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カスタムじじい  作者: サケ/坂石遊作
オーパーツ
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魔嵐機構


 赤獅子は二本の魔剣を巧みに使い分けていた。

 一本目は魔光剣。光の斬撃を放つことができる剣である。魔剣の中でも扱いらしい類いらしく、エイガルもそろそろ魔光剣の方は見慣れてきた。


 問題は、二本目の剣。

 その剣は異様に刀身が薄く、それゆえ振りが速かった。時折織り交ぜられる神速の一太刀に、エイガルは苦戦する。


「帝国の刃を恐れよ」


 赤獅子が唱えた。

 直感で身体を動かしたエイガルの耳元に、ヒュッという音が届く。

 目にも留まらぬ刃が、薄皮一枚先を通り抜けていた。


「ありえん速度じゃ。どうなっとる」


「魔刃閃って言うんだ。慣性質量とか加速度とか色々弄ってるらしいぜ」


 赤獅子も詳しい理屈は知らないのだろう。

 エイガルも赤獅子も、兵士であって技術者ではない。だがその背には技術者の想いが乗っていた。


 これは代理戦争でもある。

 マーセリアと、帝国のメカニック。どちらの技術が優れているのか。


「帝国の刃を恐れよ」


 再び、神速の太刀が迫る。

 エイガルがそれを紙一重で避けると、赤獅子は双眸の鋭さを増した。


「俺の体勢から太刀筋を見切ってんのか。……見えねぇ刃を、よくそこまで避けられるな」


「じじいの取り柄は経験だけじゃからな」


 その経験をもってしても、神速の太刀を避け続けるのは賭けに近い。

 だが赤獅子は魔刃閃を連発してこなかった。魔光剣と比べて無茶な使い方がしづらい武器なのかもしれない。 


「敬意を払うぜ」


 赤獅子が魔光剣に持ち替え、エイガルに接近する。

 剣と拳の激しい打ち合いが始まった。幾重にも火花が散り、地面には亀裂が走る。コングスーツで膂力を底上げしているエイガルに対し、赤獅子は力でも負けていなかった。


 赤獅子がやっているのは、魔力による肉体活性。

 それはエイガルが老いる前、最も得意としていた技だった。己が失ってしまったものを、この男は当たり前のように使っている。


 若さは力だ。

 それだけで強い。


 だが、この戦いは儂が勝つ――。

 赤獅子の篭手を潰した。太腿を薄皮一枚くれてやる代わりに、胸当てを陥没させる。趨勢はエイガルに傾きつつあった。


 刹那――エイガルの脳が警鐘を鳴らした。

 慌てて後退するエイガルの脇腹を、魔刃閃が斬り裂く。


「く……ッ!?」


 激痛を堪えながら、エイガルは赤獅子と距離を取った。

 構えを解かないエイガルを見て、赤獅子は迂闊に追撃してこない。


 今の一撃――何故、避けられなかった。

 油断はしていない。勝負を急いでもいない。不意を突かれたわけでもなく、奥の手を使われたわけでもなさそうだ。


 間合いを測り間違えたのか?

 何故、そんな初歩的な失敗を…………。


「……魔獣の手応えか」


「アンタ、ほんとに勘が鋭いな」


 赤獅子は感心した目でエイガルを見る。


「勇者と魔王の時代に活躍した戦士は、人間よりも魔獣と戦い慣れてるからな。手応えが魔獣だと、脳が無意識に魔獣と戦うモードに入っちまう」


 トントン、と自身の頭を指で突きながら赤獅子は言う。


「俺が身につけてる装備は、全て魔獣由来のもんだ」


 だから、それらを殴った時、脳が魔獣と戦っている状態だと錯覚してしまったのか。


 エイガルは赤獅子の実力に舌を巻く。用意周到もここまで極まれば見事なり。伊達に世代交代の象徴と呼ばれていないようだ。


 この男はエイガルのような旧時代の戦士を屠り続けてきたのだろう。その経験に基づいて、エイガルに効果的な戦術を組み立てている。


 ひょっとしたら、赤獅子という異名すら、その用意周到さをカモフラージュするためのブラフなのではないか。


 そんなエイガルの予想は――外れた。


「帝国の剣を見よ!!」


 赤獅子が剣を掲げる。

 真紅の光が辺り一帯を照らした。まるで業火に包まれたかのような光景に、エイガルは身構える。


「今更だが、俺も赤獅子って名は好きじゃねぇんだ。……生まれつき魔力が多くてな。そいつを全力で魔剣にぶち込むと、何故か赤色に染まる」


 赤い光を放ちながら、赤獅子は不敵な笑みを浮かべた。


「悪いな、獣とは程遠くて。周りが勝手につけた名前だからよ」


「……気にするな。大抵の異名とはそういうもんじゃ」


 それこそ、魔狩りのような罪深い異名でもない限りは。


 赤獅子が剣を振り下ろす。

 瞬間、エイガルの視界は真っ赤に染まった。まるで星が降ってくるかのような、この世の終わりを彷彿とさせる光景だ。


 無論、避けられない。ただでさえ脇腹が痛む。

 ならば――迎え撃つのみ。


「ぬぅぅぅん――ッ!!」


 真紅の星に向かって、銀色の拳を突き出した。

 これは技術者たちの代理戦争でもある。その自覚が、エイガルの拳を重くした。


 ストーム・フィストが、赤い斬撃に触れる。

 ゴウッ、と嵐が吹き荒れ――斬撃が消えた。


「…………は?」


 赤獅子が目を見開く。

 星の如き斬撃は、エイガルの拳によって一瞬で消し飛んだ。


「なんじゃ? また小物の演技か?」


「……ざけんな。さっきとは威力が違う」


 今度こそ、赤獅子は本気で焦っているようだった。


「気になるなら、試せばいいじゃろ」


 赤獅子は警戒心を露わにしながら、再び剣を掲げる。

 帝国の剣を見よ。赤獅子が静かにそう唱えると、真紅の斬撃が飛んできた。


 何度見ても恐ろしい攻撃だ。大火を前に尻込みしてしまう時のような、本能的な恐怖を感じる。


 だが、エイガルは信じた。

 己の両腕に装着された、銀色の拳を。


「ぬぅぅぅぅぅぅん――ッ!!」


 嵐の拳が、真紅の斬撃を突き抜く。

 その現実を、赤獅子は冷静に観察していた。


「…………魔剣の力が、消えてる?」


「正解じゃ」


 エイガルには劣るものの、赤獅子も場数を踏んでいる。

 だから理解できたのだろう。

 エイガルの拳は、真紅の斬撃を殴り飛ばしたのではなく、掻き消していた。


 ――螺旋式吸収機構。


 それが、ストームシリーズに搭載された、大気中のエーテル粒子を最高効率で吸収する機能である。


 だがこれは始まりの一歩に過ぎない。

 マーセリアが思い描く構想には、その先があった。


 ストーム・フィストに搭載された機能は、螺旋式吸収機構の応用版。大気中のエーテル粒子を無造作に吸引し、意図的に掻き乱すことで、接触したエーテル粒子を無効化する。


 どんなエーテル技術だろうと、どんな魔法だろうと。

 この拳は――全てを無に帰す。


魔嵐機構(テンペスト・システム)。それが、ストームシリーズの中核とのことじゃ」


 嵐とは、そこにある全てを巻き込むもの。

 奪い、渦巻き、唸らせ、掻き消し、吹き飛ばす。

 それらを可能にするのが、ストームシリーズのコンセプトだ。螺旋式吸収機構も、この魔嵐機構(テンペスト・システム)の一つに過ぎない。


「殿下はこう言っておったよ。――ストームシリーズは、全てのエーテル技術を後にすると」


 エーテル技術で造られた、エーテル技術を殺す力。

 マーセリアは技術者を志した時から、ずっと予感していたのだ。いつかエーテル技術で戦争を行う時が来ると。


 だから、天敵を生み出した。

 勇者と魔王の時代を過去にした、エーテル技術。それすらも過去にする、アンチ・エーテル技術を。


「赤獅子よ」


 エイガルは両足から青白い閃光を放ち、赤獅子へ接近した。

 迫り来る真紅の斬撃を拳で掻き消す。嵐は人の手如きで止められるものではない。


 赤獅子に肉薄した刹那、刃が閃いた。

 魔刃閃。目にも留まらぬ神速の一太刀を、エイガルは拳で砕く。


「ッ!?」


 エーテル粒子によって加速している刃なら、この拳を振るうだけでただの棒きれになる。太刀筋さえ読めれば、後はそこに拳を置くだけでいい。


 砕いた刃が、視界を横切る。

 赤獅子は刃を見ていた。

 エイガルは赤獅子を見ていた。


「今度こそ――歯を食いしばれ」


 銀の拳が、赤獅子を打ち抜いた。



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