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第十三話 偵察任務

 

 昼過ぎ。


 馬車がシェルンの街を出発した。

 四頭もの大きな馬が、しっかりとした足取りで地面を踏みしめる。十人は乗れるであろう大型の馬車を牽くともなると、沢山の馬が必要となるようだ。

 駅馬車は二時間に一回、シェルンと周辺の街を往復しているらしい。

 馬車の中には長椅子が三列並んでおり、その最後列に腰掛けている。

 そして、最前列には見覚えのある顔が二人。


「おお、兄ちゃん」

「昨日ぶりだな」


 彼らは昨日、最初に囮とした馬車を護衛していたあの二人だ。

 あの後も数多くの人物とも出会っていたが、一番最初だったことで記憶に強く残っていた。


「ちゃんと約束は守ってるぜ」

「ああ、俺もだ」


 噂は聞かなかったので、嘘ではないのだろう。


「……もちろん信じていましたとも」

「おい、だったら何で目を逸らすんだよ」

「いえ、景色が綺麗だと思いまして」

「まだ、草原しか見えないだろうが!」


 一度、咳をついて仕切り直す。


「その件ですが、もう話して頂いても構いませんよ?」

「お、もういいのか?」

「ええ」


 レベリングを達成して、シェルンの街を離れることになったのだから、もう噂になっても問題ない。

 予定より早いが、ログアウトした時にでも自ら掲示板に晒しておくか。


(まあ、あの方法が大々的に認知されてしまえば、馬車を囮とする経験値稼ぎは意味をなさなくなるのだが……)


 それでも、情報を独占したという非難は多少なりとも躱せるだろう。


「そういや兄ちゃんのおかげか、午前中の仕事が楽だったぜ」

「ああ、いつもより襲撃が目に見えて少なかったな」

「それに関しては俺の影響ではないようですよ」

「ん?どういうことだ?」

「俺も直接この目で見たわけでは無いのですが――」


 ブッケル曹長から聞き及んだ話を説明する。


「――盗賊の拠点を襲撃ね……」

「……しかし、兄ちゃんといい、そいつといい最近の来訪者は生きがいいのが多いな」

「まあ、そのおかげかしばらくは仕事でも楽が出来そうだ」


 そこで、ある疑問が思い浮かんだ。


「……このまま、来訪者達が盗賊を狩り尽くす心配は無いのですか?」


 現状ですら、盗賊の絶対数が減っているようでは、後進組のプレイヤーにまで経験値が行き届かなくなる筈だ……


 すると、それは心底的外れな質問であったらしい。

 二人は顔を見合わせて笑い出した。


「はは、おかしなこと聞くんだな」

「今は乱世だぜ?……盗賊に身を落とすような人間は掃いて捨てるほど有り余っている」

「だから、例え来訪者が盗賊を狩り尽くしても、また何処からともなく湧き出てきて<ヘルンの森>に住み着くようになるだろうよ」


 二人は忌々しそうに吐き捨てる。


(なるほど、これは一時的な減少でしかないのか……)


 当然といえば当然である。

 彼らNPCの立場では忌々しい限りかもしれないが、プレイヤーからすれば貴重な経験値の供給源である盗賊が湧かなくなってはゲームが成り立たないしな。



 それからしばらく雑談をしていると、馬車が大きく揺れた。

 外に視線を向けると、どうやら丘を登っているらしい。


 そして、丘の頂上に辿り着いたとき、目的地であるヴェルツェルの街が一望できた。





 ヴェルツェルの街は東西に走る主要な街道の要衝にあり、石作りの城壁に囲まれていた。

 街を見下ろすように小山に建てられた城塞は、規模こそシェルン城に劣るものの堅牢さという面では負けてないように思われる。

 そして街の広場に到着すると、馬車が止まった。


「――やっと着いた」


 新天地に降り立ち、周囲を見回す。

 露店や建物の数そのものは、辺境都市であるのシェルンの街には及ばない。ただ最前線に近い事もあるせいか武装している人間が多い印象だ。

 未だほとんどのプレイヤーはこの街に到達していないので、行きかう人々は、皆NPC、いわゆる現地人ということになる。


(そう思うと、ゲームというより異世界に迷い込んだみたいだな)


 ファンタジー特有の雰囲気が強まったのを肌身で感じた。


 それからメニュー画面を開き、マップに目を通す。

 基本的な構造はシェルンと変わらないようだ。

 城塞へと続く道のりを把握し、そちらの方角へと足を向けた。








 城塞の訓練所に訪れると、中央に一人の男が立っていた。

 威風堂々とした初老の軍人。

 その鋭い眼光に引き締まった筋肉と全身から威圧感が溢れ出ている。

 そのことに若干の気後れを感じていると、此方に気付いた様子で相手の方から近寄ってきた。


「貴様は?」

「……シェルンから来ました来訪者のカイ・クライスです」


 アイテムボックスから、ブッケル曹長に書いてもらった紹介状を取り出した。

 彼は手紙を一読したあと、再び口を開く。


「なるほど、貴様が新たに派遣されてきた召喚士官というわけか」


 此方を見据えてくる。


「私がここ、ヴェルツェルを担当している教官の、ディルク・レヴィン少尉だ。ここでのクエストは私を介して受けることだな」

「早速ですが、クエストを確認しても?」


 レヴィン少尉が頷くと、目の前にクエストが表示された。



【盗賊討伐】

【報酬:3000G】

「ヴェルツェル周辺に存在する五体の盗賊を討伐」


【偵察任務】

【報酬:3000G】

「ラグハイム帝国との戦闘域付近にある森林奥地への偵察」


【護衛任務】

【報酬:3000G】

「最前線に向かう兵站の荷馬車隊を護衛」




 新しいクエストが追加されている。

 それに元々あったクエストにも内容に少しだけ変化がみえる。


(追加された【護衛任務】もどんなものなのか興味はあるが……)


「……今回は、【偵察任務】にします」


 シェルンに居たころは、狩場を独占できているうちに少しでも経験値を稼いでおこうと【盗賊討伐】以外のクエストは受諾しなかった。

 現在は、あの時よりも余裕があるし、一度【偵察任務】を受けてみてもいいだろう。


(……それにこれまでの自身の行動を振り返ると、どう見ても効率厨のそれだ)


 トッププレイヤーにはなりたいけど、効率だけを考えてプレイするのは幾ら何でも寂しすぎる。



「それで【偵察任務】って具体的には何をどうすればいいのですか?」

「マップに表示されているポイント地点まで往復してくればそれで完遂されたことになる」

「それだけですか?」


 想像していたより呆気ないクエスト内容に、思わず拍子抜けしてしまう。


「偵察兵が本職で無い召喚士官の貴様に専門的な要求はできないだろう」

「……確かにそうですね」


 偵察っと一言にいわれても、素人からすれば何を見て、どんな情報を持ちかえればいいのか分からない。

 頭のおかしい運営もそこまでの、PSプレイヤースキルを要求するつもりはないようだ。


「ん?となると【偵察任務】のクエストはボーナスゲームか?」


 ポイント地点まで往復するだけでいいとなると、おつかい以下のクエスト同然である。



「――貴様、そんな心構えでは戦死することになるぞ?」



 そんな楽観的に構えていた俺に、レヴィン少尉は聞き捨てならないこと告げたのだった。

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