流する手はずが整ったのだろう」

「ではどうしますか?抑えとして部隊を二つに別けましょうか?」

「……我が小隊は既に十五名だ」


 ポツリと呟く。


「ここで部隊をわければ、敵とそう変わらない戦力差になってしまう」

「確かに……」

「……敵は再び此方の各個撃破を狙っている可能性も考えられる」


 俯いて考え込んでいた顔を上げる。


「――敵を全軍で追撃するぞ!」

「よろしいのですか!?それでは背後を襲われる可能性が――」

「敵の援軍が二分した我が部隊より少ないならば抑えとして残す意味はある」


 視線をギヨン軍曹へと向ける。


「だが、敵の援軍が残した部隊より多ければ……結局、撃破されてしまうのではないか?」

「……」

「我々は軍人だ。最悪を想定しなければならない」


 カイが退却していった方角を睨め付ける。


「我々に残された選択肢は皇国の援軍到着より早く目の前の敵を撃破し、返す刃でやってきた援軍をも撃破する。ただそれだけだ」


 そう断言すると、改めて口を開いた。


「全軍で追撃を開始せよ!」






 第一〇六小隊の面々が森を抜け再び野営地に戻ってきた。

 各々が周囲に視線を巡らせる。


「――あそこです!」


 兵士の一人が谷の向かい側を指さした。

 皆が視線をそちらに向ける。


 カイが谷の向かい側で立ち尽くしていた。

 此方から見て吊り橋の出口に当たる場所に召喚兵士を並べて陣取っている。


「ここで時間稼ぎをするつもりかッ!」


 ギヨン軍曹は吊り橋の出口を抑えている意味を素早く察した。


(あそこに陣取られていては森林と同様、兵は展開しずらく大軍の利は活かせないッ)


 忌々しげに睨め付ける。

 すると、アイテムボックスから松明を取り出す。


(……何をする気だ?)


「――お前たちが突撃してくれば、俺はこの吊り橋に火をつける!」


 居並ぶ帝国兵士達に向かって堂々と宣言する。


「なッ――!」


 誰もが絶句した。

 ギヨン軍曹も奥歯を噛み締める。


(――なんて卑劣なッ!だが、いやらしいまでに効果覿面だ!)


 辺りを見回す。

 ――これから突撃しようとしていた兵士達の足もすくんでいる。


(これでは、どうする事も――)



「それは虚言だ!」


 ルマール少尉が叫んだ。


「敵は油を撒いている様子はない。そう簡単には燃え広がりはしないし、吊り橋はそう簡単に落ちるものでも無い」


 上官の低い声が辺りに響いた。


「そもそも、橋が落ちて困るのは相手も同様だ!」


 小隊の面々がハッとする。


「時間稼ぎを許すな!恐れず前へ突き進め!」

「「「「ウォォォオオオオオオオオオオオオ!」」」」


 軍靴で大地を踏み鳴らし、兵士達が一斉に突撃を開始する。



「ッ!」


 帝国軍のあまりに早い決断。カイは意表を突かれた顔をした。





「流石です。ルマール少尉殿」


 副官として残ったギヨン軍曹が称賛の声を上げる。


「敵の思惑を見事に見切りましたな」

「ふん」


 上官は満更でもないように鼻を鳴らした。

 それから真剣な表情に移り変わり懸念を尋ねる。


「しかし、一応の保険として半分ほどの兵を残さなくてよかったのですか?半分の兵を残しても吊り橋の地形から大軍の利を活かせない為、戦力上問題ないと思われますが……」

「そうやって兵を残していては敵の思うつぼだっただろうな」

「は?」

「兵を残してしまえば、突撃する兵達の士気低下は避けられない」


 自分たちは捨て駒にされたのかと思うはずだからな――と補足する。


「そうなれば、兵力で勝っていても士気の差で劣勢を強いられただろう」

「確かに、その可能性は有り得ました」


 上官の言葉に深く同意する。

 そして、視線を戦場へと移す。


 戦端が開かれた吊り橋の上では、死闘が繰り広げられていた。



「我が軍が押しているようです」


 カイの召喚兵士はこれまでの連戦でHPを消耗している。

 対して、第一〇六小隊の兵士は戦力的優位な立場から負担が分散されていた。

 その差が、ここに来て如実に表われ始めていたのだ。


「このままなら、敵の援軍が到着する前に決着を付けられそうです」


 それは同時に、部下たちの仇が取れることを意味している。


(ここで死ねッ!皇国の犬めッ)


 勝利を確信したギヨン軍曹。

 その表情に自然と笑みが浮かんだ。


「我々の勝利だ!」


 あと一歩でカイ陣営の前線が崩れる。

 その間際――。



 一発の銃声が戦場に鳴り響いた。




 ほぼ同時に隣のルマール少尉が崩れ落ちる。


「しょ、少尉!?」


 そちらを見ると頭部には小さな穴。

 白目を剥いて、額からは一筋の血の跡。


 彼はすでに事切れていた。


(――バカなッ!もう敵に援軍がきたとでもいうのか!?)


 有り得ないタイミング。

 それこそ、背後から後をつけられていたのでもなければ、とても説明できない。


「――ッ!」


 慌てて振り向く。


 そこには膝を突き小銃を構えていたユイナの姿。

 銃口からは煙が上がっている。


 だが、彼女以外の援軍が訪れている気配はない。




 そこで、やっとその真実に気付いた。



(まさかッ!他に仲間など最初からいなかったのか!?)


 驚愕している彼を無視して、ユイナは小銃から弓に持ち替える。


「ッ!!」



 それを見てギヨン軍曹は咄嗟に地面を転がった。

 が――。


「ッがはっ――!」


 腹部から激痛。

 耐え切れずに膝を突いた。


(回避行動中の私に命中させた、だとッ!?一体どんな目をしているッ!)


 彼女の回避技術を応用した射撃能力の前になすすべなく身体を突っ伏せる。



 そして、ユイナは命中を確認したあと、帝国軍の背後を弓で襲い始めた。



 こうして司令塔を失い、敵援軍の到来を知ったことで士気が壊滅状態になった第一〇六小隊。

 ただでさえ元々の二十一人から、半数近くまで数を減らしている。

 そこを背後から挟撃されては――。



 もはや決着はついたも同然であった。


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