第十七話 本末転倒
レベル:30 → 35
種族:ハーフ(人族×ドワーフ)
HP(体力):453
MP(魔力):10
STR(筋力):64(+15)
END(耐久):71(+8)
DEX(器用):62(+8)
MND(精神):50
INT(知力):51
Skill
Specific Skill(固有スキル)
種族適性(歩兵系統、銃兵系統)
個人適性(騎兵系統)
Passive Skill
【一刀両断Lv,1】
【縦陣Lv,1】
【奇襲Lv,5】
【挟撃Lv,4】
【狙撃Lv,1】
【夜目LV,1】
【夜襲Lv,1】
戦闘が終わった。
周囲には賊の死体が散乱している。
俺はユイナさんが討ち漏らした賊を三人ほど追撃したところでレベルが上がった。
彼女は十一人の賊を討伐して38レベルになった様子。
ユイナさんよりレベルの上昇率がいいのは、おそらく賊の頭を討ったからだろう。
すると、ユイナさんが此方に歩み寄ってきた。
「お疲れさま」
「……いや、お疲れさまなのはユイナさんだけで、自分は特に何もしていませんから」
「とんでもない」
彼女は目を見張る。
「賊の頭を討ち、敵の士気を崩壊させてくれたじゃないか」
「あれは全部、ユイナさんあっての事ですし……」
賊達の意識が彼女に割かれていたからこそ、あれほどうまく狙撃が決まった。
士気に関しても、ほとんどの賊がユイナさんの前に恐怖に慄き、半分以上壊滅状態だった。俺がやったことは最後の一押しに過ぎない。
第一、活路を作りだすという目的そのものは達成できなかったしな。
しかし、ユイナさんは尚も言い募る。
「次はどうするのが最善か、他人が何を欲しているのかを瞬時に判断し、実行に移すのはなかなか出来ることじゃないよ」
「……あらかじめ打ち合わせしていたら、そのような苦労もしなくて済んだのですが」
じっと瞳を見据える。
「……すまない。敵を見ると勝手に身体が動いてしまったんだ」
「いったいどこの戦闘民族ですか……」
まあ、あの戦いはそう評するのに相応しいものがあったが……
「せめて戦うかどうかの確認ぐらいしてください」
「え、でも、途中の賊はレベリングも兼ねてすべて倒す方針だって聞いていたけど」
「……」
確かに言った覚えはある。
だけど、言った言わない以前の問題だろう。
あれだけの戦力差を見れば、普通は足がすくんで戦うかどうするかを決めかねる。
――まあ、トッププレイヤーであるユイナさんを普通の人間と認識してしまった此方の落ち度か。
「……すみません。ユイナさんに常識を求めた俺が間違ってました」
「ん?そこはかとなく馬鹿にされた気がするんだが」
納得のいかない様子で首をかしげる。
別に馬鹿にしているわけではない……ただ少し宇宙人と会話している気分に陥っただけだ。
それより――と彼女は話題を移す。
「――私の戦い方を見てどう思った?」
真剣な表情。
質問の意図が読めないが……
「……どうも何も、凄いとしか言いようが無かったですが」
「本当に?それだけかい?」
此方を見つめてくる。
「……」
そこで初めて彼女の意図を察した。
――確かに、あの戦闘を見て色々と思うところはあった。
(……ただ、言いにくい)
他人のやり方にとやかく口を挟む権利など誰にもない。
しかし、聞き返されるぐらいだ。
相手もその答えを求めているのだろう。
彼女の瞳を見据える。
銀色の前髪の向こうで漆黒の瞳が揺れていた。
「――ユイナさん、貴方はSWOをやめたほうがいい」
しん、と痛いぐらいに辺りが静まり返った。
(――失礼なことを言っている自覚はある)
それでもあのプレイングを見た後では言わずにはいられなかった。
ユイナさんもその答えは予期していたのだろう。
彼女は怒らずに訊き返した。
「……理由を聞いても?」
「一言でいえば〝才能が勿体ないから〟ですかね」
「……勿体無い?」
深く頷き返す。
「一つ前置きしておくと、俺はVRMMORPGでユイナさんのプレイングは〝あり〟だと思っています」
あれほど圧倒的なバトルセンスがあるなら、召喚者と召喚モンスターによる近接戦闘は有効だろう。
寧ろ、剣士系のジョブを選んで下手な人間とパーティーを組むぐらいなら、忠実な僕を従える召喚士系のジョブ選択のほうが良いのかも知れない。
あのプレイングじゃあ、他人と協力したところでむしろ弱くなるだけなのは目に見える。
「だったら――」
「――ただし、それがSWOでなければ」
彼女が言い終える前に言葉をかぶせた。
チュートリアルでも近接戦闘は習ったが、あれは別に運営が近接戦闘を推奨しているのではない。
必要に迫られた状況――いうなれば、仕方のない場合にのみ近接戦闘を行えと言っているのだ。
「しばらくは、あの戦術でも問題ないでしょう……いや、問題ないどころか誰よりも早く昇進することも可能かもしれない」
十人、二十人ぐらいなら、彼女はどうにか出来てしまう事を証明している。
「だけど相手が、五十人、百人の規模だったら?」
このゲームは最終的に、千人規模の召喚兵士を顕現することができる。
とすれば、ゲームが序盤から中盤、終盤へと移行するほど、厳しい制限があるとはいえ数十人、百人規模の召喚兵士を顕現できるプレイヤーは増え続けていくだろう。
「SWOの目的の一つは、他のプレイヤーとの対人戦闘。現在やっているレベル上げは、その時の為に力を蓄えているに過ぎない」
数拍置いて、言葉を紡いだ。
「そして、その力とは何もレベルの事だけを指して言っているのではない。戦術や用兵といったものすべてを含めての力だ」
寧ろ、比重としてはそちらの方が重要な筈だ。
だからこそ、只の賊にすらあれほどの戦術が備わっていたのだ。
NPCとの戦闘は、言うなれば対プレイヤーを想定した実戦訓練でもある。
「つまり、ユイナさんのプレイングは……」
「――本末転倒、と言いたいのだろう?」
少し迷ったあと、ゆっくりと頷いた。
前に〝どんなプレイングでも自信を持っていい〟と言ってしまったがあれは無責任な発言だったと認めざるを得ない。
それでも、このSWOプレイヤーの一人として、将来的に必ず詰んでしまうプレイングを認めるわけにはいかなかった。
「……一つ、訊いてもいいですか?」
「なんだい?」
「どうしてSWOでなければならないんですか?」
純粋な疑問。
「ユイナさんのPSなら、ほとんどのVRMMORPGでトッププレイヤーになれると思うのですが?」
それこそ、あの回避技術だ。アクション系のVRゲームなら無双状態なはずだ。
少なくともSWOほど、彼女に向いていないゲームも他にないだろう。
(あんなプレイングをしているようだし、SWOの醍醐味である召喚兵士を意のままに操る戦い方が好き、というわけでは無いみたいだ)
だとすると、ますますこのゲームに拘る理由が分からない。
「――……」
永遠とも思える視線の交錯。
「それは――」
遂に開かれた彼女の口元。
一文字一句聞き逃さまいと耳を傾けた――
その時。
背後から足音がする。
「……そろそろ、こっちにも気付いてもらって構わないか?」
声のした方へ振り向くと、剣を杖のように地面に突き刺した男が、疲れ切った顔で立ち尽くしていた。





