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第十八話 遭遇

 

 褐色の髪をした巨躯の男。

 全身を鎧のような筋肉で覆われている。

 ボロボロになった衣服の下は傷ついている様子で、血が滲んでた。

 彼は気まずそうに頭をかく。


「すまねえな。話し込んでいる最中に」

「いや、此方こそ無視するような対応で申し訳ない」


 ユイナさんの謝罪に続いて頭を下げる。


「俺はこの村に住む、ライマー」

「私は召喚士官のユイナ。隣の彼が――」

「同じく、カイ・クライスです」


 お互いに名乗り合う。


「先ずは助太刀に礼を言わせてくれ」

「いや、気にしないでほしい。私達にも目的があっただけだから」


 ユイナさんは何でもないように首を振る。

 ――最初から道中の賊はレベリング目的で討伐する予定だった。そういった意味では村を助けたのは結果的でしかない。


(とはいえ、それを隠さないユイナさんがイケメンすぎる)


 世の中には、自演した恩を目的のために利用する人間もいるからな……何処の誰とは言わないが。

 遠い目で空を眺めていると、ライマーが本題に入った。


「助けて貰った手前、悪いんだが、少し傷薬を分けて貰えないだろうか?俺の他にも怪我をしている奴らがいるんだ」

「その人たちは何処に?」

「今は村長の家に避難している」


 ライマーは、先ほどまで賊に囲まれていた家を顎で指す。

 ――彼が戸口の前に立ち塞がっていたのは、生き残った村人を守るためだったのか。


「村の貯蔵庫が一部焼けちまって、運悪く薬草を焼失してしまったんだ」


 勿論、謝礼はさせてもらうから――と最後に付け加えた。


「ああ、かまわないよ」

「ええ」


 俺とユイナさんはアイテムボックスから傷薬を取り出す。


 回復魔法のないSWOでは、数少ない回復手段である傷薬。

 本来なら買い占めるべきアイテムなのだが、装備を新調したばかりで金欠となった俺にとっては潤沢にあるアイテムというわけではなかった。

 しかし、この流れで断れる筈もない。


「すまねえ、これで仲間たちを治療できる」


 すると、自分の右手から二つの指輪を取り外す。


「御礼にこのアイテムを受け取ってくれ」

「これは?」

「【隠密の指輪】だ」


 漆黒の指輪が怪しい輝きを放っている。


「敵に発見されにくくなるという効果が付加されている」

「へぇ」


 指で掴んでまじまじと観察する。

 ――しかし、また何でそんな物を村人が持っているんだ?

 そんな此方の疑念を読んだのか。

 ライマーが疑問の答えを口にした。


「俺は数年前まで皇国軍人で偵察兵をしていてな。それはその時に愛用していた指輪だ」


 この人、この図体で偵察なんて出来たのか。

 人は見かけによらないというが――

 失礼な思考を払拭するように口を開いた。



「大切な物なのでは?」

「だからこそだ。あんた達はこの村の命の恩人だからな」

「……そうか、では有難く頂戴するよ」


 ユイナさんの言葉を口火に俺達は改めて感謝の言葉を述べた。




 戦利品を回収したあと村から離れ、再び街道へと戻る。

 歩き始めて、最初に口を開いたのはユイナさんだった。


「この指輪は、偵察任務におあつらえ向きの装備品みたいだね」

「……ええ」


 もしかすると、偵察任務を受諾した時に確率で発生するイベントなのかもしれない。


 そこで思索を打ち切り、気になっていたあの話へと移す。


「……それで、あの時の答えなんですが」

「ああ、どうして私がSWOをやっているかだったね」

「ええ」


 一度はうやむやになってしまったが、やはり聞いておきたかった。


 すると、君には伝えておくべきか、と前置きして言葉を紡いだ。


「……兄がこのゲームをプレイしていてね。その兄にどうしてもSWOで勝ちたいから、と言うのがこのゲームをプレイしている理由だよ」

「お兄さんに勝ちたい?」

「兄は優秀な人間で、私はどの分野でも勝ったことが無かったんだ」

「え、どの分野でもってあの回避技術を活かせる分野でもですか?」


 ああ、と彼女は一度大きく頷く。

 目を見張った。


(マジかよ……ユイナさんが勝てないってどんだけだよ)


「それで何か一つでも勝ちたいと思っていたところに、兄がSWOの話を持ってきたんだ」

「SWOを……」

「好都合なことに対戦系のゲームだって聞いたから、どんなゲームなのかよく分からないままに了承したよ」


 それで今に至るわけだ――とユイナさんは最後に付け加える。


「対戦ということは、お兄さんとは別の国家に?」

「ああ、兄はラグハイム帝国に所属しているはずだ」


 だから、ユイナさんはSTR(筋力)極振りなのに魔族を選択しなかったのか。


「しかし、勝ちたい相手がいるなら、なおさらあのプレイングでは駄目でしょう」

「……どうしてもやり易いあのプレイングに落ち着いてしまってね」


 苦笑いを浮かべて肩を竦めた。


「それでも、このままでいいのかという疑問は抱いていたんだ――だから君に声をかけた」

「俺に?」


 切り出された言葉に足も止まる。


「次の街で待ち構えていれば、SWOに適した戦い方を習得しているプレイヤーと遭遇する筈だろう?上手い人間から学ばせてもらおうと思ったんだ」

「……買い被りだ」

「そうは思わない。少なくともこれまでの行動は私の期待にそうものだった」

「……まさか、単身で賊に突っ込んだのは、俺を試すためですか?」


 これまでの情報を照らし合わせると、そうとしか思えなかった。


「――身体が勝手に動いてしまったというのも本音だよ」


 だけど、と言葉を選ぶように後を引き継ぐ。


「……そういう意図が全くなかったかといえば嘘になる。不快な気分にさせてしまったならすまない」

「いや、別に不快って程ではありませんが」

「ただ、リアルの事情が関わっているから、能力もそうだけどそれ以上にカイくんの性格も知りたかったんだ」

「性格ね……だとしたら御眼鏡には叶わなかったでしょう」


 これまでの行動を顧みると、失望させるだけの心当たりが多すぎた。


(彼女の事情も知らず〝SWOをやめた方がいい〟なんてことも言っているし)


 すると、彼女が詰め寄ってくる。


「そんなことは無い」

「ち、近い」

「私の為を想ってなければ〝SWOをやめた方がいい〟なんて発言は有り得ないはずだ」


 思わず仰け反った此方を無視して、力強い口調で断言された。

 そして、一歩下がると改めて尋ねてくる。


「どうだろう……不躾なお願いなのは理解している。だけど、そこをまげて私にSWOの戦い方を教えてもらえないか?」

「教えるも何も、俺も初心者ですから」


 そもそも、サービス開始二日目なのだ。こっちだって手探り同然でプレイしている最中である。初心者が初心者に教えても碌なことにはならない。


「もしプレイングを指南してくれたなら。私に出来ることはさせてもらうから」

「ん?今何でもするって?」

「……いや、何でもとは言ってないのだが」


 困った表情で呟く。


(まあ、冗談はさておき少し真剣に考えてみるか)


 本音としては面倒ごととしか思えないから請負いたくない。こっちにはトッププレイヤーになるという目標があるしな。

 しかし、押しの強いユイナさんのことだ。

 何度断ったところで押し問答を繰り返すだけだろう。

 正面から断るのではなく、上手く躱す方法を模索しなければ――


 ふう、と大きな溜息が漏れた。


「――条件付きでなら、了承してもいいです」

「その条件とは?」

「直接的な指南を求めないこと」

「え、いや……それじゃあ」


 了承すると言っているのに指南するつもりはないという――とんちのような返しに彼女は困惑している。

 その様子に内心満足しながらも、さっさと答えを補足した。


「俺に付いて来るのは、自由にしてくれてかまいませんから。勝手に観察して学んでください」

「……所謂、見取り稽古というものかな」

「ええ」


 これなら、俺の行動にも支障はない。

 それに彼女もプレイングはともかく実力そのものはあるのだ。そう足手まといにもならないはず。


「此方から頼んでいる立場だ。それだけでもありがたいよ」

「交渉成立ですね」


 それでは行きましょう――と、彼女を促して再び歩き出す。


(しばらく好きにさせておけば、勝手に失望して離れていくだろう)


 そんな思考を巡らせながら、目的地へと足を進めた。






 それから三十分後。

 南北に広がる見渡す限りの森林地帯。

 俺達は【グロート大森林】の入り口に到着していた。

 天を仰ぐと、未だ分厚い曇り空。

 僅かに隙間から差し込む光すらも、木々の枝葉が庇となり辺りは暗い。


「此処から十分ぐらい歩いた先に谷があるようです」


 マップを見ながら説明する。


「そこに架けられた吊り橋を渡ったってすぐの場所がポイント地点らしいですね」

「それでは急ごうか」


 彼女の言葉に頷き、か細い道を踏みしめる。

 長かったクエストもこれで終わりだ。


 林道を歩きながら、時折立ち止まり周囲を警戒する。

 しばらくすると、視界から緑が晴れた。

 どうやら開けた場所に辿り着いたようだ。

 木の陰から、その先を見通すように伺う。


 そこに見えたのは――



「ッ!」



 二十人を超える赤い瞳をした軍人たちの姿であった。


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