力には力
特機武装隊に出撃命令が下されたその日、エイガルはマーセリアから装備の説明を受けた。
「今回のカスタムは、こちらになります」
マーセリアはホワイトボードに大きな紙を貼り付けた。
そこにはエイガルの肉体と、マーセリアが考えた装備一覧が記されている。
ソルジャー:エイガル=クラウス
センサー:ウィーク・サーチャー
アーマー:汎用バランサー
クロス:スラスター・ブレードⅢ式
ガン:ストーム・バスター
シューズ:スラスター・シューズ
「新装備は二つか」
「ええ。まずは一つ目、スラスター・シューズについて説明します」
マーセリアが手際よく、エイガルの足元に現物を置いた。
「原理はスラスター・ブレードと同じです。推進装置によって機動力を底上げできます。カイレム要塞は岩壁に囲まれた複雑な地形ですが、これを使えば速やかに目的地まで移動できるでしょう」
「なるほど。儂らの撹乱という役割は、この機動力を期待されてのことか」
「はい。私がそう売り込みました」
少数部隊ならではの機動力を、マーセリアは活かしてほしいらしい。後続部隊の規模を考えると、理に適った兵士の使い方だ。
エイガルは頷いて、マーセリアを見つめた。
「熱さが抜けて、分かりやすい説明になったのう」
「練習しましたから」
ふんす、とマーセリアは鼻息を荒くする。
練習するほどのことか……? という疑問は、心の中だけに留めた。
「本命となるのは、ガン装備です」
マーセリアが、研究室のドア前で待機していたメカニックたちに目配せする。
合図を受け取ったメカニックたちが、ガラガラと音を立てながら台車を運んできた。台車の上には無骨な砲身が乗っている。大砲にしては小さいが――人間が装備するものだとしたら、かなり大きい。
「構想ばかり膨らんでいたストームシリーズ……試しに一つ作ってみたはいいものの、性能が極端すぎてアリエもドーズも使いこなせませんでした。しかし、百戦錬磨の経験を持つエイガル様ならきっと……」
マーセリアの期待した眼差しを受け、エイガルは笑った。
期待しているのはエイガルも同じだ。
さて――次はどのくらい全盛期に戻れるだろうか。
◆
意思を持つ嵐のようだ――。
勇者と魔王の時代。初めて戦場に出たエイガルが、誰かにそう言われたことを、マーセリアは知る由もない。
だが、彼女はエイガルに託した。
ストームシリーズと名付けた装備を。
ならば、これが本質なのだろう。
戦場の嵐。それこそが、エイガル=クラウスの本領――。
「ゴンズ、覚悟しておけ」
砲身を構えながら、エイガルは告げる。
「この一撃は、耐えられるものではないぞ」
空気中のエーテル粒子が掻き集められる。
砲身には螺旋式吸収機構が採用されていた。それはマーセリアが寿命を削る勢いで研究した先端技術の一つ。エーテル粒子を最大効率で吸引できるこの機構を、世界はまだ知らない。
「これは……マズいッ!? 総員退避ぃ――ッ!!」
ゴンズはすぐに部下と共にエイガルから距離を取った。
正しい直感だ。だからゴンズは悪くない。
悪いのは、想像を超えるこの力――。
「ストーム・バスタァアァアァァァ――ッッ!!」
嵐が砲弾となって放たれる。
床も壁も天井も、全てを削りながらその嵐は直進した。直撃を免れた帝国兵たちは、その衝撃だけで吹き飛び、散り散りになる。
唯一、ゴンズだけが咄嗟に剣を床に突き立てて、嵐を凌いだ。
嵐が過ぎ去った後、ゴンズは凄惨な破壊の跡を見て目を見開く。
「な、なんという、威力……ッ」
ストームシリーズの特徴は、圧倒的な破壊力だ。
周囲への被害とか、使用者にかかる負荷とか、一発あたりの燃費とか、そういうもの全てを無視して破壊のみを追求した系譜である。マーセリア曰く、性能の一点特化は浪漫んんぅ……ではなく、逆境を切り拓く希望になるとかならないとか。
訓練で一度使用したことのあるエイガルも、目の前の光景には少なからず驚いていた。これまで使用してきた装備品たちも素晴らしかったが、ストーム・バスターは破格と言える。
(全盛期の二割程度かのぉ)
この光景、久しぶりだ。
ここまで蘇るとは思わなかった。しかし、強いて言うなら……。
「……やはり儂は、コイツで戦いたいのぉ」
拳を掌に打ちつけ、パンッと音を鳴らす。
砲撃も悪くないが……やはり拳、やはり肉弾戦。エイガルが好む戦いは接近戦だ。
よって、エイガルはスラスター・シューズを起動した。
青白い閃光と共に、エイガルは砕けた地面を駆ける。
「な――ッ!?」
砲身と共に接近したエイガルに、ゴンズは慌てて剣を構えた。
その反応速度は目を見張るものがある。だが動揺が抜け切っていない。ゴンズは本来の間合いよりも一歩遠い位置で剣を振った。エイガルはその太刀筋を見切り、軽々と避ける。
そして――ストーム・バスターの砲口を、ゴンズの腹に当てた。
「よし」
エイガルはトリガーを引き絞る。
砲身がキィィン、と音を鳴らしながらエーテル粒子の吸引を始めた。
ゴンズの顔が青褪める。
「お、おい……!! 俺はそいつを初めて見るが……ッ!!」
滝のような汗を流しながら、ゴンズは叫んだ。
「絶対、その使い方じゃないだろおぉおおぉおぉ――ッ!!」
「ふはははははははははは――ッッ!! 吹き飛べぇえぇえぇえぇぇぇえ――ッッ!!」
ゼロ距離で嵐が放たれる。
ゴンズは白目を剥きながら遥か後方へと吹き飛んだ。要塞の壁を突き抜け、倒れた部下や瓦礫を巻き込みながら、地の果てまで弾かれていく。
「……拳とは、殴る方も痛いものじゃ」
エイガルは砲身を床に立て、己の両手を見た。
ゼロ距離で嵐を放った反動だ。両手が真っ赤に染まり、痛みを訴えている。だが、その痛みこそエイガルが求めた戦いの実感だった。
「やはり、このくらい反動がないと攻撃した気がせんわい」
「ただの自傷行為ですよそれ」
近くにいたアリエが、ドン引きした様子で言った。
「アリエ、何故ここにいる? 逃げる準備をしろと言ったはずじゃが……」
「準備ができたので呼びに来ました。スラスター・シューズがあれば安全に逃げられるルートを確保済みです」
二人で先に逃げていろと、暗に伝えたつもりだったが……。
どうやら二人とも、最初からエイガルを迎えに来るつもりだったらしい。
「では、逃げるか」
予想以上に打撃を与えられたので、エイガルたちは悠々と要塞を後にした。この分だと要塞の死守は成功するだろう。一階にいた帝国の部隊は既に半壊している。
スラスター・シューズで高く跳躍する最中、王国軍が放った本命部隊・魔導歩兵隊フェンリルの進軍を確認する。絶妙なタイミングで入れ違いになったようだ。本隊といつでも合流できるよう、エイガルたちは要塞からそう離れていない岩陰で待機する。
「しかし、なーんか忘れとる気が…………」
どっこいしょ、と背負っていたストーム・バスターを地面に置いたところで、エイガルは考える。
そういえば……。
「……赤獅子は、結局おらんかったのぉ」
赤獅子とも入れ違いになってしまったのだろうか。
新世代の英雄とやらを一目見たかったが……エイガルは残念に思った。
(いると思ったんじゃがなぁ……)
歳で勘も鈍ったか。
第六感が鋭くなる武装も開発できるだろうか? ……今度、マーセリアに相談してみよう。




