表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣騎士の捧げる牙  作者: 鳥飼泰
番外編 獣騎士の牙を受け取るまでの日々
21/27

獣騎士の牙を受け取った 1/2

長くなったので、2話に分けて同時投稿しています。

メリノは、ついにマダラの牙を受け取る決意をした。


いつかは受け取るのだろうと考えながら、一生を左右する決断ができずにいたメリノだったが。新しい友人ルーセットが最後のひと押しをしてくれた。

牙を受け取った経験者が、ああして獣騎士と幸せそうに過ごしているのを見ることができて、メリノの不安は軽くなったのだ。


「よしっ」


意思が固まったのなら早く本人に言ってしまおうと、マダラの気配を感じる庭の方へ向かう。


「マダラ!」

「ああ、メリノ。ちょうどよかった」


そのときマダラは、ちょうど洗濯した衣服を干してくれているところだったようで、メリノの上着を手に持っていた。

そしてメリノが決意表明をする前に、のどかな疑問を口にした。


「この上着、素材が普通のものとは違うようですが」

「あ、久しぶりに出したのでマダラは見たことがなかったでしょうか。それは魔術加工がされたものなので、扱いは普通の衣服と同じで大丈夫です」

「そうですか。では、このまま干してしまいますね」


にこりと笑って上着を干そうとしたマダラが、そういえばと振り返る。


「メリノ、なにか用事でしたか?」

「…………いえ、なんでもありません」


意気込んだところをくじかれて、もう今さら言えるものではなかった。

それに、洗濯物を干しているような生活感あふれるときではなく、もう少し相応しいときがあるだろうなとも思ったのだ。


だがメリノにとって誤算だったのは、一度時機を逃してしまうと、どうにも言いにくくなってしまったことだった。


(…………ぐずぐずためらうのは、性に合わないのにっ)


メリノは本来、うじうじと悩んだりする性格ではない。

もう心は決めたのだから、ばしっと言ってしまいたい。

なのに。


「マダラ、」


機をうかがって数日が経ち、再び意を決して挑戦したとき。

振り向いたマダラの顔を見て、とっさに口をついて出たのは別の言葉だった。


「…………えっと、今日の夕飯は何がいいでしょうか?」

「ん、そうですね。寒くなってきたから、シチューがいいかもしれません」

「じゃあ、野菜は家にあるもので大丈夫そうなので、肉を買いに行きましょうか」

「ええ。寒くないようにして行きましょう」


マダラはにっこり笑い、メリノは心の中で悔しさに歯噛みした。



まだ明るいうちにふたりで出かけた街の市場。

年の暮れということで、なんだか追い立てられるような慌ただしさが漂っている。そんな空気の中では、早く言わなければと、メリノの焦りも増すようだった。


肉屋で支払いをしたメリノが戻ってみれば、マダラの隣に立っている人物がいた。


「あれ、モズさん?」

「よ、メリノ! うまい酒を持って来たぞ」


獣騎士モズが指した方を見れば、マダラが重そうな包みを持っている。その中身を想像して、お酒が大好きなメリノの目は輝くが。

今はマダラに告げたいことがある。モズがいれば、今日もそれは叶わないだろう。

そう思えば、素直に喜ぶだけでもいられなかった。


「わ、ありがとうございます。……えっと、モズさんも一緒に飲んで行きます?」


モズはお酒を持って来ると、一緒に飲みたがることが多い。今回もきっとそのつもりで持って来たのだろうと、メリノは礼儀として誘いをかけてみる。

できれば断ってほしいとは思うが、美味しいお酒を持って来てくれたことには感謝しているのだ。


「メリノ、君もその態度なのか…………」

「え?」


苦笑したモズに、考えていたことが顔に出てしまっただろうかと、メリノは少し慌てた。


「いやいや、なんでもないさ。今回はやめておこう」


おやと首を傾げれば、隣でマダラが口を開いた。


「メリノ。モズはこの後、用事があるようです」

「あ、そうでしたか。年末ですものね」

「あー、まあ、そうだな。……そういうことにしておこう」


妙に歯切れの悪いモズをメリノが不思議に思えば、再びマダラが言葉を加えた。


「モズ、そろそろ行った方がいいのでは?」

「はいはい、分かっているさ」


小さく息を吐いたモズが、立ち去る挨拶のようにマダラの肩をたたく。


「…………ああ、そうだ。先日、仕事帰りに粉雪いちごを見かけたぞ。カラカルでも色づいているころだろう。ふたりで摘みに行ってみたらどうだ?」


最後にひとつ提案を投げて、気ままな獣騎士はひらひらと手を振りながら去って行った。


「ずいぶんと急いで帰ってしまいましたね」

「ええ。まあ、モズですから」


その理由はあんまりではないかなと、メリノがマダラを見上げれば、ぱちりと目が合った。思わず、さっと逸らしてしまう。


「……………………」


たぶん、頬が赤くなっている。

早く決意を伝えたいと思うあまり、ここ数日はどうもマダラを意識しがちになってしまっていた。マダラに不審に思われているかもしれない。

メリノはごまかすように、モズの提案を採用する。


「……あの、明日は仕事も休みです。粉雪いちごを探しに行ってみますか?」

「ええ。メリノがよければ」


くすくすとなんだか機嫌がよさそうに笑うマダラに促され、市場を後にした。



翌日、ふたりで粉雪いちごを摘みにカラカルの森へやって来た。

昨年はたしかこの辺りで見かけたがと探してみれば、赤くなっているものがあちこちにある。


「わ、たくさんありますよ」

「今年は豊作のようですね。カラカルの土壌が豊かだということでしょう」


粉雪いちごは、豊かな土壌の森にしか育たないという。今年もこれだけの実が実るのは、カラカルが恵み豊かな土地である証しなのだろう。


「カラカルを褒められるのは、嬉しいですね」

「ええ、カラカルは土地本来の豊かさもありますが、領主がうまくやっていると思います」

「そうですね、サーバル様は良い領主です」


獣騎士であるマダラは、いろいろな土地や領主を見ているだろう。そんなマダラに上司を認められるのは嬉しく、メリノはご機嫌で粉雪いちごを摘んでいく。


「昨年も、こうして一緒に粉雪いちごを摘みましたよね」


ぽつりと呟いたマダラに、メリノ、と名前を呼ばれて振り返れば、赤い実を優しく口に押し込まれた。

口の中に、粉雪いちごの甘酸っぱさが広がる。


「ふふっ。来年も、その先もずっと、ふたりで粉雪いちごを摘みましょう」

「………………」


にっこり笑って、マダラはメリノの返事を待たずに収穫へ戻った。


(来年も、その先もずっと…………)


マダラとふたり、カラカルで粉雪いちごを毎年摘んで。

きっと、モズがちょくちょく遊びに来るに違いないし、ルーセットも顔を出してくれるだろう。

そういえば、ルーセットはお酒が好きだろうか。一緒に飲んだら楽しそうだ。そのときはきっとオランも同席するのだろうし、ちゃっかりモズもやって来そうな気がする。


そんな未来を思い浮かべてみれば、ふんわり幸せな気分になって、ふふっと笑みがこぼれた。

するりと、メリノの肩の力が抜ける。

あんなに気合いを入れていたのが、不思議なくらいで。


今なら、言える。


「マダラ」


名前を呼べば、恋人が振り返る。


「私は……獣騎士のことは、いまだによく理解できていません」


常とは違う雰囲気を感じたのか、マダラは手を止めて、はっとしたようにメリノを見た。


「でもマダラのことなら、少しは分かってきたような気がしますし、もっと分かるようになりたいとも思います」


マダラは無言で、メリノの言葉を聞いている。


「なにより、私はマダラとの未来が欲しくなりました。来年も、その先もずっと、マダラと一緒に過ごしていたい」

「…………それは、」

「私は、マダラの牙を受け取りたい」

「…………………………俺の牙が欲しい、と?」


獣が、金の瞳で見つめてくる。

翻意は許さないと。


「はい。マダラの牙が欲しいです」


その視線を受け止めて、メリノはしっかりと頷いた。

するとマダラが、ふふっと満足げに笑ってメリノの首筋を撫でた。


「ああ、メリノ。嬉しい…………」


かぷりと甘噛みをされ、熱い息が首筋に当たる。

マダラの興奮が伝わってくるようで、ぞくぞくとした。


「メリノ…………。この場で牙を捧げてしまいたいくらいですが、夜にしておきましょうか」

「え?」


てっきり、このまますぐにでもとなるのだと思っていたメリノは、首筋から顔を上げたマダラをぽかんと見上げる。

そんなメリノに、マダラが今度は優しげに笑いかけた。


「夜の方がいろいろと都合がいいので。……それに、メリノは以前からずいぶんと不安がっていましたし、それまで気持ちを整えましょう」

「気持ちを、ととのえる?」

「そうです」


頷いたマダラにするりと首筋を撫でられ、甘噛みされた場所がうずく。

わざとだろうかと目を細めれば、にこりと微笑みが返った。


「ただ、これから夜まで他の誰とも会ってはいけません。ずっと、俺とふたりで過ごしましょう。俺のことだけを、考えて」


そっと腰を抱かれて、距離が近づく。


「ほら、怖いことは何もありません。俺が、あなたを甘やかしたいだけですから。俺の牙を受け取ることを、嫌な思い出にしてほしくないのです」


こつりと、額が合わされ。


「メリノは、ただ甘やかされていればいい」


金色の瞳が、とろりと濃くなった。


続きを同時投稿しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ