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カスタムじじい  作者: サケ/坂石遊作
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花型部隊からの刺客・オスロー


 肉薄するオスローを、エイガルは冷静に分析した。

 武器は剣のみ。エーテル技術が使われているようには見えない。先端技術に常日頃から触れているエイガルにとってそれは、かつての己の戦い方であり、旧時代の戦い方だった。

 だが、それでも――。


(やりおる)


 エイガルの装備はアリエと試合した時と同じ、剛の道を追求したものだ。それを知ってかどうかは定かではないが、オスローは間合いを取りながら、少しずつこちらの力を削ってくる。


「ブースト!!」


 エイガルの足下に青白い閃光が走った。

 強引に間合いを詰め、デュアルアクスを振るう。

 だがオスローは振り下ろされた斧を、巧みに受け流した。瞬時にエイガルはもう一方の斧を横に薙ぐが、オスローはこの二撃目も下から沿わせる形で凌いでみせる。


 躱しも、受け流しも、熟練の域ときた。

 このままでは長引くと判断したエイガルは、吐息を零す。


「お主、二日後の作戦には参加するのか?」


「……質問の意図は?」


「いや、なに」


 静かに、力強く、エイガルは斧の柄を握り締めた。


「参加せんなら……ちょっとくらい、ぶっ壊しても構わんだろうと思ってなァ」


 滾る。

 どこの誰かは知らないが、いい対戦相手だ。若かりし頃から変わらない、エイガルの強大な闘争本能に火が点いた。


 エイガルの戦意が膨らんだことを察してか、オスローは生唾を飲み込んだ。


「ご安心を、不参加ですから」


「よしきた」


 エイガルはオスローに向かって真っ直ぐ接近した。

 当然、オスローは迎え撃つ。だがエイガルは、オスローが構えた瞬間に斧の一本を投擲した。


「ッ!?」


 オスローは咄嗟に防御ではなく回避を選んだ。――正解だ。斧を防ぐために剣を構えていたら、その隙を狙って二本目の斧で仕留めていた。


 間一髪で斧を躱したオスローは、反撃のために剣を振るう。

 エイガルはその剣を鮮やかに受け流した。


 一瞬の膠着。

 刹那、エイガルは斧を振り下ろし、オスローは剣を掬い上げた。

 二つの武器がぶつかり合い、激しい音が響く。


「馬鹿が」


 勝負は決した。

 エイガルは斧を、強引に振り下ろそうとする。


「儂に、力で勝てると思うなよ」


「く、ぁあぁああぁああぁああぁぁぁ――ッ!?」


 コングスーツがミシリと音を立てる。

 力負けしたオスローの両膝が曲がった。涼しげな優男の顔が苦悶に満ちる。オスローは今、このまま地面に沈んでしまいそうなくらいの重圧を頭上から感じていた。


 オスローが全身から汗を噴き出す。

 エイガルはそこで力を緩め、オスローから離れた。

 ふぅ、と吐息を零すエイガルを、オスローは汗を拭いながら睨む。


「……何故、やめるんですか?」


「作戦に不参加というのは嘘なんじゃろう? これ以上は本番に響く」


 エイガルは投擲で使った斧を拾いながら言った。


「こんなタイミングで手合わせを所望しておいて、作戦と無関係なわけないじゃろ」


「……それもそうですね」


 オスローは観念したように溜息を吐き、納刀した。


「第一空挺団所属のオスロー=スヴァック一等兵です。この度は無礼な真似をして申し訳ありませんでした」


 頭を下げるオスローに、エイガルは「よいよい」と許す。

 だが事情くらいは説明してもらう。


「作戦前に、どうしても知りたかったのです。我々が命を賭して守る、特機武装隊の実力を」


「……なるほど」


 エイガルはオスローの目的を理解した。


「お主は陽動班か。……で、感想はどうじゃ?」


「貴方の背中を守るためなら、死地に行くのも悪くありません」


 ルーベ地方での作戦部隊は、潜入班と陽動班に分かれる。エイガルたちは前者、オスローは後者のようだ。


 ここ最近、特機武装隊は急速に戦果を上げているが、その速度についていけない部隊も多い。少し前まで見下していた部隊のために、本当に自分たちが命を賭ける必要はあるのか……兵士たちがそう疑問に思うのも無理はないことだ。


 だが、それをこんな形で確かめようとするのは、若さの一言では庇いきれない。

 戦い大好きおじいちゃんのエイガルでなければ、今頃は大問題に発展していただろう。


「できれば武装を外した状態の、純粋な実力を見せていただきたかったのですが……」


「それは無理と言うより無駄な注文じゃな。素手で戦えば、儂は軍の中で誰よりも弱い。自明の理じゃ」


 オスローはしばらく放心した後、「まさか」と笑った。


「疑うか? ならばこっちへ来い。腕相撲で勝負じゃ」


 エイガルはコングスーツを脱ぐ。

 昼間、新装備を並べていた長机に、エイガルとオスローは近づいた。

 机に肘をつけ、互いの拳を握り合う。


「よーい」


 どん、と言った瞬間、エイガルの腕は机に叩きつけられた。

 オスローが目を見開く。その目には大きな戸惑いが見て取れた。


「手は抜いておらんよ。これが儂の全力じゃ」


 オスローはしばらく、自らの勝利が信じられない様子で呆然としていた。


「振り出しに戻ったかのぅ?」


「……いえ。胸襟を開いていただいたこと、光栄に思います」


 オスローは礼儀正しく頭を下げる。


「見た目通りに老いていたのですね。……それでも、貴方の実力を疑う余地はありません。先程の試合は見事でした」


「ゴリ押しで勝っただけじゃぞ?」


「あまり僕を試さないでください」


 オスローは苦笑した。


「最後の展開……貴方は力勝負に持ち込めるよう、誘導しましたね? 肝となったのは、僕の一太刀を足下に受け流したあの時……」


「ふむ、なかなか優秀な若者じゃな」


 少々、血の気が盛んすぎるような気はするが……エイガルはそれを指摘できる立場ではない。


「優秀……ですか」


 オスローはエイガルの評価を聞いて、自嘲気味に笑った。

 妙な態度だ。それほどの実力なら、優秀なんて言葉、聞き慣れているだろうに。


「ドーズは元気ですか?」


「うん? まあ概ね元気じゃと思うが……知り合いか?」


「彼とは同期です。友人とも呼べる仲でした」


 そう告げるわりには、オスローは暗い表情を浮かべていた。

 やがてオスローは語り出す。


「僕にとってドーズはライバルでした。だからこそ悲しかった……彼が軍をたらい回しにされた挙げ句、特機武装隊に島流しされたことが」


 視線を下げていたオスローは、そこでいったんエイガルの顔を見た。


「勿論、これは過去の解釈です。少なくとも今の僕は、特機武装隊を流刑地だとは思っていません」


「まあ、じゃろうな」


 今もそう思っていたら図太すぎる。


「ドーズは最初、僕と同じ第一空挺団に配属されていました。あの時は互いに、花形部隊に配属されたことを喜び合っていました」


「第一空挺団は花形なのか?」


「各要塞を守る方面隊と違い、王都の防衛警備を担任していますからね。王都に常駐もしていますから、当然、知名度も高いんです。国民からは『最後の守護者』と呼ばれています」


 仰々しい呼び名も、軍の士気を上げるためなら好都合だ。

 花形の理由が分かったエイガルは、「ふむ」と頷く。


「しかし、ドーズは武功を焦った結果、何度もから回ってしまい……居場所を失いました」


「ふーむ……確かに、ドーズはああ見えて功名心がありそうじゃからのぅ」


 エイガルの言葉を聞いて、オスローは少し考える素振りを見せた。


「彼の過去は聞いていませんか?」


「聞いとらんな」


「でしたら……これ以上、僕の口からは語らない方がいいでしょうね」


 オスローは訓練室の外へ向かう。

 最後に一度だけ振り返って、オスローは言った。


「ドーズに伝えてください。……戻る準備はできたぞ、と」



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