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カスタムじじい  作者: サケ/坂石遊作
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23/30

作戦開始


 ルーベ地方の砦に配属された新米帝国兵たちは、とにかく退屈で、やり甲斐のない日々を過ごしていた。


「……暇だな」


「……ああ」


 武功を求めていた彼らは、「いずれ激戦区になる可能性がある」という上司の言葉を信じ、この砦への配属を志願した。だが現実は、待てども待てども穏やかな風が頬を撫でるだけで、敵の姿なんか見えもしない。


 そもそも冷静に考えれば、このルーベ地方に砦を建てる理由は何なのか。とても戦術的価値があるようには見えない。もしかすると、ここはその価値を見抜けなかった間抜けな軍人たちの掃き溜めとして作られた場所ではないかとすら思えてくる。


「やっぱり俺たち、人生設計ミスったのかな」


「そんなことないはずだ。なにせこの砦の責任者はアルバート少将だぞ」


「赤獅子に並ぶ、帝国の英雄か。……俺もそう思って志願したんだけどな」


 赤獅子が戦士としての英雄なら、アルバートは知将としての英雄である。王族であるため前線に出ることはないが、その軍略で数々の戦場を勝利へ導いてきた。


 良くも悪くも常識に囚われないアルバートの性格は、強いて言うなら現代的と評価するべきだろう。当時、実用が難しいとされていたエーテル技術に注目し、軍事利用のために多額の出資を決めたのも彼だ。魔剣、迷彩、エーテルガン……今となっては当たり前の装備になったこれらの生みの親と言える。


「なんだあれ?」


 ふと、地平線の向こうで何かが動いたような気がして、男が声を発した。


「魔獣でも見たか? そりゃあ、いい暇潰しだ」


 勇者と魔王の時代が過ぎた今、魔獣は人間を恐れ、姿を隠すようになった。それでも偶に人前に現れることがある。


 弛んだ肉体には程よい試練だ。

 そう思い、男は意気揚々とエーテルガンを構えたが――。


「い、いや……」


 地平線が蠢く。

 一体ではない。……魔獣の群れか? それこそ有り得ない。この時代、魔獣が統率されることはないはずだ。


 だが、確かに多くの影が近づいている。

 兵士は大声で叫んだ。


「敵襲!! 敵襲――ッ!!」




 ◆




 戦いが始まった。

 大地を揺らす激しい攻防の中、エイガルたち特機武装隊のソルジャーは息を潜めて行軍する。


「第一空挺団はよい働きっぷりじゃのぅ」


「王国では『最後の守護者』と名高い部隊ですが、実態は機動力を活かした柔軟性のある部隊ですからね。急襲も得意です」


 どのような戦局にも臨機応変かつ即時に介入できる部隊。それが王国軍の花型と評される、第一空挺団だ。必要とあらばどこにでも現れて、確実な戦果を手に入れる。


 第一空挺団を中心とした陽動班が暴れている間に、エイガルたち突入班は砦の裏側まで移動した。過去、何度かの偵察によって、砦の裏側には小さい入り口があることを確認している。


 茂みに身を隠したエイガルたちは、砦の警備体制を確認した。

 砦の中で待機していた兵士たちが次々と表に出てくる。陽動班の暴れっぷりが凄まじいようだ。しかしそれでも、持ち場を離れない兵士たちが多い。


「ただの基地にしては、あまりにも厳重。……大当たりの予感がするのぅ」


 大当たり。

 つまり――この砦にはタイタンがあるかもしれない。


 しばらく待っていると、兵士たちの出入りが止まった。そのまま更にしばらく待ち、兵士たちに動きがないことを確認したエイガルは、二人の仲間に視線を配る。


「任せるぞ」


 アリエとドーズが首を縦に振る。

 次の瞬間、二人の姿が透明になった。


「シッ!!」


「はッ!!」


 透明になったアリエとドーズが、迅速に入り口前の兵士を狩る。帝国兵の亡骸を隠した二人は、透明化を解除して、エイガルを手招きした。


「便利じゃのう、ミラージュスーツ」


「エイガルも装備すればよかったじゃないですか」


「殿下曰く、今回の儂のかすたむとは相性が悪いとのことじゃ」


 そう言いながら、エイガルは二人の装備を見た。



 ソルジャー:アリエ=ファナリス

  センサー:ナイトアイ

  アーマー:ミラージュスーツ

   クロス:スラスター・ダガー

    ガン:ジャベリン(?)

  シューズ:スラスター・シューズ



 ソルジャー:ドーズ=レグナー

  センサー:ナイトアイ

  アーマー:ミラージュスーツ

   クロス:デュアルアクス

    ガン:ニードル・ショット

  シューズ:サイレンサー



 身軽さを優先したアリエに対し、ドーズは隠密行動から正面切っての戦闘まで、幅広く遂行できるカスタムになっている。アリエは汎用バランサーを外しているため、スラスター・シューズを自前のバランス感覚で使いこなさねばならなかったが、ここ最近の猛特訓でなんとかものにしてみせた。


 頼もしい仲間たちの手引きによって、エイガルは砦の中に潜入する。

 その直前、妙なものを見た。


(……なんじゃ、あれは?)


 見張り塔と思しき高所に、不思議なものが置かれている。幾つもの鋼の輪を重ねたそれは、巨大な砲身に見えなくもないが……。


「エイガル、急ぎましょう」


 今は迅速に動かねばならない。

 エイガルは頭の片隅に疑問を追いやり、砦に潜入した。


「これは……」


 砦内部の光景を見て、エイガルは今度こそ確信した。

 この砦には何かある。


 まず、道が異様に広い。敵の侵入を食い止めることが目的なら、もっと狭く、もっと入り組んだ形にするはずだ。だがこの砦の道は広く、区画は分かりやすく、床には何か重たいものを引き摺った痕跡が見られる。


 この砦は、有利な戦場を作るためのものではない。

 帝国はここで何をしていた……?


「先行します」


 ミラージュスーツに加え、足音を消すサイレンサーまで装備しているドーズが、斥候役を務める。


 潜入は順調だった。陽動班の働きもあってか、指揮系統の乱れが生じているらしく、砦の兵士たちは注意力が散漫になっている。接触が避けられない時も、入り口の兵士を処理した時と同じように、ミラージュスーツを着たアリエとドーズが脅威を排除していった。


「ここは……」


 横切ろうとした部屋から喧騒が聞こえ、先頭を歩いていたドーズが立ち止まる。


「司令部のようじゃのう」


 会話を盗み聞きしながら、エイガルが小さな声で言った。

 部屋の中では、複数の軍人が長机を囲んで会議している。


「――構わん、懐まで潜り込ませろ!!」


 男の一層大きな声が、エイガルたちの耳を劈いた。


「アルバート少将が用意した策の一つだ。敵を密集させた後、高台に設置した圧縮エーテル砲で殲滅する。……わはッ!! わははははッ!! 諸君、期待せよ!! この上なく爽快な景色が待っているぞ!!」


 部屋にいる軍人たちの、盛り上がる声が聞こえてきた。

 エイガルは砦に潜入する直前に見た、妙なものを思い出す。――あれか。あれが圧縮エーテル砲とやらか。


(マズいな。このままでは陽動班が……)


 圧縮エーテル砲の威力がどの程度かは知らないが、口ぶりから相当なものだと窺える。

 陽動班の作戦は敵陣の懐で大暴れすることだ。潜入の成功率を高めるために、できるだけ懐まで潜り込み、砦で待機している兵士を引っ張り出す算段である。

 つまり、敵の狙い通り懐まで潜り込む可能性が高い。


「アリエ、通信石は使えるか?」


「……駄目です」


 遠距離通信を可能とする道具、通信石を手に取って操作したアリエが、首を横に振る。

 通信石が送受信する電波は物理的な壁によって多少遮断されてしまう。同じ建物にいるならともかく、砦の内部から遠くの戦場までは通信が届かない。


 特機武装隊は、まだ世間に知られていない先端技術を兵装に組み込んで戦う部隊だ。その一員として活動するエイガルは、今の時代が技術の黎明期であることを人一倍実感できた。もう少し、あと一歩改良できれば全部解決するというのに、今はまだ難しい。


 だがそれは敵も同じだ。

 敵も味方も、持ちうる手札で戦うしかない。


「行くぞ」


 エイガルは先に行くと決めた。

 アリエも無言で頷き、エイガルに続いて部屋を横切った。


 だが一人。

 ドーズだけが立ち止まったままだった。一歩前に進んだエイガルたちを見て、ドーズも動こうとするが、すんでのところで引いてしまう。何故引いたのか、自分でも何が起きているのか分からず、激しく混乱した様子だった。


 ドーズの全身を嫌な冷や汗が伝う。

 顔は青褪め、呼吸も荒れ始めた。


「迷うな」


 棒立ちになったドーズに、エイガルは告げる。


「行くか行かんか、ここで決めよ」


 ドーズの中で天秤が揺れているのが見て取れる。使命、任務、責任……本来揺らぐはずのないそれらを傾かせているのは、間違いなくオスローという男の存在だった。


 戦友の死。それは兵士ならいつか必ず経験することだ。

 だが、誰も好きで経験しているわけではない。

 作戦のために冷たい判断を下すことが常に正しいとも限らない。本心に沿わない活動を続けた結果、集中力が落ちるようでは本末転倒だ。


 祖母のために武功を重ねたいドーズにとって、今回の作戦は千載一遇のチャンスと言える。狙い通りタイタンの情報を持ち帰ることができれば、特機隊は今まで以上に大々的に認められるだろう。

 だが、それでもドーズは――。


「行きます」


 戦友を助ける道を、ドーズは選んだ。


「自分は、行きます」


「よし、行け」


 エイガルは真っ直ぐドーズを見て言った。


「行け……!!」


「……ッ!!」


 ここが敵地でなければ、大声で送り出していたところだ。

 ドーズは急いでミラージュスーツを起動し、砦の外まで向かった。ミラージュスーツとサイレンサーの組み合わせなら、一人で行動してもそう簡単には見つからないだろう。


「……エイガル、いいんですか?」


「難しい判断じゃ。なら、己の心に従った方がいいじゃろう」


 ドーズが離脱したデメリットは、潜入班の仕事が厳しさを増すことだ。下手すればタイタンの情報を持ち帰れないかもしれない。


 一方、たらればの話になるが、ドーズが残った場合のデメリットは、やはり陽動班が全滅する可能性である。彼らが全滅すれば、砦にいるエイガルたちも袋の鼠となるだろう。外に出て通信石さえ起動できれば情報を持ち帰れるかもしれないが……。


 情報を持ち帰れないことか。それとも部隊の壊滅か。

 どちらが最悪の事態なのかは判断が難しい。

 なら心の赴くままに動いた方が、後腐れがなくていい。


(それに……ちょいと気になることもあるしのぅ)


 砦に入ってから、薄らと感じている違和感。

 その正体に気づくのはもう少し先だった。



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