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カスタムじじい  作者: サケ/坂石遊作
老兵復活
6/30

全盛期の一割


 エイガルとアリエは、訓練室の中央で対峙した。

 互いに身につけた装備は三つ。破壊力が持ち味のスラスター・ブレードⅢ式、物体の脆い部分を見極めるウィーク・サーチャー、姿勢制御を補助する汎用バランサーだ。


 条件は同じだが、マーセリアが口にしていたカスタム・ソルジャー理論によれば、装備以外にも大きな要素が一つだけある。


 それは、ソルジャー自身のスペックだ。


「エイガルさん。失礼ですが、無謀です」


 スラスター・ブレードを構えるエイガルに、ドーズは近づいて忠告した。


「スラスター・ブレードは挙動を掴むことが非常に難しい武器です。慣らすには、バランサーをつけた上で三ヶ月を要するとされています」


 ドーズはアリエの方を一瞥する。


「しかも、相手はあのアリエ……スラスター・ブレードを僅か一ヶ月で使いこなした天才です。はっきり言って勝ち目が――」


「ドーズ」


 エイガルが力強く名を呼ぶと、ドーズは言葉を止めた。


「儂はな、老いてさえいなければ、今も戦場にいたと思うんじゃ」


「……はぁ」


「老いることで弱くなった。弱い自分が若者の上に立つことが許せなくなった。だから隠居したんじゃよ」


 ドーズは再び「はぁ」と、よく分かっていなさそうな相槌を打った。


「だが殿下は言ってくれた。この時代のてくのろじーなら、儂の老いを補えると」


 エイガルは不敵に笑う。

 あの時、朽ちるしかなかったエイガルに向かって、マーセリアは宣言してみせた。

 貴方を蘇らせてみせましょう――と。


「儂の全盛を、()()()()()と」


 マーセリアを横目に見ながら、エイガルは剣を構え直す。

 双方の準備が整ったところで、マーセリアは合図を告げた。


「――開始!!」


 試合が始まった直後、アリエが瞬く間に肉薄してくる。

 純粋な身体能力ではあり得ない速度だ。見れば、アリエは剣のトリガーを引き、刀身から噴射した気流の反動で加速していた。


(ふむ、そんな使い方もできるのか)


 ウィーク・サーチャー越しにアリエの動きを見たエイガルが感心する。

 すれ違いざまに振り抜かれた一閃を避けた。だがアリエは、このまますれ違うのではなく――。


「ぜぇあッ!!」


「むっ」


 アリエは瞬時にスラスターを斜め下に向け、トリガーを引く。

 一瞬、空中で停滞したアリエの身体は、次の瞬間ぐるりと翻り、エイガルへ回転斬りを放った。


 予想外の二太刀目。

 死角から迫る斬撃を、エイガルは――淡々と鍔で受け止めた。


「止めたっ!?」


 今のを止められるとは思っていなかったのか、アリエは驚きながら後退する。


 目を見開いたアリエに向かって、エイガルは笑って言った。


「いい疑問じゃな」


「……?」


「そのまま考えるべきじゃ。何故、儂がお主の攻撃を止められたのか」


 エイガルはスラスター・ブレードを横に構える。


「何故、儂にこの動きができるのか」


 エイガルはスラスター・ブレードのトリガーを引き絞る。

 先程アリエがやってみせた動きの見様見真似。スラスター・ブレードの噴流によって、エイガルは加速した。


「は?」


 目にも留まらぬ速さで迫ったエイガルに、アリエは防御よりも驚愕を優先してしまった。


 それでもエイガルの一閃を紙一重で避けられたのは、アリエの戦士としての才能だろう。


 だが、エイガルの攻撃はまだ続く。

 先程のアリエのように――。


「確か――」


 エイガルはスラスターの向きを変え、トリガーを絞り続ける。

 バランサーが作動した。空中で自動的に重心が安定し、エイガルに思考の余裕を与える。


「――こうじゃったな」


 アリエと同じように、空中で方向転換しながら回転斬りを放つ。脳内のイメージと、身体の挙動が完全に一致していた。


 立て続けに技を真似されたアリエは、今度こそ回避の余裕を失い、咄嗟に剣を盾代わりにした防御した。


「ぐうッ!?」


 激しい金属の衝突音と共に、アリエが吹っ飛ばされる。

 悠々とその場に立ったエイガルは、スラスター・ブレードを軽々と振り回した。


(まったく……殿下は儂を買いかぶりすぎじゃな)


 エイガルは察した。

 何故、己が特機武装隊に招かれたのかを。

 マーセリアが、エイガルにどんな役回りを期待しているのかを。

 あとは、アリエが気づくかどうか――。


「ヒントを出してやろう」


 顔面蒼白となったアリエに向かって、エイガルは言う。


「この剣を持った儂は、大体、全盛期の一割程度じゃ」


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