休暇の終わり 2/2
長くなったので、二話同時に投稿しています。前話の読み飛ばしにご注意くださいね。
街へ買い出しに出ていたところへ、突然に、ルーセットとオランが現れた。
「メリノ!」
「マダラさーん、お久しぶりです!」
「え、ルーセットさん?」
「オラン……?」
メリノはもちろんだが、隣で驚いているマダラも、この来訪は予想していなかったらしい。
ふたりで目を丸くしている間に、ルーセットたちは目の前までやって来た。
「メリノ、久しぶりだ。元気だっただろうか?」
「え、あ、はい。お久しぶりです、ルーセットさん」
「……ルーセット、なぜここへ?」
メリノと会話を始めようとするルーセットに、マダラが尋ねる。その顔はまだ驚きを引きずっているようで、少し困惑気味だ。
「なぜここへ、じゃあない。マダラ、いくらなんでもお前の引きこもりは長すぎる。しばらくはふたりにしておいてやろうと思って待っていれば、まったく連絡を寄こさない。こちらは友人に会いたいのを我慢していたというのに」
「し、か、も! モズさんはちょくちょく来てるって話じゃないですか。そんなのずるいですよ」
「そうだ。だから我慢するのはやめた」
ふたりの言うとおり、マダラのことが大好きなモズは何度かカラカルへ来ている。モズは良くてルーセットたちが駄目だというのは、道理が通らないだろう。
ちらりとマダラを見れば、渋い顔をしていた。
「どうして、そっとしておいてくれないのか……」
「だから、長すぎるんだ。いい加減にもう通常の生活に戻れ」
「今まで耐えていたご褒美です。少しくらい、」
「長すぎる」
「メリノ…………」
譲らないルーセットに、マダラがしょんぼりとメリノへすがりついてくる。
だがメリノとしては、どちらに味方すべきか分からない。
牙を捧げた後の威嚇期間は個人差があるというし、獣騎士とはそういうものだと言われれば、そうなのかと納得していた。だが、先輩であるルーセットから、長すぎると断言されてしまうと、思うところもある。
どうしたものかと、すがりつくマダラの腕をぽんぽんと優しくたたきながら迷っていると、ルーセットがぱっと笑顔になった。
「ああ、忘れるところだった。メリノへ土産だ」
「え? わあ、ありがとうございます」
ルーセットが取り出したのは、リボンの付いた小箱だった。受け取ってみると、小箱はそれほど重くなく、中には小さな塊がいくつか入っているような雰囲気だ。
「少しまえに、チョコレートの日、という風習のある地方へ寄ったんだ。その日は親しいひとへチョコを贈るらしく、いろいろなチョコを売っていた。その中に酒の入ったものもあったから、メリノが喜びそうだと思って、つい買ってしまった」
「お酒!」
チョコレートとお酒の組み合わせとは。聞くだけで期待してしまうほど好みに合っている。カラカル民は、みんなお酒が大好きだ。
「喜んでもらえたようでよかった。ところで、チョコレートの日には、特に親しいひとへは手作りのチョコを贈るのだそうだ。せっかくだから、マダラに作ってやったらどうだ、メリノ?」
ルーセットの提案を受け入れ、メリノはチョコレート菓子を作ることになった。オランが熱烈に希望したので、ルーセットも一緒に台所に立っている。
「ちょうど材料もあるし、チョコのカップケーキにしましょうか」
「うん、美味しそうだ」
戸棚から材料を出して並べていると、不意に、ルーセットが改まった調子でメリノの方を向いた。
「メリノ。牙を無事に受け取れたんだな。マダラともうまくやっているようだ。改めて、おめでとう」
悩んでいたときに同じ立場から寄り添ってくれたルーセットの祝いの言葉は、メリノの心にじんわりと沁みこんだ。
「ルーセットさん……。ありがとうございます」
「メリノが納得して牙を受け取り、満たされているなら私も嬉しい。これからも友人として、よろしく」
「はい、こちらこそ。ルーセットさんは、貴重な牙仲間ですしね」
「そうだな。自分勝手な獣騎士たちの、獲物仲間だ」
「ふふっ」
ルーセットは微笑み、メリノを優しく抱きしめてくれた。友人から向けられる親愛の情が嬉しくて、メリノはルーセットにぎゅうっと抱きついた。
すると今度はルーセットも、ぎゅっと腕に力を込めるので、ふたりで力いっぱい抱きしめ合うことになった。
その状況にお互いおかしくなり、くすくすと笑い合った。
やがて焼き上がったカップケーキを持って台所を出ると、そわそわした様子のマダラが待っていた。
「メリノ」
「マダラ、お待たせしました」
立ち上がったマダラがメリノの側へ近寄って来て、ぴたりと止まった。
「…………ルーセット。メリノに触れましたね?」
「無事に牙を受け取った友人を祝っただけだ。まあ、友人を独り占めしていたお前への仕返しも含んでいるが」
さすがルーセットは涼しい顔で受け流しているが、マダラの気配が濃くなりかけていたので、メリノはぎゅっとその手を握った。
「マダラ!」
「メリノ……」
眉を下げたマダラをメリノが宥めている間、あちらはあちらで忙しそうで。
「うわあ、美味しそう。ルーセット、はやく頂戴!」
「こら、落ち着け。座って食べろ」
「ちょっとくらい、いいじゃない。味見味見~」
「……オラン?」
「っ、はい! 座ります!」
相変わらず、ルーセットの手腕はすばらしかった。メリノもいつか、あのくらいマダラを制御できるようになるだろうか。
「さあ、マダラも。いつまでも拗ねていないで座れ。だいたいお前、牙を捧げてどれだけ経ったと思っているんだ。もうメリノにべったりでなくとも、通常生活に戻れるくらいになっているだろう?」
「え?」
聞き捨てならない言葉に、メリノはマダラへ顔を向けた。するとマダラの目線が、気まずそうに逸らされた。
「オランのときもそうだった。獣騎士とはそういうものだと言うから、私は素直に従っていのに。あのときラングールに教えてもらわなければ、すっかり騙されるところだったぞ」
腕を組んで息を荒くするルーセットに、誤解だよ騙してなんかいないよと、オランは必死に弁解を始めた。
その横で、メリノがこそっとマダラに尋ねたところ。ラングールとは、ルーセットよりも以前に獣騎士の牙を捧げられた人物らしい。
なるほど。ルーセットも先輩に教えられたのだ。
思いがけない情報に混乱しつつ、メリノもルーセットを真似て腕を組み、話を整理してみた。
「うーん、つまり……。マダラの威嚇期間は、もう終わっているということでしょうか?」
「そういうことだ」
ほとんど独り言のつもりだったが、正面のルーセットから力強い肯定が返った。
そういうことらしい。
「マダラ。引きこもりはいい加減にして、仕事に復帰しろ。そうすれば私もメリノに会えるようになる」
「あー、うー、……俺も、さすがにそろそろマダラさんには仕事に戻ってきてほしいかなあ、と。最近はなぜかモズさんとの仕事が多くて、マダラさんがいないと大変なんですよ」
攻め手を緩めないルーセットに、オランも遠慮がちに援護射撃を加える。
そこまで言われては、さすがにマダラも黙っていられるわけがない。
「……………………分かりました。獣神に伝えておきます」
本当に渋々と、頷いた。
それを見たメリノは、やはりルーセットはすごいひとだなと尊敬の念を強くした。
この日をもってマダラの威嚇期間および休暇は終了し、獣騎士の仕事を再開することになったのだった。




