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獣騎士の捧げる牙  作者: 鳥飼泰
番外編 獣騎士の牙を受け取るまでの日々
12/27

小話:限定メニュー

街で出会った友人のミゼットが、嬉しそうに教えてくれた。


「メリノ、冬の恋人メニューが出ているわよ!」

「……もしかしてそれ、以前に恋人限定メニューを出していたカフェ?」

「そう。今回もとっても良かったわ」


以前もミゼットからカフェで恋人限定メニューがあると教えられ、マダラを誘って行ってみたことがある。部屋の設備が少しばかり衝撃的だったが、とても美味しかったし、マダラとふたりで楽しい時間ではあった。

ただその後、付き合ってもらった対価をマダラに求められたことをメリノは忘れていない。それはカフェに行く前からの約束だったものをメリノが忘れていたから悪かったのかもしれないが、思ったよりもいろいろされてしまった。


今回はそうならないように、その話がマダラの耳に入る前に口止めしておかなければと、メリノが口を開こうとした、そのとき。


「おや、メリノ。またあのカフェに行きたいので?」


背後から、機嫌のよさそうな声がした。


「あら、マダラさん。こんにちは」

「こんにちは、ミゼットさん」


固まってしまったメリノの隣に並んだマダラが、にこやかにミゼットと挨拶を交わしている。


「カフェで冬の恋人メニューが出ているって、話していたんです。メリノ、マダラさんに付き合ってもらって、また行って来たらいいわよ」

「ふうん。メリノ、……俺に付き合ってほしい?」


笑顔でこちらを見てくるマダラは、カフェに付き合った後の対価を求めている獣の顔をしている。しかしミゼットにはそれが伝わっていないようだ。


「え、いや、今回は…………」


ひとまず断ってこの場をしのごうとしたメリノに、ミゼットが悪意なく追加の情報を出してくる。


「今回はね、メリノの好きなホットビスケットもあったわよ」

「えっ」


メリノはホットビスケットが大好きだ。スコーンとはまた違う、さくさくでバターの風味たっぷりの焼き菓子は、その香りだけで心が躍ってしまう。


「それに、冬のメニューだから、はやく行かないと終わってしまうかもね」

「ええっ」


確かに、そろそろ春と言える時期だ。冬の限定メニューなら、もしかしたら今日明日にでも終わってしまうかもしれない。


前回訪れたときの恋人メニューは、どれも一口サイズで可愛く盛られていて、見た目だけでなく味もとても良かった。あのカフェのホットビスケットなら、きっと美味しいだろうと期待できる。

メリノがいちばん好きなホットビスケットは、なんでも器用にこなすマダラが焼いたものだが、他のお店のものだってやはり食べてみたい。


「あ、普通のメニューでホットビスケットを注文すれば、」

「あそこのカフェ、普段は出していないのよ」


なにもマダラに付き合ってもらう必要はないのではと思いついて言ってみたが、それではホットビスケットが食べられないらしい。

普段は出されないホットビスケットなんて、きっと力を入れて作っているのではないだろうか。限定と言われれば、ますます食べてみたくなってくる。


「うう……」

「メリノ?」


ぐるぐると迷っているメリノに焦れたのか、獣が笑顔で急かしてくる。


「あ、マダラが行きたいなら、付き合いますよ?」


この圧をミゼットにも理解させて話の方向を変えようと、メリノは、マダラが行きたがっているのだとさり気なく伝えてみた。


「やだ。行きたいのはあなたでしょう、メリノ? 前回のも、楽しめたって言っていたじゃない」

「ふふ。メリノが行きたいところなら、俺も行きたいですよ」

「うわあ、マダラさん、優しいですね」


だが頬を染めた友人は、ここでメリノの希望をくみ取ってはくれなかった。ミゼットは獣騎士に憧れがあるから、紳士な騎士であるマダラにとても好意的なのだ。先日のモズに対する態度もそうだった。


このままではいけないと、ここでようやくメリノは覚悟を決めた。

どうしたって、カフェの限定ホットビスケットは食べたい。そしておそらく、マダラも譲る気はないのだろう。

であれば、せめてこちらの取り分を多く確保するべきだ。


「マダラ」


迷いを捨てたメリノが、そっとマダラと指を触れ合わせて名を呼べば、獣は、おやと眉を上げた。


「カフェのホットビスケットが食べたいので、付き合ってくれますか?」

「ええ、もちろん」


望んでいたであろう言葉にマダラは満足げに頷いて触れた指を絡め、するりと手を握ってきた。


「それから、」

「ん?」


繋いだ手に力を込めて、メリノは言葉を続ける。


「それとは別に、マダラのホットビスケットも食べたいです」

「………………」


さらに要求が出たことが意外だったのか、マダラが目を瞬いた。

カフェのホットビスケットも魅力的だが、やはりメリノのいちばん好きなホットビスケットは、マダラの焼いたものだ。だから、どちらも食べたいというのがメリノの正直な欲求だった。


「……ええ、構いませんよ。今度、おやつに焼きましょうね」

「ありがとうございます」


ふんわりと微笑んだマダラが受け入れてくれたので、メリノも嬉しくなって笑みを返した。繋いだ手を振り回したい気分だったが、ミゼットが居るのでさすがにやめておいた。




後日、メリノは冬の限定メニューを求めてマダラと一緒にカフェへ向かった。そこでいただいたホットビスケットはとても美味しかったが、やはりその後のマダラの要求ではちょっと大変な思いをしたのだった。だが、限定ホットビスケットとマダラのホットビスケットのためなら、後悔はない。


おかげさまで、「獣騎士の捧げる牙」はブックマークが200件を超えました。ありがとうございます。

これを記念してTwitterで小ネタ10個という企画を行いました。それをまとめたものをPDFにして、2021年3月20日まで無料配布中です。詳細は2021年3月13日の活動報告にありますので、よければ併せてお楽しみいただければと思います。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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