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カスタムじじい  作者: サケ/坂石遊作
オーパーツ
26/30

非合理の浪漫


 長い階段を降りた先で、エイガルは驚愕した。


「なんじゃ、ここは」


 眼前に広がるのは巨大な地下空間だった。床も壁も真っ平らに舗装されており、天井からは眩い明かりが降り注いでいる。壁際には見たことのない装置が幾つも置かれていた。遠くに見えるのは、地上と繋がる昇降機だろうか?


 特機武装隊の研究室を思い出す。だがそれよりも遥かに高度な技術がここには結集していた。


 帝国のものではない。何故かエイガルはそう思った。

 エイガルは今まで数々の先端技術に触れてきた。だからこそ直感する。ここにある技術は、今を生きる人間が作ったものではない。これらはあまりにも現代の価値観から逸脱した姿形をしている。


 特に気になるのが、年季の入り方。

 いずれも高度な装置に違いないはずだが、古びている。最新の技術だというのに、最近作られたものではないという矛盾があった。


 遥か昔に生み出された、高度な文明。

 エイガルはその存在を知っている。


「……オーパーツか」


 ここが、この空間そのものが、古代の遺物。

 この作戦には大いなる意義があると確信したエイガルたちは、正面に帝国兵の姿を見た。


「雑兵ですね」


 ドーズの呟きに、エイガルは「うむ」と頷いた。

 地上で交戦した兵士と比べると、見るからに練度が低い。やはり敵をここまで入れるつもりはなかったのだろう。


 だが、こちらも各々が体力を消耗している。

 どうしたものか……とエイガルが悩んでいると、その背後でドーズとアリエが互いに顔を見合わせ、頷いた。


「エイガル」


「自分たちが残ります」


 若者たちの提案に、エイガルは少し考える。


「儂としては、若い二人に手柄を譲りたいんじゃが……」


「言ってる場合ですか」


「手柄は自分で勝手に作ります」


 逞しくなったのぉ……。

 二人の成長速度にエイガルが感動していると、敵が近づいてきた。


「任せたぞ」


 エイガルはスラスター・シューズを起動する。

 青白い閃光と共に高く跳んだエイガルに、帝国兵たちは驚愕の声を零した。


 残されたアリエとドーズは、呼吸を整える。

 お互い、既に満身創痍であることを察していた。先程のエイガルを送り出す発言も、共に虚勢だった。


「自分に、悔いはない」


 ドーズは告げる。


「今回の作戦、自分は充分すぎるほどの武功を得た。……やり残したことはもうない。アリエは隙を窺って逃げろ」


 虚勢に虚勢を重ねたドーズだが、故郷にいる祖母を蔑ろにしているわけではなかった。ただ、今ばかりは、華々しく羽化したアリエに未来を譲ってやりたい気持ちが勝る。


「逃げる? そんな必要ありません」


 ドーズの虚勢を、アリエは一笑に付した。


「私が全部倒せばいいんですから」


 死期を悟った者の、士気を保つための言葉。

 ドーズはそう思ったが、アリエが背中から取り出した装備を見て疑問を抱く。


「……それは、ジャベリンではないのか?」


「殿下に特注で作ってもらいました。突貫だったのでジャベリンのガワを再利用していますが、中身は別物です」


 ジャベリンの形状は、柄が膨らんでいる銀色の槍だ。膨らんだ部分に爆発を起こす機構が仕込まれている。


 アリエが柄を捻ると、ガシャン! と外側の機構が羽のように開き、五つの穴が開いた。こんな機能、本来のジャベリンにはない。開いた五つの穴は、何かの差し込み口のように見えた。


「殿下は私に言いました。……合理性の先には浪漫がある。しかし同時に、非合理の先にも浪漫がある」


 アリエは五つのスラスター・ダガーを手に取り、銀色の筒に差し込んだ。 

 更に、スラスター・シューズの靴底から推進装置を取り外し、筒の根元に取り付ける。


「もし私が、非合理の先にある浪漫を求めるなら…………同じ志の仲間として、応えてみせると」


 得手不得手は把握していた。自身が、膂力と引き換えに素早さに恵まれた戦士であることを、アリエは受け入れている。


 けれど、それでも、やっぱり――力で勝ちたい。

 この想いが浪漫だと言うならば、アリエとマーセリアは同類なのだろう。非合理を追い求めてしまったアリエの業に、マーセリアは応えてみせると約束してくれた。


 手に入れたのは、アリエだけの特注武器。

 スラスター・ダガー、スラスター・シューズ。それぞれのスラスター機構を、ジャベリンの基幹部に組み込むことで完成する、推進力に特化した大槍。


「三機合体」


 生まれ落ちた武器を手に、アリエは敵を見据えた。


「ハイスラスター・アサルトランス」


 それは槍と傘を一体化させたような見た目だった。

 アリエはトリガーを力強く引き絞る。アサルトランスに取り付けた全てのスラスター機構が唸り出した。徐々に激しく大気が振動する。


「――――突撃します」


 轟音と共に、アリエは帝国兵たちへと迫った。


「な――」


「避け――」


 喋る間もなく、帝国兵たちが蹴散らされる。

 凄まじい威力だ。アリエが突撃した直線上には何も残っていない。地面は派手に抉れ、帝国兵たちは消し飛んでいる。


 目の前にある全てを破壊したアリエは、スラスターをオフにして立ち止まり、討ち漏らした帝国兵たちへ槍を向けた。そして再びトリガーを引き絞る。


「あ、焦るな!! 敵は真っ直ぐにしか進めないぞ!!」


 帝国兵が大きな声で言う。

 仮に真っ直ぐにしか進めなかったとして、果たして対応できる速度なのか……。


 アリエが再び突進する。

 帝国兵たちの目に、恐怖の色が宿った。


「うおオォオォォォ――ッ!?」


 その速度を見て、逃げることを諦めた帝国兵は、エーテルガンでの迎撃を試みた。だが放たれた弾丸は全て、大槍の傘の部分に弾かれる。


 帝国兵の身体が、無惨にも宙高くへ弾かれる。

 止められない突進。これほど恐ろしいものはない。


「来い!! 小娘――ッ!!」


 生き残っていた帝国兵が、剣を構えながらアリエを睨んだ。

 アリエはすぐにその帝国兵へと槍を向け、突進する。


(――マズい)


 ドーズは咄嗟に悟った。あの帝国兵は手練れだ。

 暴力の化身とも言える今のアリエを、帝国兵は冷静な目つきで観察している。その帝国兵はさながら闘牛士の如く、アリエの突進を紙一重で回避してみせた。


「油断したなァ!!」


 帝国兵は剣をアサルトランスの内側に差し込んだ。

 斬られる。ドーズがそう思った刹那――アリエが獰猛な笑みを浮かべた。


「してません」


 アリエが素早くトリガーをタップする。

 右半分のスラスターだけがオフになり、アサルトランスが急旋回した。


「は?」


 帝国兵の疑問が、ドーズにはよく分かった。

 その質量、その速度で、まさか――――曲がるのか?


「さようなら」


 鉄の猪が、帝国兵を轢く。

 アリエの暴れっぷりを目の当たりにしたドーズは、ここが戦場であることを忘れてしまいそうなくらい驚愕していた。


 あれはもはや、槍と呼べる代物ではない。突き刺すのではなく、轢き殺すための質量兵器だ。


 破壊だけを目的としたその兵器は、きっと小柄な人間にしか使えないのだろう。体重があると槍の速度が落ちる。図体がでかいと傘から身体がはみ出て迎撃されてしまう。


 マーセリアが、アリエのためだけに考えた装備だ。


(ズルい)


 蹴散らされた帝国兵たちを一瞥して、ドーズは思った。

 今度、自分も専用装備を作ってもらおう。



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