表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/37

第二十話 微笑み

 

 吊り橋の前で野営の準備を行っていたラグハイム帝国軍第一〇六小隊。その中で異変に最初に気付いたのはギヨン軍曹であった。


「……なんだアレは?」


 一筋の細い煙が、空にあがっている。

 すると、同じく異変に気付いた小隊の指揮官であるルマール少尉が近寄ってきた。


「ギヨン軍曹」

「ルマール少尉殿」

「見ての通り異変が起こっている。これから五人ほど選別して斥候に向かわせたい」


 貴様はその一人だ――と付け足す。


「了解です。……しかし、あの煙は何なのでしょう。【グロート大森林】を超えた先からあがっているようですが……」

「煙があがっているのは皇国側だ。一番初めに考えられるのは皇国連中による何かの合図というものだが……」

「合図……もしや、敵が我々を発見したという狼煙では?」

「もし、そうであれば伝令を走らせればこと足りる。何も狼煙を上げて此方に警戒させる必要などない」

「……なるほど」


 上官の言葉に納得する。


「とはいえ、ただでさえここは既に皇国の領地だ。警戒は怠るなよ」

「はっ」


 敬礼して応えると、さっそく偵察の準備にとり掛かった。




 ギヨン軍曹は森の中を歩いていた。

 前後左右、声が届く距離に四人の部下を配置している。

 森に踏み込んで約十五分。

 警戒しながら進んでいると、何事もなく森林を抜けた。


「……あそこだな」


 森を抜けた先には、小高い丘があり煙はその頂上付近であがっているようだ。

 部下を引き連れて丘を登る。

 森林から丘までの距離はそう遠くない。

 歩いて十分程であろう。


「……これか」


 頂上に辿り着き、足元に視線を落とす。

 焚き木のあとだ。

 火種は絶え、既に火は消えかけている。


「……」


 周囲を見渡す。

 視界の届く限りに、敵影は確認できない。


「――周囲を索敵しろ。何事もなければ三十分後にもう一度この場所に集合だ」


 指示を出すと、部下たちは走り去る。


「……一体何だったんだ?」


 ギヨン軍曹は首をかしげながら、部下の報告が来るのを待った。




 一時間が過ぎた頃。

【グロート大森林】を抜ける細い道を、再び斥候部隊は一列縦隊で進んでいた。

 斥候を終えて、あとはまっすぐ本陣を目指し帰還するだけだ。

 目の前の部下が振り返る。


「結局、何だったのでしょう?」

「……さあな」


 ギヨン軍曹は首を左右に振る。


「少なくとも敵は発見できな――」

「ぎゃああぁあ!」


 森林の静寂を切り裂く悲鳴。


「――ッ!?なんだッ!?」


 弾かれたように振り向いた。

 視線の先には、背中から矢をはやして膝を突いている二人の部下。

 その背後からは複数の黒い影が躍り出てくる。


「――敵襲だッ!」


 彼は部下たちへ叫んだ。


(失態だッ!帰り道であったことで警戒が緩んでいたッ!)


 自責の念に駆られていると、青紫の軍服を身に纏った男が斬りつけてくる。


 咄嗟に剣を抜いた。


「ッ!!」


 金属音が辺りに響く。


「――ちッ、これに反応するか。流石に軍人ともなると戦い慣れているな……」

「――貴様ッ!エルヴェル皇国の軍人だな」


 その男は問いかけを無視して、一旦バックステップで距離をとる。

 そのことでギヨン軍曹も落ち着いて周囲を観察した。


 皇国側は男女の召喚士官サモナー二人とその召喚兵士サモンソルジャー四体の合計六人。

 男の召喚士官はサーベルを構え、女は弓を所持している。

 対して帝国の斥候部隊は、奇襲で矢傷をうけた二人の兵士がとどめを刺され息を引き取っていた。


(我々は数的不利でありながら囲まれている状況だ)


 背中から冷や汗が湧き出る。



「――ユイナさん」


 男の召喚士官が弓を持っている女――ユイナに声をかけた。


「なんだい、カイくん」

「……他のパーティーメンバーの様子を見て来てください」


 その男――カイの一言に驚愕する。


(他にも仲間がいるのか!?)


 ユイナが不審そうに尋ねる。


「……まだ、敵が残っているけど?」

「ユイナさんが一人始末したおかげもあって、圧倒的優位な戦況なので問題ありません。それより問題なのは、狼煙を上げれば合流する手はずだったのに、やってこない他のパーティーメンバーです」


 カイは斥候部隊全員を睨め付けながら口を動かす。


「あいつらも【グロート大森林】を捜索中に敵と遭遇したか、もしくは合流に際して何か問題があった可能性が――」


 ギヨン軍曹は頭を働かせる。


(こいつらは二手に別れて【グロート大森林】を捜索していたようだ)


 何が目的であるのかまでは、一連の会話から読み取ることは出来なかった。


(森林の捜索中という事であれば、合流の手段として狼煙を使っていたことも理解できる)


 不特定多数の人間に目撃されるリスクはあるが、森林を捜索している仲間との合流手段としては合理的だ。


「目の前の敵を排除したあと、一旦、撤退します。各個撃破の戦果としては十分です」


 その発言に、思わず奥歯を噛み締める。


(――あの狼煙は我々を誘き出して、各個撃破する目的もあったのかッ)


 彼の憤りを無視して、二人は会話を続ける。


「集合場所は?」

「来る途中に寄った村です」


 了解した――とユイナは頷く。


「ああそれと、今までの会話を全て敵に聞かれたみたいだけど……」

「生きて返さないのでかまいません」


 カイはにべもなく返答した。


(……くそ、分かっていたことだが、敵は私を生きて返す気はないようだ)


 怒りから相手を睨め付ける。



「それより、早くしないと敵の本隊が様子を見に来る可能性があります」


 急いでください――と促され彼女は踵を返す。


「お前たちはカイくんの指示に従うように!」


 ユイナは去り際、召喚兵士にそのような指示を言い残し、背を向けて走り去った。



 すると、カイがギヨン軍曹と対峙する。


「待たせたようですまないな」

「……」


(お前の為に待っていたのではないッ!)


 内心で吐き捨てる。


 カイたちは会話中も隙を見せてなかった。

 そこを数で劣りながら囲まれている斥候部隊が無理に攻めたところで死期を早めていただけだろう。

 何より、ギヨン軍曹も二人の情報を知りたかったのと、時間を稼いでいれば本隊が様子を見にくる可能性に賭けていた。



「ギヨン軍曹」


 背中を預けている部下が耳元で囁いてくる。


「我々が突撃して活路を切り開きます」

「なに」

「軍曹は我々が時間を稼いでいる間に、そこから本陣に向かって退却してください」

「だが、それではお前たちが……」


 ギヨン軍曹は口ごもる。

 そこから先は言葉にならなかった。

 すると、部下が詰め寄ってきた。


「誰かが情報を持ち帰らないとやられた仲間たちが報われないッ!」


 軍曹!ともう一人の部下も決断を迫ってくる。




 しかし、それを無視するかの如くカイが口を挟んだ。



「相談しているところ申し訳ないが、俺は一人も逃がすつもりは無い」


 やれ――と召喚兵士に指示を出す。



 その直後――


「行くぞッ!」

「ああ!!」


 二人の部下がカイへと突撃する。


「――ッ!背後からこの二人を襲え!」


 咄嗟に新たな命令を下す。

 四体の召喚兵士はすぐさま命令に従った。


 前後から挟撃される形になり、二人はさらに不利な状況へと追いつめられる。



 だが、決死の行動により包囲の一部が崩れされた。



「ッ!!」



 それを見て、ギヨン軍曹は迷いを振り切る。


「――拙いッ!逃がすなッ!!」


 カイが追撃に出ようとすると二人が立ち塞がる。


「そうはさせない!」

「ぐうっ」


 残された部下たちは、背中を斬られながらも、召喚兵士に追撃させぬよう懸命に奮闘した。




 彼らによる命懸けの時間稼ぎで包囲の突破に成功したギヨン軍曹。


 彼は決意する。


(必ず、お前たちの仇はとるぞッ!)


 復讐を胸に誓い、今はただ前だけを向いて懸命に足を動かす。




 ――だから、見逃してしまう。



 その背後で一瞬だけ、口元を吊り上げ勝利を確信したように笑みを浮かべる人物がいたことを――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただき有難うございます

『転生したからナポレオンを打ち倒したい ~皇帝と英国紳士とフランス革命~』がKADOKAWA様より3月5日に発売いたします。

興味がある方は、画像クリックで
gk9bax5ilfkmjshifrhpkxezd6i1_kv9_jk_rs_7
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ