第十九話 約束の代償
SWOの設定上、赤い瞳は魔族の血が入っている者のみ。
そして、あれだけの数の魔族が軍服を身に纏っているのだ。
その答えには容易に辿り着く。
「――ラグハイム帝国」
隣で様子を窺っていたユイナさんがその呟きに反応した。
「どうしてラグハイム帝国の軍人たちが?」
「クエスト内容に書いてましたが、【グロート大森林】一帯はラグハイム帝国との戦闘域付近にほど近い。レヴィン少尉からも極まれにですが遭遇する可能性があると」
しかし、レヴィン少尉の話では、遭遇確率が一パーセント未満と言っていた気がするが。
(……当たり前のように引き当てたな)
もはや、嘆くより呆れの方が先に来る。
ここ最近、SWOの抽選に当選したことやレア種族を引き当てたことを考えれば不運というより揺り戻しなのかも知れない。
「――それでどうする?」
此方を伺うような視線で尋ねてくる。
「ポイント地点に辿り着くには吊り橋を渡らなければならない。だけど――」
「……帝国の軍人たちは吊り橋の前に佇んでいますね」
帝国の軍人たちは何が目的なのか、吊り橋の前から動く気配はない。
それどころか、天幕を設置し始めて野営の準備をしているようだ。
「迂回は?」
「マップを見た限り、どこも谷に阻まれていて近くに迂回ルートはありませんでしたよ」
それでも時間を掛けて捜索すれば見つかるかもしれないが……
あるかどうかも分からない迂回ルートの為に、何時間もの時間を要するとなるとどうしても足踏みしてしまう。
――現実ならともかくこれはゲームなのだ。
たった一クエストのためにそこまでするのは労力に見合わない。
「なら、諦めるのかい?……それとも一か八か攻撃を?」
「……」
「私はカイくんがどんな判断をするにしろ、最後まで付き合わせてもらうよ」
君にはお願いを聞いてもらったからね――と付け足す。
「やはり、ユイナさんでも単身で突撃するやり方では勝てませんか?」
「……厳しいだろうね」
すると、ユイナさんは吊り橋の方角へと視線を向ける。
吊り橋の前に佇むラグハイム帝国の軍人は総勢21人。
レヴィン少尉は、遭遇するにしても分隊規模の十人前後だろう、と言っていたがその倍に匹敵する戦力。
此処までの数になると分隊というより小隊に近い。
そしてどの兵士も鍛えられており、規律が保たれている。
今まで遭遇したどの敵とも一線を画していた。
「……識別してみたけど、彼らのレベルは60前後。兵科も銃兵と弓兵が三人ずつ存在する」
「そして軍人である以上、賊などとは比べ物にならないほど統率がとれているのでしょうね」
その言葉にユイナさんは厳しい表情で同意した。
「それでも、突っ込めというなら単身で突撃してくるけど?」
「SWOに適したやり方を学ばしてほしい、というお願いを了承したのに、全く逆の事を命令するはず無いでしょう」
なにより〝そのプレイングではいつか必ず詰むことになる〟と否定しておきながら、舌の根の乾かぬ内にユイナさんの武力に頼ることになるなどダサすぎる。
(いくら、俺でもそこまでの無恥厚顔にはなれない)
だが、彼女は尚も言い募る。
「だけど、状況が状況だよ。私の事情でクエスト失敗は申し訳なさすぎる。プレイングに関してはまた次回から――」
「困ったらすぐに自身の武力を頼るようでは、何時まで経ってもその単身突撃は変わりませんよ」
そう言うとユイナさんは口を噤んだ。
改めて彼女を見つめる。
「それにユイナさんの武力に頼らないと勝てないなんて誰が決めたのですか?」
唖然とする彼女を見据えて断言する。
「少なくとも俺は貴方に剣を抜かせずに勝つ策を一つ思い付きました」
「……本気で言っているのかい?」
信じられない表情で尋ねてくる。
「とはいえ、遊兵を生み出す余裕はありませんから、賊を倒して手に入れた飛び道具による援護と幾つかの指示には従って貰わないと困りますが」
「そ、その指示に従えば、本当に私は剣を抜かなくていいと!?」
四倍近い戦力差に、バランスのとれた兵科。
更には統率の取れた軍事行動すら予想される相手。
それらを全て理解したうえ――
「ええ」
ただ一言、頷くことで応える。
実際に、この周辺の地形をこの目で確認して一つ思い付いた策があった。
その策が上手くいけば、ユイナさんの圧倒的武力に頼ることなく勝利することも可能なはずだ。
目前の敵を見据えながら、決意を新たにした。





