エピローグ
作戦開始から三日が過ぎた頃。
マーセリアがルーベ地方に到着し、療養中のエイガルたちと合流して、砦の跡地へ向かった。
ボロボロになった地下空間に、エイガルたち四人は降りる。途中、何度も足を踏み外してしまったマーセリアを、エイガルは傍で支えた。
天井に空いた大穴から、陽光が降り注ぐ。
地下空間の全貌を見たマーセリアは、満足気に頷いた。
「作戦成功ですね」
漆黒のタイタンは地上の砦ごと粉砕し、帝国方面へ飛び去ったらしい。瓦礫の雨が降り注いだが、それでもこの地下空間は、完全には破壊されていなかった。
壁際に並べられた未知の装置を見て、マーセリアは目を輝かせる。
ルーベ地方で行われた作戦の目的は、タイタンの情報を入手することだ。理想はタイタンの拿捕だったが、情報が得られた時点で作戦は成功と言えるだろう。
この地下空間は、タイタンの情報の宝庫である。
エイガルたちにはよく分からなくても、マーセリアのような技術者にとっては価値あるものらしい。
(無事に生き残ってよかったわい)
興奮するマーセリアの背中を見て、エイガルはそう思う。あれほど瓦礫が降り注いだ中、エイガルたち三人が全員無事だったのは奇跡に等しい。エイガルはストーム・バスターで瓦礫を破壊し、アリエとドーズは新装備であるハイスラスター・アサルトランスの内側に隠れて難を逃れてみせた。
「……やはり、ステラ・エーテルでしたか」
ボソリと独り言を呟くマーセリアに、エイガルが首を傾げた。
「何が分かったんじゃ?」
「順を追って説明しましょう」
マーセリアの瞳が星の如くキラキラしていた。
語りたいらしい。
「何故、帝国はタイタンを何度も実戦投入しないのか。私はその理由が、動力不足にあると仮定していました。なにせあれだけの質量ですから、通常のエーテル粒子では足りないのではないかと」
「ふむ……」
「つまり、帝国はより高濃度のエーテル粒子を探しているのではないかと思ったのです。それが、ステラ・エーテル。星のエーテル粒子です」
「星の?」
マーセリアは深く頷く。
「地脈、霊脈、龍脈。様々な呼び名がある、大地を循環するエネルギー。それがステラ・エーテルです。通常のエーテル粒子と違って、ステラ・エーテルは地中に流れています」
マーセリアは足元の地面を指さして説明する。
「この地下空間は、ステラ・エーテルを地中から汲み上げるための施設です。しかしその装置に帝国の技術は使われていない。恐らく、この空間を造ったのは古代人で、帝国はそれを利用していただけなのでしょう」
概ね、エイガルが予想していた通りだったらしい。
やはりこの空間自体がオーパーツのようだ。
「資料は全て廃棄済みのようです。元々この設備は放棄する予定だったのでしょう。……しかし、これだけ装置が残っているなら、私が必ず解析してみせます」
童心を全開にしていたマーセリアは、その目に使命感を燃やした。
王国の技術者として、ここを戦場だと捉えたようだ。
その姿を見て、エイガルの胸がちくりと痛む。
「……不甲斐ないのぅ」
エイガルは胸中の後ろめたさを吐露した。
「殿下がこれほど頼もしいというのに、儂ときたら……タイタンを逃がしたことが悔やまれるわい」
悔しそうにエイガルが言う。
その背中を、二人の若い兵士が呆れた目で見た。
「話を聞いた限り、タイタンを生身で止めるのは不可能ではないでしょうか?」
「化け物おじいちゃんでも無理ありますって」
でも全盛期なら止められた気するんじゃよなぁ……。
そう思ったエイガルだが、これ以上化け物呼ばわりされるのは悲しいので黙っておいた。
「エイガル様。もしかしたら勘違いしているかもしれませんが」
マーセリアが前置きした上で告げる。
「私の目的は、タイタンの利用ではありません」
「……そうなのか?」
「私は特機武装隊・技術班主任のマーセリア=リヒテイル。その職掌は考古学者ではなく、武器を開発することです」
その肩書きが指す、マーセリアの目的とは――。
「タイタンは私が造ります。そして貴方は、私が造ったタイタンに乗るのです」
決意を帯びた鋭い瞳に射貫かれ、エイガルは口を噤んだ。
「初めて会った時から何度も言っているはずです。私は貴方をカスタムしたいと」
貴方の装備は私が造るのだという、マーセリアの強い意志を感じた。
揺らぐことのない瞳を前に、エイガルは思わず噴き出す。
「ふはっ――ふはははははははっ!! そうか!! そうじゃったな!! 殿下は最初からずっとそう言っておったわ!!」
マーセリアは、想像よりも更に頼もしい少女だった。
彼女がいる限り、自分たちの心が折れることはないだろう。
(ばばあ……待っておれ)
儂が必ず、お前を倒す。
かつてのライバルに、エイガルは心の中で誓った。
若者に敗北するならともかく、同じ老兵に敗北するわけにはいかない。この枯れ果てた老体を踏み台にして羽ばたくのは、未来を宿す若者でなくてはならない。
いつだって世界の主役は若者である。マーセリアのような、アリエのような、ドーズのような、或いは赤獅子のような、未来と希望を兼ね備えた者が中心となる。
老兵は端役なのだ。未来ある若者たちの世界にしゃしゃり出てはならない。
古びた戦士の禍根は、古びた戦士の間だけで済ませてみせる。
目には目を、歯には歯を。
異物には、異物を。
カスタムばばあには、カスタムじじいを――。
ばばあを殺すのは、じじいの役目だ。
「殿下よ。儂に最高の機体をくれ」
「お任せください。貴方を最高のパイロットにしてみます」
斯くして、時代は移ろう。
勇者と魔王の時代が過ぎ、エーテル技術による新時代が築かれたように。戦乱の世は、人々の生活が豊かになる暇もなく、更なる時代の幕を上げる。
古代兵器タイタン。
その五体目が、産声を上げる日は近い。
続きの構想は色々考えていましたが、現状の数字を鑑みて、ひとまずここで完結とさせていただきます。
個人的にはとても面白く書けた作品です。
いや~~、web小説は難しいな~~。
最近は流行に乗ることより、自分の世界観を出すことを意識していますが、作品を発表する度に反省すべき点が見つかり、未熟を痛感する日々です。
これからも色んな作品を書いていきますので、よろしければ応援お願いします。




