第69話 光と闇の混沌 - 死の呪いの秘密 -
魔界を通り抜けていくと、そこには都があった。
「かなり歩いてきたが、こんなところに都があるだなんて……!」
かなり驚いた。
道中はモンスターだらけの『魔界』だったというのに、安全な道を歩いて行けば、その先は都だったのだ。
「ここはまあ、【ダークアヴァロン】とでも言うべきか。ダークエルフしかおらん都なのだよ。『魔導具』の製造を生業としていてね、最近では『ファントム』なる闇のレアアイテムの生成にも成功したのだが、モンスターに奪われてしまってね」
と、クラウディオスは、何だか気になる情報を寄越した。
はー…ん? 『ファントム』ね?
えぇ!? ファントム!?
それ、俺が持ってるヤツじゃん……しかも、闇のアイテムなのかよ!?
俺は……聞かなかった事にした。
「てか、そもそも、あんた何でダークエルフなんだよ。もともとは純粋なエルフじゃあなかったのかよ」
「それも込みで説明する。こちらへ」
都の中で一番大きいお城があった。
そこへ向かうらしい。
……にしても、本当にエルフしかいないな。
リースの様に耳が尖ってるし、金髪やら中には黒髪もいるが……違いがサッパリ分からん。ただ、みんなどこか『闇』を抱えているようには見えた。それに、みんなクラウディオスに頭を垂れていた。
「こっちだ」
城の中へ入る……かと思ったら、そこをスルーした。
城じゃないのかよ。
「何をしている。城へは行かん。これから、お主らに見せるのは【死の呪い】の残滓。その片鱗よ」
更に歩く。
みんな黙々と歩き、そこを目指した。
都の中央に近づくにつれ――
闇が深くなってきた。
ピリピリと感じる、嫌な気配。
感じたことのある死の味。
冷酷で残酷なまでの孤独。
「ここだ。この場所こそが――」
「……」
その光景を見て、俺はただ…………
こりゃ――【死の呪い】――っていうか。
「なんだ、あの金色の、円盤……?」
広範囲にかけてドス黒いというのに、そのど真ん中だけは『金色の円盤』が神々しくも鎮座していた。なぜあんな所に。
「アレはなんだ?」
「アレは【根源】だよ」
「そして……【死の呪い】でもある」
ベルとクラウディオスがそれぞれ発言した。
「まて、まってくれ……どっちなんだ?」
「理くん、キミとわたしはアレにいたんだ。けれど、読み出すには【特異点】という闇のスキルが必要だった。つまり――【死の呪い】。それを可能にしたのが、このダークエルフのクラウディオスだった」
「ハーデンベルギアの言う通りでね。余は、禁呪スキルを編み出し、あの金色の円盤――【アカシックレコード】に『シングラリティ』を与えた。だがそれは、やがて【死の呪い】となり、世界を混沌に陥れてしまった。なぜそうなったのか、そこまでは分からんが……余が思うに、サトルとハーデンベルギアの『死』が起因しているのではないかと推測する」
「俺と……ベルの!?」
そんなアホな。
俺とベルの『死』が世界に影響を与えているとでも?
「いやだがまてよ。確か、死の魔王・ゾルタクスゼイアンだって【死の呪い】を扱えたとか聞いたぞ。それはどう説明するんだ?」
「言ったであろう、悪用されたと。
今ここにある【死の呪い】は残りカスにすぎん。魔王が一度は奪い、しかし、今は『冥界の死女神・アルラトゥ』の手中と噂に聞いた」
「なっ……アルラトゥが!?」
「そうさ。……まあ、何にせよ、余がキッカケを作ったのは確かだがな」
「どうしてそんな事を……」
「……余はただ知りたかったのだ。この世界の『理』というものを。その代償がこの闇落ち――『ダークエルフ』となってしまったがな」
好奇心は猫を殺す。
いや、これはシュレーディンガーの猫かもな。
あー、クソ。
俺とベルがあんな『円盤』にいたって?
アホか。信じられるかってーの。
「サトル……あんた、あんな円盤から生まれてきたのね?」
メサイアがやっと口を開く。
「いや、俺も何がなんだか分からん。メサイア、お前の方が詳しいんじゃねーの?」
「う~ん。それがね、契約の時のことは覚えてないし……」
あー…そいや、コイツが契約したんじゃない。神王・アルクトゥルスの嫁で、見た目メサイアそのまんまの『ソフィア』が俺と契約したんだった。
てことは、まてよ。
ソフィアが俺を【虹の空中庭園】に呼んで、それから契約を? でも、どうやって呼んだんだ? 女神の力とでも言うのか。……まあそうなんだろうな。
結局、ソフィアすらも【死の呪い】に掛かってしまっていたようだし。案外、俺のせいかもな。ああ……クソ。そうなると、今回の件は、あながち間違いではないのかもしれない。
「兄様、あの『円盤』の光って『アストラル』かもしれませんね」
「アストラル?」
「ええ、星の世界とかそんな意味がありますよ」
「フォルちゃん、あたしは『アーカーシャ』と聞いたことがあります。月と太陽によって齎される火、水、風、地の四元素。それは『色即是空』を意味しているみたいです」
ふむぅ。
どうやら、あの円盤はとんでもない代物らしい事は分かった。
まさか、俺の出生の秘密があんなところにあったとはな。ゾッとした。
「とりあえず……なんだ。【死の呪い】を無効化とかできるのか? クラウディオスさん」
「その方法は、ただひとつ。
【死の呪い】を持つ『冥界の死女神・アルラトゥ』を倒すこと」
「やっぱり……それしかないか」
あのアルラトゥもまた、メサイアにそっくりというか分身らしい。とても、やり辛い相手だ……。
もうだめだ。
頭の処理が追い付かないし、一度、落ち着いていろいろ整理したい。
そんな提案をしようとした時だった。
ドン、ドンとふたつの気配が落下した。
激しい衝撃が地面を抉り、そいつらは毅然とこちらを凝視してきた。
「なんだ……ヤツ等!?」
『私は、光の騎士『マナス』です。もう会うこともないでしょうが、あえて名乗ったのは冥土の土産ですよ。
ああ~…それにしても、この場所はなんて豊潤な闇で溢れているのだろうか。光である私がより美しく輝ける。素晴らしい晴れ舞台ですよ』
『吾輩は……闇の騎士『アロンダイト』である……。ぜひ、皆様には死んで戴きたいッ……!! ウヒャヒャヒャヒャ!! ヒャッハーーーーーーー!!!』
「こ、こいつら……騎士か!」
しかも、殺意ありまくりの……!
「手始めに――星の王『クラウディオス・プトレマイオス』……あなたには死んで戴きます。いいですね。これは神王・アルクトゥルス様の天命して厳命です」
――と、光の騎士が冷血に。
あんな優しい表情のクセして、なんて恐ろしい殺気だ。
てか、神王の厳命だぁ? 嘘だ。信じられん。
「みんな、戦闘態勢だ。ヤツ等、俺らを襲う気まんまんだぞ」
「サトル、私も戦う」
「メサイア……そうだな、お前はもう戦えるもんな。頼むぜ、相棒。
よし、ベルはリースを守ってやってくれ。後方で魔法スキルに徹してくれると有難い。フォルも俺たちと一緒に。いいな」
「分かったよ~」「はいなのですよ!」「承知しました!」
「殺戮ショーの始まりだァ……ワハハハハ、ギャハハハハハヒャハハハハハァーーーーーーー!!!!!!!」
あの闇の騎士……黒い剣を振り回し、狂気に満ちてやがる。
イカれてやがるな。
俺は最初から本気でいく。
【トランセンデンス】発動――!!
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