第74話 祝福の光 - 聖戦士はバニーガール -
『祝福の光』が聖地全体を包んだ。
邪悪なモンスターは全て消し飛び、その身を滅ぼした。
「綺麗で、暖かな光ね……」
真っ白な光の中で、誰かがそうつぶやいた。
多分、この声はメサイアだろう。
◆
【聖地・アーサー】を離れ、次に【聖地・パーシヴァル】を目指した。
その場所までは、山を越えなければならない。
「歩き疲れたー…ねえ、そろそろ休憩にしましょ、サトル」
「ん。そうだな、日も沈みそうだし、腹も減ったし、こんな荒野のど真ん中だけど『家』を出すか。ほいよっと」
俺は【運搬スキル】で『家』を展開。
モンスターに襲われそうな、荒野ど真ん中に設置した。
こんな所に家を? ――と、みんな疑問に思った。
心配はいらない。
何故なら、今じゃすっかり自動で自衛してくれる要塞のような『家』だからだ。だから、高レベルのモンスターが襲って来ようとも、勝手に撃退してくれる。もうどこにいても、ヘッチャラだ。
しかも、それで経験値も入れば、アイテムも勝手に収集してくれる。まさか、ここまで進化してしまったとはな、建てた俺自身もビックリだぜ。
というか、超絶面倒臭がりの俺には最強の家すぎた。
「ところで、サトル。いくら『家』が強化されたといっても、まだ防衛力が足りない部分もあるわ。『みんなのスキル』を反映できるよう、改造しておいたから、これからは好き放題セットできるわよ。30個までだけど」
「ほーん。みんなのスキルをね……って、みんなの!? そりゃ、すごいな。もう敵なしっていうか……家に引きこもっていても良いくらいだな!?」
「ええ、だから今後の狩りは、もう家にいればいいと思う! だるいし!」
「そうだな、いちいち外に出るとか面倒だし、だるいわ。そうしようぜ」
「賛成ですー!」
と、もともと引きこもりのリースも賛成。
「反対ですー!」
「ほう、フォルは反対か。理由を三文字以内で述べろ」
「筋トレ」
なるほど、見事に三文字だ。ってそりゃいいや。
筋トレだぁ!? そんなもん家でも出来るじゃん。
「んなもんは家でしろ。ここから先、外は危険なモンスターとエンカウントしやすいからな。それに、【聖地・パーシヴァル】は汚染されているとも聞いた。……疫病がどうたらとか不穏な情報も多い。だから、今は家にこもっておくのが得策だ」
「え~! それでは、わたくしの腹筋がブヨブヨになってしまうではありませんか~! この美しい体形を保つには、日々筋トレあるのみですから!」
が~っと、泣きながらしがみついてくる聖女。
ええい、顔が近い!
「お前は痩せすぎだ! 俺はもう少しムッチリしている方が好みだぞ」
「……! そ、そうでしたか。それでは仕方ありませんね。やや複雑ですが、賛成に転じます!」
なんか急に意見が変わったな。まあいいか。
「で、あとはベルだが……」
「ん~? 呼んだ~?」
くいっとこちらを振り向くベル。
今は何故か『バニーガール』の姿なんだよなあ。なんでだろうなあ。
「……くっ、刺激の強い」
「刺激? ああ、これね。どう? 似合うでしょう、バニーガール」
「ああ……パーフェクトだ。で、なんでそんなハレンチな恰好をしているんだ」
「ハレンチとは失礼だなあ。ほら、ここって花の都の近くでしょ。少し様子を見に行っていたら、たまたまカジノの人からスカウトされちゃってね~。ちょっと興味もあったし、いいかなって。それに、少しは稼がないと、そろそろお金もキツいでしょ?」
「それは……そうだが」
そういえば、花の都・フリージアに近いんだっけ。
だからって、カジノねえ。
まあ、おかげであんな露出度の高いバニーガール姿を拝めるんだ。悪くはない。つっても、ベルは普段から『ビキニアーマー』だけどな。
「そろそろ出勤しなきゃ。あ、そうだ。みんな、カジノに遊びに来ない?」
「ふーむ……よし、たまには気分転換もいいだろう。なあ、メサイア」
「そうね! 少しは気晴らしも必要よね」
既に、大量のプルを握りしめている女神。
こいつ、やる気満々じゃないか!
◆
『金は命より重い』――。
誰が言ったか覚えていないが、非常に刺さる言葉だ。
それは正しくその通り。正論だ。
「うあぁぁぁぁ~~~ん! サトル、お金貸して! お金よ!」
大損こいた女神が泣き崩れていた。
哀れにも、全ての所持金を失ったようだ。
「バカヤロウ。俺に金の無心をするな! しがみつくな! つーか、お前、スロットにルーレット、ポーカー全部負けやがって……今後の生活どーすんだよ!?」
「そ……それは、体を売るしか……」
「売るな!!」
『……体を売っていただくしかないよなあ、姉ちゃん』
ボキボキと指を鳴らしてやってくる黒服の男たち。
えーっと……なんなこの物騒な人たち。
「あんた達は?」
「俺らは、この黒い姉ちゃんに金を貸し付けたんだ、締めて1000万プル。耳揃えて返してもらおうか……えぇ!?」
「おい、女神。お前……いつの間に金を、しかも闇金から借りたんだ」
「てへっ☆」
「てへっ……じゃねええええええ!! ……よし、お前、体売れ」
「ちょ、ひっどーい! そこは助けるところでしょう普通!」
「自業自得だ、アホ。いいか、ある格言がある……今日をがんばった者、今日をがんばり始めた者にのみ……明日が来るんだよってな」
「いやよ、私は明日から本気だすタイプなの!」
「開き直るなアホ女神!」
「てめーら、いつまで夫婦漫才してんだあああああ!! さっさと金を返しやがれ! 利子含めて1500万プルだ!!!」
「うるせええええええ!!」
俺は黒服をぶん殴った。
「うぎょおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
「おっと、すまねえ、つい! えーっと、じゃあ、あんた。金は必ず返す。ちょっと待っていてくれ。十分以内には返せる」
ぶん殴ったヤツは気絶しちゃったので、他の男に説得してみた。
すると、
「ほ……本当だろうな。嘘であれば、ボスが黙っちゃいないぞ」
「本当だ。アテがあるんだ」
「わ、分かった。だが、その女は置いていくんだ。いいな」
「助かった。それじゃ、メサイア。しばらく待っていてくれ。金は俺がなんとかする」
「サトル……。やっぱり、最後はあんたが頼りね。信じているわ」
「ああ、俺たち今まで一緒にピンチを潜り抜けてきただろ。今回もきっと何とかなるはずさ」
タイムリミットは、十分。
なんとか……なるだろ!!
ざわ……。ざわざわ……。
心がざわつく。
要は勝てばいいんだ……勝てばな!
いつも応援ありがとうございます。
もしも面白い・続きが読みたいと感じましたら、ぜひブックマーク・評価をお願いします。感想もお気軽に書いて戴けると嬉しいです。




