第89話 来客 - 謎の全裸エルフと三人の死神たち -
※アクセス10万PVを記念して少し長めです
家でまったりしていれば、リースの悲鳴が上がった。
何事かと思い、駆けつけると……。
「……んげっ!!」
なんとそこには……『裸のおっさん』がいた。
「うわぁぁぁあああ!! ヘンタイだあああああああ!!」
「はい? 呼びました?」
「いや、フォルの事じゃない! お前は確かに『ヘンタイ聖女』だが今は違う。このおっさんだよ!」
「おじさま……? って……いやああああああヘンタイですぅ!! もじゃもじゃのゾウさんですー!!」
リースは立ったまま硬直。
フォルも顔を真っ青にして、頭を抱え、その場に座りこむ。
こりゃ目を覆いたくなるような地獄だ……つーか。
「おい、おっさん。何やってんだ!! 全裸で!」
そう訴えかけるも、おっさんは無言のまま。
つーかなんで、そんな人を殺しそうな威圧的な目で俺を睨むかな(汗)
「ちょっと、サトル。そのおっさん知り合いなの? 見るに堪えないんだけど。汚いし。早く、その辺に捨ててきて頂戴。ほら、ベルなんかこの世の終わりのような顔してるわよ」
メサイアがジトっとした目で俺を睨む。
完全に汚物扱いだなぁ。なぜか俺を含め。
ベルはそっぽを向いているので、表情は分からないが……いつもクールな彼女がね。その表情、ちょっと見てみたかったな。
「つーか、知り合いなワケあるか! つか、おっさんマジで何やってんだよ」
「そうですよ、なにやってるんですかお父さん!!」
と、硬直していたはずのリースが口を開いた。
すんごい形相で。
あ、あんな修羅顔はじめて見た……こえ~。
「え……お父さん!!?」
あー…。えーっと……、つまりなんだ……?
この全裸のおっさんは……
「リースの親父さんなのか!?」
「はい……」
確かによ~く見ると、耳が尖ってる。エルフだ。
だけど全裸だ。
至る箇所がじゃもじゃジャングルである。
「……やべ、モロに見ちまった、おええええ!」
「お父さん! お願いですから、みんなの前で全裸はやめてください!!」
「なにを言っている、リース。アヴァロンではいつもこうだったではないか」
――と、親父さんはリースをそのまま抱きしめた。
「イヤアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「おぉ、叫ぶほど嬉しいか! お父さんも嬉しいぞ~!!」
リースを頬ずりしまくる親父さん。その腕の中で、リース……いよいよ泡吹いて気絶しそうだ。明らかに喜んではいない。死にそうだ。
ああ、もう仕方ないな。
「お義父さん、せめて服を着てください。ポリスメンのお世話になっちゃいますよ。というか、ここまでよく捕まらずに来れましたね」
「誰がお義父さんだ!! 私と娘の感動の再会の邪魔をしないでくれ。それになんだ、キミは……リースとはどういう関係だね? まさか、恋人同士だとか言うんじゃないだろうね。もしそうなら……キミを五体満足で生かしてはおけないねェ……。手始めに、キミの一番大事なところを握りつぶさせてもらう」
ギロッ……。
めちゃくちゃ睨まれた。コエー…。
「ダ……ダメですよお父さん! サトルさんは……その……。そう、未来を約束した旦那様なんですから!!!」
そのリースの告白により――
「………………」
リースの親父さんは怒り狂うのかと思いきや――白目を剥いてぶっ倒れた。もちろん全裸のまま。
「メサイアさん! 今です! お父さんを『テレポート』でどこかへ捨てちゃってください!」
「え……でもいいの、リース。せっかく会いに来てくれたんでしょう、全裸で」
「いいんです! こんな全裸な人はお父さんなんかじゃないです! お願いですからぁぁぁ!」
「わ、分かったわよ。そんなに泣きつかないで……。じゃ、一応そこそこ安全なところに……『テレポート』!」
メサイアのテレポートにより、リースの親父さんは消え去った。
「……悪夢は去ったな。いや、運の悪い事故だったんだ、今のは……」
◆
コンコン……と、また扉をノックする音が。
その時、リースがビクッと反応していた。すっかり敏感になっているな。
「面倒くさいが俺が出るか……」
まさかとは思いたくないが、まさかな。
嫌な予感を振り払いながら玄関を開けると、そこには……
「あんた……オルクスか」
「久しぶりだな、サトル。プルートとモルスもいるぞ」
「やっほー、サトルくーん☆」
「こんにちは、サトルさん」
「久しぶりだな……でも、なんでお前たちが? てか、よく道に迷わず来れたな。一応ここ、聖地・パーシヴァルだし」
「馬鹿にされては困る。俺たちだって歩いて来れるさ!」
と、オルクスは堂々としていたが――
「神王様に『テレポート』してもらったんです。でも、ちょっとだけ迷っちゃいましたけど……」
モル子がすぐにバラした。
……やっぱりか。でも迷子になっていたのかよ。相変わらずだな。
「まあいい、立ち話もなんだし上がれよ」
「ありがたく」
「お邪魔しま~す♪」
「お邪魔します」
「お邪魔する……!」
死神三人を家に上げると、すぐにメサイアが反応を示した。
ん……?
まて。
最後にいるはずのない『四人目の声』も聞こえた気がするが――
って、おいィ!! 幻聴じゃねぇ!!
「リースの親父さん……!! あんたいつの間に!! しかもまだ裸じゃねーか!!」
「「「え……」」」
死神たちが振り返り、その悍ましい物体を直視してしまい――
「「「いうあうえええええええええええ!!!」」」
てんやわんや、阿鼻叫喚の大騒ぎとなってしまった……。
それを聞きつけてやってきたメサイア。
「え……オルクス、みんな! どうして家に? って、リースのお父さんも!?」
「メ……メサイア様、お元気そうでなにより。我々は、神王様の言伝を授かっております。それをお伝えに来たのですが……。この裸のヘンタイはいったいなんですか……! 説明を願いたいのですが、サトル!!」
「すまん、オルクス。それを話すと長くなるんだが……。ていうか、さっきテレポートで飛ばしたんだけどなぁ……なあ、リース……って!!」
リースはソファで気絶していた。
顔も紫に変色しとるな……ありゃ、相当ショックだったんだろうな。あとで心のケアをしてやらねばな。
「メサイア、あの親父さんを『テレポート』で出来る限り遠くへ飛ばしてくれ」
「ええ。任せて」
「……ま、まて! 私はただ娘に会いたく――」
ヘンタイはテレポートで消え去った。
「よくやったメサイア」
「褒められたって嬉しくないわよ……。それより、オルクス、プルート、モル子。いらっしゃい。大歓迎するわ」
「ありがとぉ~! へえ、初めてきたけど、ここがメサイアの家なんだ~☆ 居心地いいわぁ……」
「珍妙。風変り。でも、安心できる構造……心が落ち着く。不思議です」
プルートとモル子は物珍しそうに家の中を吟味していた。
そんなに珍しいモノは置いていないけどな。
まあでも、この世界の普通の家とは作りが異なるしな。近代的だし。
「あの~、兄様、そちらの方たちって以前……」
「そや、メサイア以外はあんまり話してなかったな。こちらへっぽこ死神三人衆だ。あと、方向音痴――以上だ」
「ちょっとまて、サトル! それだけか!? 面倒臭がらないで、もっとちゃんと紹介してくれ! でないと、『死神の鎌』で腕を切り落とすぞ!?」
「勘弁してくれ。この前、左腕を失ったばかりだぜ。しゃーなしだな、うん。オルクスはこう見えて乙女な部分もあるな」
「……なっ!」
わなわなと震えるオルクス。顔がちょっと赤いな。熱でもあるのか?
「ちょ……ちょっとだけ嬉しかったぞ。サトル」
「嬉しかったのかよ」
「さ、さて……本題に入ろう。みんなに聞いて欲しいのだが、これで全員だろうか?」
「ああ、みんないるよ。リースは、心的外傷後ストレス障害気味なんだ。精神的ショックを受けて気を失っているから、あとで俺が話しておく」
「……そうか、それはお気の毒に。それでは仕方ない。では、神王様のお言葉だが――」
オルクスは、そこで言葉をいったん切ると、
「なんかね~。アルクトゥルス様、ちょっと怒ってたみたい。世界が滅亡しかけたーって! それで、サトルくんにね、何があったの!? だって」
「捕捉すると、つい数日前――聖地・パーシヴァルで激しい地殻変動がありました。それは恐ろしいほどの衝撃波がこの世界を30周以上はしたようです」
「――――というわけだ……」
オルクスはその一言で終わった。
プルートとモルスが横から入り、全て説明してしまったようだ。
「……ああ、それな。ちょっと色々あって、俺たちが聖地をぶっ壊しちまったよ」
「ぶ、ぶっ壊しただって!? なにをしたんだ、サトル」
「長くなるから説明はこうだ……かくかくしかじか!!」
「まじか!!」「聖地がそんな事に!」「あのドラゴン分裂したんだ……」
それぞれ反応があり、驚きを隠せないでいた。
「とりあえず、サトル、お前を逮捕する」
――と、オルクスに黒いロープのようなもので、俺は両手を縛られた。
「いきなり何しやがる」
簡単にバキッと外し、俺は自由を得た。
「勝手に外すな! お前を連行するんだ、神王様のもとまでな。
いいか、これは天命でもある。お前が抵抗した場合、縛り上げてでも連れてこいとのお達しだ。だから、連れていくぞ」
「ふざけるな、断る」
「では、諦める」
「諦めるのはええなオイ!!」
「ダッテ……オマエ ニ カテル ワケ ナイジャン」
「なんで大昔のレトロゲーム風に喋るんだよ!? 普通に喋れよ!」
「お前の強さはこの目でしかと確認済み。だから、争いに意味などない。であれば、我々はお前たちの味方というワケだ」
「なんだ、素直だな」
「……さっき『乙女』と言ってくれたからな……」
ボソッっとレベルで声が小さくて聞き取れなかったが、まあいいか。
「ともかく、伝えることは伝えた。そういうワケで、我々は道に迷い続けて、三日前から一睡もしていない!! お休……Zzz……」
その瞬間、オルクス、プルート、モル子は同時に床に倒れて、大の字で寝てしまった。ぐが~~~と寝息を立てている。
おいおい、三日も寝てなかったのかよ……!? つーか、玄関前で迷うなよ……。どこほっつき歩いていたんだか。
「こんなところで寝たら風邪ひきますよ~」
フォルの言う通りだ。
しゃーない。俺が三人いっぺんに運ぶか。
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