老兵の活躍
カイレム要塞の死守から半月が経過した。
帝国は当然、要塞の侵略を諦めていなかった。だが半月も経てばギュスター率いる第二国境防衛隊も回復しており、戦況はまた以前の形に近くなる。
帝国の人的資源は脅威的だ。前回、痛い目に遭ったばかりだというのに、すぐに新たな一個中隊を送ってきた。
ならば、また同じ目に遭わせてやろう。
剣と魔法が入り混じる戦場を、エイガルは駆け抜けた。
「老兵!?」
敵がエイガルを見て、驚愕する。
戦場に似つかわしくない、全身に深い皺を刻んだ老いぼれを見たのだ。無理もない。
「はっ!! 王国の人手不足も遂にここまで――」
好都合な趨勢を感じたのか、帝国兵は笑った。
だが次の瞬間、その兵士は目を見開く。
「な、なんだ、その重装備はぁ――!?」
エイガルは、その手に持った巨大な鉄塊で帝国兵を叩く。
あふん、と帝国兵は情けない悲鳴と共に気絶した。
今回のカスタムは、こちらになります。
脳内でマーセリアが、そう告げたような気がした。
ソルジャー:エイガル=クラウス
センサー:
アーマー:コングスーツ
クロス:フォートレス
ガン:バブル・ショット
シューズ:スラスター・シューズ
今回の作戦では乱戦を想定していたため、視野が狭くなるセンサーはつけていない。マーセリア曰くセンサーはまだ改善の余地が多いため、前線で使うには心許ないとか。完成品は画期的なものになるとのことなので期待している。
アーマー装備のコングスーツは、いわば借り物の筋肉だ。エイガルの動きに合わせてスーツが脈打ち、人工筋肉が動きを補助してくれる。
ガン装備のバブル・ショットは、大口径のショットガン。
そして、クロス装備のフォートレスは――巨大な鉄の盾。
でかい!! 説明不要!! 圧倒的な質量による、攻防一体の武装である。
(まさか、再びこの質量を振り回せる時が来るとはのう……ッ!!)
エイガルは帝国兵たちをなぎ倒しながら、本隊と合流した。
「援軍じゃ!! 所属は特機武装隊!!」
「た、助かる!!」
本隊の王国兵たちは、エイガルの所属を聞いても侮らなかった。
それは、エイガルがここに来るまでの間、バッタバッタと帝国兵たちをなぎ倒したからだろう。
或いは――エイガルの後ろで今も暴れ回っている、二人のソルジャーを見てのことか。
ドーズはバブル・ショットで、横一直線に並ぶ帝国兵たちをまとめて押しやっていた。大口径から放たれるのは泡状の特殊な弾だ。対象に接触し、破裂した際の衝撃で攻撃する。一発の威力は低いが、代わりに攻撃範囲が異様に広く、更に泡状の弾は命中しなければしばらくその場に停滞する。敵の侵攻を妨げるには最適な武装と言えるだろう。
「そこです」
バブル・ショットで足を止めた帝国兵たちに、アリエが突撃した。
スラスター・ランス。高出力の推進装置を搭載したその槍は、アリエの小柄な体躯を容易く運んだ。槍と共に敵集団へ突撃したアリエは、確実な戦果を挙げた後、槍と共に自陣へ帰ってくる。超高速のヒットアンドアウェイに、帝国兵たちはひたすら翻弄されていた。
「ここは儂らが引き受ける!! お主らは左翼へ行け!!」
王国軍の布陣が一部手薄になりつつあることをエイガルは察していた。特機武装隊は人数の都合上、撹乱や遊撃には向いていても、前線を押し上げる中核には成り得ない。手薄になった箇所には本隊が行くべきだ。
エイガルはフォートレスで帝国兵の進軍を食い止める。
その間に本隊の王国兵たちは移動を始めた。
「ええい!! たった一人の老兵に何を手こずっている!!」
帝国兵の方から、大きな声が聞こえる。
「帝国の剣を見よ!!」
帝国兵の掲げた剣が、光を纏った。
魔剣――以前、マーセリアに説明されたことを思い出す。
「マズい!!」
その光を見て、特に焦ったのはドーズだった。
「エイガルさん!! フォートレスは物理に強いですが、魔力には――」
知っている。
だからエイガルは、既に迎撃を意識していた。
「退けぇい――ッ!!」
フォートレスを横に構える。
エイガルの動きに応じ、コングスーツがメキメキと音を立て、盛り上がった。
――いける。
この感触には覚えがある。
二十年前の、あの頃の膂力――その一端でも蘇っていれば、この動きは実現できるはずだ。
「ぬぅんッ!!」
エイガルはフォートレスを円盤投げした。
巨大な鉄の盾が、前方にいる帝国兵たちの身体を鎧ごと抉りながら、魔剣の持ち主まで迫る。
「な――ッ!?」
魔剣の持ち主は、咄嗟にその剣を横に構えた。
だが無意味だ。フォートレスと比べれば、魔剣など小枝に等しい。
バキン!! と派手な音と共に、魔剣がへし折れる。
そのままフォートレスは、魔剣の持ち主を轢いた。
魔剣の持ち主が破裂する。
破裂だ。――肉体が跡形もなく消し飛んだ。
その光景に、兵士たちが一瞬息を呑む。
「た、隊長が……」
帝国兵が、震えた声を零す。
「撤退!! 撤退だ!!」
「後退しろ!!」
帝国兵たちは必死に正気を振り絞り、撤退という単語を叫び続けた。まるで恐るべき悪魔から身を守る呪文のように、彼らは撤退と唱えながら逃げていく。
「お、おぉ……!!」
「これが、特機隊……!」
凄まじい力を目の当たりにして、王国兵たちは湧いた。
戦局が落ち着いてきたので、エイガルは辺りを見渡す。フォートレスの一撃を受けて、辛うじて生きてはいるが自力で動けない帝国兵たちが這いつくばっていた。
「貴様……まさか、伝説の老兵か……?」
這いつくばった帝国兵が、掠れた声で尋ねる。
この戦場に駆けつけて、最初に気絶させた帝国兵だ。意識を取り戻しはしたが、まだ動けずにいるらしい。
「老兵も捨てたものではないじゃろう?」
「くそっ……」
帝国兵が悔しそうに顔を歪める。
実を言えば、この数日でエイガルのことを伝説の老兵だと言い当てた帝国兵は、他にも何人かいた。
(ツラが割れ始めたようじゃのぉ)
やりにくくならなければいいが――。
エイガルは捕虜を運びながら、そう思った。




