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カスタムじじい  作者: サケ/坂石遊作
老兵復活
10/30

帝国兵


 久々の戦場を駆けながら、エイガルは疑問を抱いた。


「話と違うのぉ」


 聞いた話によると、カイレム要塞の周囲には岩壁が聳えており、これが帝国兵の侵攻を妨げているとのことだった。


 だが現地に赴いてみれば、そのような岩壁は見当たらない。

 正確には……岩壁があったと思しき場所に、大きなクレーターができていた。まるでスプーンで抉り取られたかのように。


「赤獅子の仕業です」


 エイガルの隣を走りながら、ドーズは言った。


「奴は持ち前の魔力と、特殊な武器による広範囲の破壊・殲滅を得意としています」


「ほぉ、図らずとも儂と似たようなタイプか」


 地形を変えるほどの高火力。

 マーセリアに合わせれば、その赤獅子とやらもパワータイプに違いない。厳密には、エイガルは一点突破を好んでいたため、殲滅が得意な赤獅子とは細かい戦術が違いそうだ。


 抉られた地形の端まで進むと、鋭い傾斜が現れた。迂回するルートもありそうだが、エイガルたちはここを真っ直ぐ登ることにする。


 そのための装備が、エイガルたちにはある。


「本領発揮じゃな」


 既にエイガルたちは、人並み外れた速度で走り続けていた。

 その速さを生み出しているのは、足に装備した青い靴。

 そしてその本領は、速度ではなく――浮上。


「スラスター、オン!!」


 音声入力によって、エイガルは靴の機能を起動する。

 靴底から、青白い炎が噴射された。


 ――スラスター・シューズ。


 原理はクロス装備のスラスター・ブレードと同じ。靴に推進装置を搭載し、任意のタイミングでそれを起動することで高速移動および浮上が可能になる。踵のボタン入力でも起動できるが、戦闘時に身を屈ませるのは危険なため、装備者の声紋による音声入力でも起動できる。


 アリエはエイガルと勝負した時、スラスター・ブレードで一瞬浮遊した。あの技術はスラスター・シューズの訓練で身についたものだったらしい。


 スラスター・シューズは、スラスター・ブレード以上にバランス感覚を要求する装備だ。アリエとドーズは汎用バランサーを装備した上で、二ヶ月かけてスラスター・シューズに慣れた。

 エイガルはそれを、二日で使いこなした。


「ほっ!! はっ!! よっと!!」


 次々と段差を跳び越えるエイガル。アリエとドーズも後に続く。

 スラスターの起動中は常に上昇できるが、燃料切れを避けるために細かくオン・オフを繰り返し、高い跳躍に留めることが推奨されていた。


「うーむ、この跳躍力……」


 生身では登れない段差を次々と跳び越えながら、エイガルは全盛期の自分を思い出す。


「全盛期の何割ですか?」


 いつの間にか傍にいたアリエが訊いてきた。

 考えていることが筒抜けだったらしい。エイガルは不敵な笑みを浮かべ、答える。


「ギリギリ一割かのぉ」


「……化け物おじいちゃん」


 城壁を跳び越える。

 カイレム要塞の内側に、エイガルたちは降り立った。


「え?」


「は?」


「なんだ、こいつら……?」


 まさか頭上から敵が降ってくるとは思わなかったのか、帝国兵たちが困惑する。

 一方、エイガルはあくまで冷静に周囲を観察した。――気を緩めた様子の帝国兵たち。捕らえられた無気力な王国兵たち。要塞の中から聞こえる激しい破壊の音。


「……ふむ、占領寸前といったところか」


 帝国兵たちが、一斉に武器を構えた。


「て、敵襲!!」


 勝利を確信し、油断していた帝国兵たちが、慌ててエイガルたちを包囲しようとする。だがそれよりも早く、エイガルたちはスラスター・シューズを起動した。


「ブースト!!」


 足元を、青白い閃光が走る。

 スラスター・シューズは、浮上だけではなく加速のためにも使えた。


 一瞬の噴射が、老体には有り得ない速度を実現する。

 エイガルたちは、混乱する兵士たちの頭上を跳び越えた。


「なんなんだ、このじじいは――ッ!?」


 肩にかけたスラスター・ブレードが、カチャリと音を鳴らした。

 エイガルはまだその武器を手に取らない。


「作戦通り無視するぞ!! 儂らの目標は敵を倒すことではない!!」


 アリエとドーズも、エイガルの高速移動について来る。

 特機武装隊に与えられた役割は攪乱。エイガルたちが戦場を掻き乱すだけ掻き乱した後、本命の魔導歩兵隊フェンリルが到着し、要塞を奪還する算段だ。


 敵を撹乱するには、外側で戦うだけでは足りない。一度でも、一瞬でもいいから戦場の中央まで食い込み、より多くの敵に自分たちを印象づける必要がある。


 よって、エイガルたちの目的地は――。


「突破口を見つけました!!」


 ウィーク・サーチャーを装着したドーズが大声で叫んだ。

 エイガルにも見える。要塞の外壁――その一部が赤く染まっているのが。


「こじ開けますッ!!」


 ドーズがスラスター・ブレードのトリガーを引き絞り、回転斬りを放つ。

 大剣による暴力的な一撃が、要塞の壁を粉砕した。


 壁に空いた大穴から、エイガルたちは要塞内部へ突入する。

 だが、すぐに帝国兵たち立ちはだかった。


 ――精兵。


 エイガルは静かに息を呑む。空から現れ、壁をぶち抜いてきたエイガルたちに対し、帝国兵は少なからず動揺しているが統率の取れた連携を保っていた。


 ここまで要塞を追い詰めただけあって、屈強な心身を持ち合わせている。

 これは――もう一歩欲しいか。


「アリエ、ドーズ。お主らは逃げる準備をしておけ」


「エイガルは……?」


「もうちょい掻き乱す」


 アリエの問いに短く答える。

 姿を見せるだけ見せて退散する予定だったが、敵は想像以上に冷静沈着だった。本命の部隊が活躍しやすくなるよう、もう一歩撹乱しておきたい。


 頭は誰だ?


 場を指揮する人間に手傷でも負わせれば、敵は否が応でも混乱するだろう。


「個人的には、赤獅子とやらのツラを拝みたいもんじゃが――」


 ささやかな願望を口にしたエイガルの首筋に、刃が添えられた。

 速い――が、対処できる。エイガルは瞬時にスラスター・ブレードを抜き、トリガーを引き絞ることによる剣速で迫る刃を叩き落とした。


 甲高い剣戟の響きが要塞に響く。

 エイガルに肉薄したのは、短髪の雄々しい男だった。歳は三十半ばといったところか。その目は冷静にエイガルを睨んでいる。


「獅子というには理性を感じるツラじゃのぉ」


「男前だろう、老兵よ?」


 互いに二歩下がり、距離を取る。


「帝国軍第三突撃中隊……隊長のゴンズだ」


 やはり赤獅子ではない。

 しかし、この貫禄……隊長の肩書きを背負うだけある。


 手練れだ。

 エイガルは瞬時に敵の実力を察した。


「老兵よ。悪いようにはせん、降伏しろ」


 ゴンズは剣を下ろして言った。


「王国は何をしている? 貴様のような年寄りを戦場に出すほど腐っているのか?」


 そのような国に命を捧げるな。そう告げるゴンズの目は冷めていた。


 至極真っ当な意見である。

 だが、何故だろう。かつては己も同意していたはずのその主張が――エイガルの逆鱗に触れた。


 脳裏に、金髪碧眼の少女が過ぎる。

 その瞬間、エイガルは己の心変わりに納得した。


「……儂は、思ったより殿下に感謝しているみたいじゃな」


 エイガルは静かに息を整える。

 隙を見て逃げるつもりだったが――少々、戦う理由ができてしまった。


「この老いぼれをどう思うかは自由だが……世の中には、侮辱してはならん人間がいることを教えてやろう」


 己が場違いであることくらい自覚している。

 それでも、己を選んでくれた恩人を馬鹿にされるのは、度し難い。


「ブーストッ!!」


 青白い閃光が足元を走り、エイガルは加速した。

 解き放った剛剣は風を断ち切る。だがゴンズは冷静に自らの剣を斜めに構え、エイガルの一撃を受け流した。


「老兵にしてはやるな……ッ!!」


「若造にしてはやりおる……ッ!!」


 エイガルにとっては久々の戦場だが、ここは王国にとって最も死守したい防衛拠点の一つ。その中枢に肉薄しているゴンズが、ただの兵士であるはずなかった。


 短い応酬で気づいたことはある。ゴンズの戦闘スタイルは迎撃主体。相手の一撃を凌いだ後、連続攻撃を叩き込むことによって更に体勢を崩しにかかり、トドメの一撃を放つといった戦略だ。


 迎撃を貫くには、相手が予想できないほどの速さが必要となる。


 今のエイガルには速さが足りない。

 足りなければ――――追加するまで。


「ブーストォォォ!!」


 スラスター・シューズが閃光を放つ。

 ()()()、エイガルはスラスター・ブレードのトリガーも引き絞った。


 二重に発動したスラスターが、これまでにない超加速を生み出す。

 反動と視界の変化が凄まじい。背中に装備した汎用バランサーがミシミシと軋んでいる。


 だが――問題ない。


 二十年前の全盛期は、もっと速かったのだから。


「うおおぉおぉお――ッ!?」


 加速に加速を重ねた回転斬りが、ゴンズの剣を叩き割る。

 派手に弾き飛ばされたゴンズは、背後で待機している兵士たちをなぎ倒し、更にその奥の壁に亀裂を走らせてようやく止まった。


「まさか、老兵に遅れを取るとは……!!」


 ゴンズがよろよろと起き上がる。

 硬い。――エイガルは驚きを押し殺した。要塞の壁を破壊するほどの剣を受けて、一瞬たりとも意識を失わないとは。この男の真の強さは耐久力か。


「しかし、ここで敗れては部下に示しがつかん!!」


 ゴンズは背負っていた二本目の剣を抜いた。

 刀身の中央に大きな宝石が嵌め込まれている。重心がズレるだけの無駄な装飾に見えるが、何故か意味があるように感じる。


「帝国の剣を見よ!!」


 ゴンズが剣を掲げた瞬間、刀身が眩い光を放った。

 なんだこれは? 見たことのない魔法?


 いや、違う。

 今のは――()()()()か。


「魔光剣――ッ!!」


 光の斬撃が、地面を抉りながらエイガルへ迫る。

 エイガルは太刀筋を見切り、間一髪で斬撃を回避した。だが、先程まで己が立っていた場所を見て驚愕する。そこには深い地割れができていた。


「結局のところ、戦場で物を言うのは圧倒的な力だ!! ――老兵ッ!! 真っ向勝負で貴様に勝ち目はない!!」


 ゴンズの剣が、再び輝き出す。

 エイガルはゴンズの言葉を脳内で反芻した。結局のところ、戦場で物を言うのは圧倒的な力――。


「儂も同じクチじゃよ」


 主義も、()()()()()()()()()()()()も――。

 エイガルは、作戦開始時からずっと背負っていたソレを構えた。


「…………なんだ、それは?」


 ゴンズが怪訝な目でエイガルを睨む。

 ガシャン、ガシャン、ガシャコン――。

 筒を重ねたテレスコピック機構によって縮められていた砲身が、真っ直ぐ伸びた。


「力には、力じゃ」


 巨大な大砲を手にしたエイガルが、狙いを定めた。



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