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獣騎士の捧げる牙  作者: 鳥飼泰
番外編 獣騎士の牙を受け取るまでの日々
15/27

ブクマ400件お礼話:楽しみなこと

就寝準備を終えた後のメリノとの歓談の時間が、マダラはとても好きだ。

最初のころに弱ったマダラの世話を親身にしていたせいか、メリノは私生活の姿を見せることにあまり抵抗がないようで、マダラの自室へこうして寝衣でやって来る。その無防備な姿に、メリノとの距離の近さを感じて嬉しくなる。


それに、夜はひとを饒舌にさせる。

ぽつりぽつりと語らうのは、昼の時間にはない濃密さがある。

牙の相手と過ごすこんな上等な時間を、獣騎士が喜ばないはずはない。


機嫌よく手の中のカップを揺らせば、ふわりとやさしく甘い香りが立ち上る。今夜お互いのカップに入っているのは、メリノの希望により、酒ではなく温めたミルクだ。こんな夜には、そんな飲み物も合うのだろう。


マダラが隣に座るメリノへ顔を向けると、少し眠そうな恋人と目が合った。


「メリノ、眠いですか?」

「ん、少しだけ…………」


もう部屋へ戻るかと問えば、まだもう少しと、メリノは首を振った。

この時間を終わらせ難いと思っているのは自分だけではないのだと、マダラの口元に笑みがのる。

そっと目元を指先で撫でれば、メリノはくすぐったそうに目を細めた。こうして触れるだけでも、愛しさが募る。


「……マダラは、こんなふうに夜更かしをしても朝はきちんと起きますよね。感心します」

「ええ、メリノを起こさないといけませんから」

「う、いつもありがとうございます……」


メリノが誤魔化すようにミルクをこくりと口に含むのを、マダラはまったく構わないのにと笑った。


「以前も言いましたが、獣騎士になってからは陽の光に敏感になったようで、朝日で自然と目が覚めますからね。獣の本能でしょうか」


微笑んで説明すれば、メリノはなるほどと頷いている。

だが実は、マダラは特別に朝が強いわけでもない。

単純に、朝が弱いメリノを起こしたいから早起きしているだけだ。もちろん、陽の光に敏感になったというのも間違いではないので、嘘は言っていない。


言い回しに多少の語弊があったとしても、メリノは起こしてもらえて、マダラはメリノを朝から堪能できるのだ。どちらにとっても嬉しいことなのだから、構わないだろう。


(……どうせそのうちに、一緒に眠るようになるのだし)


牙を捧げた後は、もうなにも遠慮することはない。

その日のことを思って、マダラの口元には自然と笑みが浮かんだ。


メリノを唯一と定めて牙を捧げたいと申し出てから、ずいぶんと経った。

獣神の影響を受けて執着の強い獣騎士がよくも耐えているなと、モズには感心されるほどであるし、マダラ自身もそう思う。

耐えられているのは、メリノがマダラへの愛情をきちんと伝えようとしてくれるからだ。マダラは、メリノに愛されている自信がある。


「メリノ、好きです……」

「っ、…………私も、好きです」


こうして言葉にすれば、メリノは偽りのない瞳で気持ちを返してくれる。それだけで、マダラは心が満たされるのを感じた。

もしも最初のころのようにメリノが逃げようとしていれば、マダラは多少強引にでも牙を捧げてしまっていただろう。


ただ、最近はメリノがいろいろと受け入れてくれるようになって嬉しいのだが、少し困っている。高揚した気持ちを抑えるのが難しくなり、望みのままにうっかり牙を捧げてしまいそうになるのだ。


(若いオランでもあるまいし。待つと約束した以上、メリノの意に反するようなことをしたくはない……)


それはメリノの意志を尊重したいということもあるし、相手の意志を無視して牙を捧げたオランが、しばらくの間は牙の相手からぞんざいな扱いを受けてとても悲しんでいたのを知っているからでもある。

メリノからあんな扱いを受けたら、たぶんマダラは泣いてしまう。


「………………」


当時のオランの姿を思い出し、なんとなく気分が沈んだマダラは、メリノへ手を伸ばしてその頭を引き寄せた。

ぽすりと胸に寄りかかってくれた恋人の髪を、ゆっくりと撫でる。


「どうしました、マダラ?」

「いえ、なんとなく触りたくなって、」


何度か繰り返しているうちに、気分が持ち直してきた。やはり、メリノが腕の中にいると安心する。

マダラは髪を撫でていた手を下へ滑らせ、メリノの細い首筋を指先でたどった。


「んっ、」


マダラが執拗に首筋を愛撫するために、メリノは首への刺激にすっかり敏感になっていた。その変化が自分によるものであることは、とても気分がいい。


(この場所に、俺の牙を捧げる…………)


獣騎士は牙を捧げるとき、相手の首筋に牙で噛みつく。これには、獣神から与えられた牙を相手の急所に捧げるという意味がある。

こちらは言葉通りに「牙を捧げる」というもので、獣騎士とその牙の相手なら誰でも知っていることだ。


そしてもうひとつ。

獣騎士しか知らないことだが。

牙で噛みつく行為には、裏の意味で、万が一にも裏切りなどあれば急所を突くという含みもある。

獣神は愛情深く、嫉妬深い神だ。その影響を受けた獣騎士は、執着した相手が他へ心を移すことを容認できない。

もちろん、マダラはメリノをこれでもかと甘やかして自分無しでは立てないくらいにしたいと思っているので、そんなことは起こるはずもないが。


(牙を捧げたら、好きなだけメリノを甘やかそう。それに、メリノのあの優しい声で甘やかしてもほしい…………)


そんな未来の楽しみを思い、つい何度も指先を往復させてしまったようで、メリノが堪りかねたように言う。


「……マダラ、もう、」

「ああ、すみません。考えごとをしていました」


今夜はもう満足したので、マダラは震えるメリノから手を引いた。




翌朝、問題なく起床したマダラは朝の日課をこなしていく。

朝食の支度まで終えたところでメリノの部屋へ向かい、扉をたたいて呼びかけた。


「メリノ?」


返事がないことを確認したマダラは、そっと扉を開けて中へ入る。

やはり寝台の上の恋人は、まだ毛布に包まってすやすやと眠っていた。

その平和な姿に、マダラの心が和む。


「メリノ…………」


小さく声をかけてみても、当然、メリノは目を覚まさない。

静かに歩み寄り、寝台のすぐ横に立って見下ろしてみるが、寝息は途切れない。

健やかな様子にマダラは笑みを深め、メリノが眠る寝台の端に腰かけた。


ぎしりと、音が鳴る。


「………………」


ふと、毛布の外に出ている手が目に留まった。

その手を取って、そっと指先に口づける。

これは、マダラへ甘い魔力を与えてくれる指先。

メリノの魔力は、マダラにとってはあれほどの甘露もないというほどに極上のもの。だがこれは、メリノの魔力が特別なのではなく、相性の問題だ。おそらく他の人間にとっては何の変哲もない魔力でしかないだろう。


(他の人間に味わわせるつもりは毛頭ないが…………)


そう考えたところで、少しだけ牙が出ていた。うっかり気持ちが高ぶってしまったらしい。

ついでだからと、牙を出したままで指先をかぷりと甘噛みしてみる。首筋でなくとも、メリノの肌が牙に触れるだけで満たされるものがある。


そこでぴくりと震えた指先と「んっ……」と上がった声に、起こしてしまったかとメリノへ視線を向けるが、その目は閉じられたまま。

なんとなく、声を上げた唇をじっと注視した。


(今度、口づけをしながら魔力を注いでもらおうか……)


魔力を送るのは、なにも指先でなくとも問題はないと言っていた覚えがある。メリノはとても器用に魔力を扱うので、そういったこともきっと可能だろう。


その思いつきに満足し、マダラは取り上げた指先を口元から離して自分の指を絡め、きゅっと握る。

男の自分の手とは違う、少し小さな手。器用に魔術を操る繊細な指。


(メリノは俺の指を気に入ってくれているが、)


マダラには、メリノの指の方がずっといいもののように思えた。こうして握っているだけで、なんだか幸せな気分になれる。

その幸せをもっと味わいたくて、さらに深く指を絡めた。


「………………」


そこまでしてもまだ眠る姿を見下ろしていると、なんだか物足りなくなってきた。

悪戯も楽しいが、そろそろ声が聞きたい。

マダラは、メリノの声も好きだ。


「メリノ、起きてください。あなたの声を聞かせて……」


耳元へ口を寄せて目覚めを促せば、毛布に包まった体がふるりと震えた。

小さく呻きながらゆっくりと起き上がったメリノが、翡翠のような深緑の瞳をマダラへ向ける。


「…………マダラ、おはようございます」

「はい、おはようございます」


まだぼんやりとしている恋人の頬へ、ちゅっと口づけを贈る。

すっかり習慣となっている挨拶に、メリノもごく自然に返してくれる。


いつもはここで寝台から離れるところだが、昨夜からいろいろ考えてしまったせいなのか、もう少しメリノを感じたい気分だった。


「メリノ、」

「ん、」


腰かけた寝台に手をついて体重をかけ、メリノへ顔を寄せる。抵抗もなく素直に受け入れてくれる様子に、笑みがこぼれる。


マダラはメリノからの愛情をきちんと感じられている。だからまだ、待てる。

それでも、牙を捧げた後はこれ以上に満たされた気持ちになれるのだと思えば、とても楽しみだった。

以前からずっと楽しみにしているが、メリノからの愛情を受けるにつれて、さらに楽しみになっている。


「メリノ。はやく、あなたに牙を捧げたい…………」


マダラの小さな呟きは、メリノの口の中へ消えた。


ブックマーク400件のお礼話でした。

いつもお読みいただき、ありがとうございます(^^)

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