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カスタムじじい  作者: サケ/坂石遊作
老兵復活
7/30

好敵手


(有り得ない……ッ!!)


 アリエが瞬時にそう思ったのは、若さゆえのプライドと、血反吐を吐くほどの経験が理由だった。


 絶対に有り得ない。

 スラスター・ブレードをこんな一瞬で使いこなせるわけがない。


 任意のタイミングで剣速を加速させられるスラスター・ブレードの性能はかなりのものだった。小柄な体格なら瞬間的に浮遊することもでき、戦いにも移動にも使える革新的な武器だ。


 ただし、その加速についていくための肉体は訓練でもなかなか手に入らず、スラスター・ブレードは扱いにくいという理由から、軍の標準装備には不採用という烙印が押されている。三度の改修が行われたことで多少マシにはなったが、まだ王国軍でこれを使いこなせるのはアリエとドーズの二人だけだ。


 統計が告げている。スラスター・ブレードは、一朝一夕で使いこなせるものではない。

 地獄のような訓練を経て、僅か一か月でこれを使いこなしてみせたアリエだからこそ断言する。


(このじじいは、スラスター・ブレードを使いこなしているわけではない……!!)


 現実の光景と矛盾する結論を、出さざるを得ない。

 エイガルは余裕綽々といった様子でアリエに近づき、スラスター・ブレードを振り回した。


 その無駄のない剣筋を実現するまで、私はどれだけ苦労したか――!!


 いけない、苛立ちは思考のノイズとなる。

 アリエは深呼吸して冷静さを取り戻した。


 高度な装備を使いこなすコツは、いつ何があっても冷静であり続けることだ。特機武装隊のソルジャーたちは冷静であることに長けている。


「ふーむ、今のはもう少し斜めに動かすつもりだったんじゃが……」


 エイガルはスラスター・ブレードをぶんぶんと振り回しながら、ブツブツと独り言を呟いていた。


「よし、こんなもんじゃな」


 こんなもんじゃな――?

 エイガルの呟きが、アリエの耳に強く刻まれる。


 どうして、使ったばかりの武器の()()を、このじじいは持っている。


 一度純粋な疑問を抱いたアリエは、あとはもう無意識にエイガルの言葉を素直に受け取った。


 ――この剣を持った儂は、大体、全盛期の一割程度じゃ。


 じじいのヒントを、アリエは思い出す。

 ただのほら吹きのように思える発言が、もしも真実だとしたら――。


(まさか……昔は自力でやっていたとでも? あの動きを……!?)


 目にも留まらぬ加速を。

 空中で剣の軌道を変えることを。

 生身でやっていた?


 だとしたら、エイガル=クラウスにとって、特機武装隊が生み出す装備とは――。


 できなかったことを、できるようにするものではなく。

 昔できていたことを、もう一度できるようにするもの。


(ば、化け物――ッ!!)


 アリエの全身から冷や汗が吹き出た。

 にわかには信じがたいが、それしかない。


 エイガルが、アリエの動きを模倣できた理由は――昔やったことがあるからだ。


「そいっ」


「ふぎゃんっ!?」


 放心するアリエの頭上に、エイガルがスラスター・ブレードの腹をこつんとぶつけた。


「考えろとは言ったが、考えすぎじゃ」


 ほっほっほ、とエイガルは嬉しそうに笑う。


「取り合えず、殿下の目が節穴でないことくらいは証明できたかのぉ」


 元・伝説の老兵は、暢気に髭を撫でた。



 ◆




「試合終了。……どうでしたか、エイガル様?」


 マーセリアは試合の行方なんてどうでもいいと言わんばかりに、終了の合図を告げた途端、エイガルの方へ走り寄った。


「うーむ、懐かしい気分だったぞ。あの剣速、あの体幹……蘇ったと思うと嬉しいのぉ」


 エイガルはアリエを一瞥しながら言う。

 アリエは叩かれた頭を押さえながら、青褪めた顔でエイガルを見つめていた。


 どうやら彼女も気づいたようだ。

 今のところ、エイガルにとって装備を身につけるという行為は、新しい技術の習得にはならず、過去の技を取り戻すことになる。従って、装備の操作こそ慣れが必要だが、動き自体は慣れなくていい。過去の自分がやっていた動きなのだから、最初から身体が覚えている。


 伝説の老兵という肩書きは伊達ではない。かつては己の肉体一つで海を割り、山を抉った男だ。進化を重ねた現代のテクノロジーでも、全盛期のエイガルに追いつくのは難しい。


 いつかは訪れるだろう。装備の性能が向上し、エイガルの全盛期を超える時代が。

 だが、まだその時ではない。


 その時までは――あらゆる装備がエイガルに従属する。

 エイガルにとって、装備とは過去だ。

 今は、まだ。


「ウィーク・サーチャーは使えそうですか?」


「うむ、これも懐かしい。全盛期の儂は、一目見るだけで相手の弱点が分かったからのぉ。久々にその気分を味わえた」


 目元に嵌めていたウィーク・サーチャーを外しながら、エイガルは言う。


 だがマーセリアは喜ぶところか、今エイガルが放った「気分」という一言に引っ掛かりを覚えていた。


 そろそろ認めねばならない。

 マーセリアは、王女である以前にメカニックだ。本質が技術屋に寄っている。


「改善点を教えていただけますか?」


「やはり、目元を覆う形状が気になるのぉ。外れたらどうしよう? という疑問を持ちながら戦うのは面倒じゃ」


「外れないよう設計しているつもりですが……」


「実際には外れないとしても、外れそうな感触が気になる、という話じゃな」


「なるほど、感触が課題……性能との両立が難しかったので人間工学は無視せざるを得ませんでしたが、やはり両立は必須ですね。となると、量産が難しくて断念したレンズ型の計画を……」


 即座に代案が思う浮かぶあたり、これまでの積み重ねが窺える。

 ふと周りを見ると、いつの間にかメカニックたちが集まっていた。先程の試合を見学していたのだろう。


 メカニックたちは、そわそわしながらマーセリアを見つめていた。まるで、さっさと自分の意見を聞いてくれないかと言わんばかりの眼差しで……。

 そして、その目に一抹の悔しさも込めて……。


「……ふはっ!!」


 そうか、そうか、そうか――――!!

 メカニックたちには最初から好印象を抱いていたが、今、その理由を再認識する。


 彼らは、過去のエイガルと戦っているのだ。

 全盛期のエイガルを、技術で凌駕したい。そんな彼らの強い意志を感じ、エイガルは己が血湧き肉躍ることを自覚した。


 まさか、この歳になって血湧き肉躍るライバルが現れるとは――。


 いつか、技術に追い越される時代が来るとは思っていたが、もしかすると想像より早く訪れるかもしれない。


 ブツブツと何かを呟き、思考に没頭しているマーセリアを見ていると、そう思わずにはいられないエイガルだった。



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