全盛期の一割
エイガルとアリエは、訓練室の中央で対峙した。
互いに身につけた装備は三つ。破壊力が持ち味のスラスター・ブレードⅢ式、物体の脆い部分を見極めるウィーク・サーチャー、姿勢制御を補助する汎用バランサーだ。
条件は同じだが、マーセリアが口にしていたカスタム・ソルジャー理論によれば、装備以外にも大きな要素が一つだけある。
それは、ソルジャー自身のスペックだ。
「エイガルさん。失礼ですが、無謀です」
スラスター・ブレードを構えるエイガルに、ドーズは近づいて忠告した。
「スラスター・ブレードは挙動を掴むことが非常に難しい武器です。慣らすには、バランサーをつけた上で三ヶ月を要するとされています」
ドーズはアリエの方を一瞥する。
「しかも、相手はあのアリエ……スラスター・ブレードを僅か一ヶ月で使いこなした天才です。はっきり言って勝ち目が――」
「ドーズ」
エイガルが力強く名を呼ぶと、ドーズは言葉を止めた。
「儂はな、老いてさえいなければ、今も戦場にいたと思うんじゃ」
「……はぁ」
「老いることで弱くなった。弱い自分が若者の上に立つことが許せなくなった。だから隠居したんじゃよ」
ドーズは再び「はぁ」と、よく分かっていなさそうな相槌を打った。
「だが殿下は言ってくれた。この時代のてくのろじーなら、儂の老いを補えると」
エイガルは不敵に笑う。
あの時、朽ちるしかなかったエイガルに向かって、マーセリアは宣言してみせた。
貴方を蘇らせてみせましょう――と。
「儂の全盛を、取り戻せると」
マーセリアを横目に見ながら、エイガルは剣を構え直す。
双方の準備が整ったところで、マーセリアは合図を告げた。
「――開始!!」
試合が始まった直後、アリエが瞬く間に肉薄してくる。
純粋な身体能力ではあり得ない速度だ。見れば、アリエは剣のトリガーを引き、刀身から噴射した気流の反動で加速していた。
(ふむ、そんな使い方もできるのか)
ウィーク・サーチャー越しにアリエの動きを見たエイガルが感心する。
すれ違いざまに振り抜かれた一閃を避けた。だがアリエは、このまますれ違うのではなく――。
「ぜぇあッ!!」
「むっ」
アリエは瞬時にスラスターを斜め下に向け、トリガーを引く。
一瞬、空中で停滞したアリエの身体は、次の瞬間ぐるりと翻り、エイガルへ回転斬りを放った。
予想外の二太刀目。
死角から迫る斬撃を、エイガルは――淡々と鍔で受け止めた。
「止めたっ!?」
今のを止められるとは思っていなかったのか、アリエは驚きながら後退する。
目を見開いたアリエに向かって、エイガルは笑って言った。
「いい疑問じゃな」
「……?」
「そのまま考えるべきじゃ。何故、儂がお主の攻撃を止められたのか」
エイガルはスラスター・ブレードを横に構える。
「何故、儂にこの動きができるのか」
エイガルはスラスター・ブレードのトリガーを引き絞る。
先程アリエがやってみせた動きの見様見真似。スラスター・ブレードの噴流によって、エイガルは加速した。
「は?」
目にも留まらぬ速さで迫ったエイガルに、アリエは防御よりも驚愕を優先してしまった。
それでもエイガルの一閃を紙一重で避けられたのは、アリエの戦士としての才能だろう。
だが、エイガルの攻撃はまだ続く。
先程のアリエのように――。
「確か――」
エイガルはスラスターの向きを変え、トリガーを絞り続ける。
バランサーが作動した。空中で自動的に重心が安定し、エイガルに思考の余裕を与える。
「――こうじゃったな」
アリエと同じように、空中で方向転換しながら回転斬りを放つ。脳内のイメージと、身体の挙動が完全に一致していた。
立て続けに技を真似されたアリエは、今度こそ回避の余裕を失い、咄嗟に剣を盾代わりにした防御した。
「ぐうッ!?」
激しい金属の衝突音と共に、アリエが吹っ飛ばされる。
悠々とその場に立ったエイガルは、スラスター・ブレードを軽々と振り回した。
(まったく……殿下は儂を買いかぶりすぎじゃな)
エイガルは察した。
何故、己が特機武装隊に招かれたのかを。
マーセリアが、エイガルにどんな役回りを期待しているのかを。
あとは、アリエが気づくかどうか――。
「ヒントを出してやろう」
顔面蒼白となったアリエに向かって、エイガルは言う。
「この剣を持った儂は、大体、全盛期の一割程度じゃ」




