第67話 聖女の本気 - グロリアスエクソシズム -
聖地・ガウェインの街は呪われていた。
暗黒に満ち、至るところにゾンビが徘徊。街の人々を襲っていた。
「これのどこが『聖地』なんだ!?」
「うん。今は、星の王『クラウディオス・プトレマイオス』によって支配されているからね。……って、理くん、危ない!!」
ドンッとベルから背中を押され、俺は躓く。
「なにしやが……うわっ! ゾンビ!」
しかも『テラゾンビ』というLv.6666のヤバイヤツだった。
ふぅ~あぶね。危うく噛まれるところだった。
噛まれたらゾンビ化するのだろうか。
などと呑気に考えていると、メサイアが口を開く。
「サトル、さっさとテラゾンビを処理するわよ。リース、また【オルクス】を付与するから、大魔法をお願いね」
「はいですよ~! でも、メサイアさん」
「ん? どうしたの?」
「大魔法を放つと、建物を破壊してしまう恐れが……」
「そ、それもそうね。じゃ、サトルよろしく」
「結局、俺か。それじゃ、これが終わったら、今日はメサイアが料理を作ってくれよ」
「私が? まあ、たまにはいいか」
メサイアは滅多に料理をしないが……この女神、実はフォルに匹敵する『料理スキル』を隠し持っていた。一週間前、たまたま気が乗ったらしく、作ってくれたハンバーグは、激ウマだった。
「よし、じゃ~『煉獄』で燃やすか――って!!」
ゾンビを燃やそうとした、その時だった。
「覇王爆砕拳――――――ッ!!!!!!」
フォルがゾンビの群れに猪突猛進していた。
強烈な拳を地面に打ち込み、地割れを起こし、ゾンビが爆散した。――なんて破壊力だ。あまりに唐突だったから、さすがにちょっとビビったぞ。
「ちょっ、フォル!」
「兄様! 全てこのわたくしにお任せを! ゾンビが相手とあらば、容赦しません! 聖職者として見過ごすワケにはいかないのです!」
そいや、すっかり忘れていたが、フォルは聖職者だったな。うん、本当にすっかり忘れていた。最近『ヘンタイ聖女』とばかり呼んでいたからな!
「おう、頼む」
「詠唱が長いので使わなかったのですが、この本気スキルを使う時が来ました……!」
フォルは構えると、それを街全体に展開した。
『グロリアスエクソシズム!!』
瞬く間に広がる聖なる光。
テラゾンビ共が一気に浄化されていく。
『ウギョォォォォォォォォオオオ~~~~~~~~~~ッ!!!!!』
この世の終わりのような雄叫びが街を包む。
「これは凄いな。ゾンビがどんどん消えていく……!」
「フォルちゃんカッコいいですー!」
「とか言いながらリースよ、なぜ俺の背中に乗ってくるー!?」
「怖いからです……」
「そ、そうか」
◆
街はすっかり平和になった。
犠牲者も多かったが……。
「さあて、なんだっけ……星の王・クラなんちゃらは何処にいるんだ?」
「理くん。星の王『クラウディオス・プトレマイオス』だよ」
「そう、それ」
長ったらしい名前だから、覚えるのが面倒だ。
「というか、少し休憩にしようぜ。いいだろ、ちょっとくらい」
「うーん、そうだね。理くんがそう言うのなら」
「私も賛成~」
「あたしもです」
ふむふむ。
みんなちょっと疲れているな、休もう。
フォルは、生存者の手当てをしている。
さすが聖職者だ。あとは任せよう。
『や、休ませはしないぜ……兄貴……』
「へ?」
振り向くと、ボロボロの人間らしき姿があった。
「うわっ、ゾンビ!? まだ浄化されていないヤツがいたのか!!」
「いえ……オレです。チョースケでっせ」
「ああ、なんだチョースケか……って、チョースケ!? 顔が変形しまくって、分からんかったぞ!! なんかゴブリンみたいな顔になってるぞ……」
「あ、兄貴が殴ったんでしょうが……」
ああ、そいやグーで殴ったな。
「で、なんの用だ?」
「ぜ、ぜひ仲間に……いや、雑用でも奴隷でも何でもいい! 頼む!」
「するかっ!! つーか、お前みたいなモヒカン奴隷なんぞいらん!!」
「そんなことを言わず、どうかお願いだ!!」
「うわっ! その顔で近づいてくるな!! キモイわっ!!」
ハグされそうになり、俺は咄嗟にチョースケに悲しみのボディブローを、容赦なく徹底的に、心を鬼にして入れた。
『ぶほぇえぇええぇええええ~~~~~~~~~~~~ッ!!!!?!?』
チョースケは気絶した。
すまねえ、チョースケ。許せ。
「……さて、適当な空き地に『家』を展開しておくか」
◆
家で少し休息を取ることにした。
しかも『自分の部屋』で。
今まで山小屋だと一部屋しかなかったが、今は状況が変わった。『家』となったことで、今は各自の部屋がある。サイコーだね。
自分の部屋は一階にある。
中はふかふかのベッド、大き目なテーブルだけとシンプル。なぜこれほどシンプルなのかといえば、みんな俺の部屋にやってくるからだ!!
だから、モノを置きすぎると狭すぎるのだ。
みんな、自分の部屋でゆっくりしろよ!?
――とは、思うものの、俺としては天国なので結果オーライである。そんなワケで、自分の部屋で、ベッドの上で仰向けになってマッタリしていれば、やっぱりノックが。
やっぱり誰がきた。
いや、いいけどね。
「入っていいぞ」
「入るわね~、サトル」
「おう、メサイアか。どうした、体操着姿で……ん? 体操着ィ!?」
メサイアをよく見ると、白のシャツにブルマー姿だった。
「どう? この街で買ったのだけど」
「この街にそんなモンが売ってるのかよ! ……いや~…まあ、素晴らしいアイテムなのには間違いはないけどな」
あの染みひとつない、生の太腿はサイコーだね。
「ねえ、サトルどう~?」
――メサイアがベッドに腰かけてきた。
「どうって、似合ってるよ」
「ありがと……触りたい?」
「え……ど、どこを?」
「好きなとこ」
「す、好きなとこー!?」
好きなとこってどこ!?
何処でもいいってこと!?
「じゃ、じゃあ~…胸とか」
「うん」
なんだなんだー…メサイアのヤツ、妙に素直じゃないか。ちょっと怖いぞ。まあでも、せっかくだし、ここはお言葉に甘え――と、手を伸ばそうとしたところ。
コンコン……と、扉をノックする音が。
「うわっ、まずい! メサイア! 布団の中に隠れろ!」
「え!? きゃぁっ!?」
俺は、メサイアを押し倒し、布団の中へ押し込んだ。
出てこれないよう、上から体重をかけた。
「だ、誰だー?」
「わたしだよ~、理くん。ちょっと話があるんだけどねー。開けるよ~?」
ベルか。
つーか、入って来るし!
(~~~~! サ、サトル……!)
モガモガとメサイアが暴れる。だぁ、もう暴れるなって!
仕方ない! 俺は、メサイアを覆うように重なって、更に押し込めた。状況的にかなりアレだが、緊急事態だ! 仕方ない。
(…………さ、とる。ん……♡)
む!?
メサイアの様子がおかしいが、放っておこう。
「やあ、理くん。ってあれ、どうしたの布団に潜っちゃって。もうお眠かい?」
「そ、そうなんだよ。ちょっと疲れちゃってね。仮眠を取ろうかと」
「そかそか。そういえば、シアの姿が見えないんだけど」
「ん、メサイアか。アイツはどこだろうな」
俺が隠しているんだけどな!
「ああ、理くんも分からないのか。そっか、部屋の改造を頼もうかと思っていたんだけどなあ」
「部屋の改造? なんか不備があったのか?」
「いや、不備っていうか、ただのレイアウト変更を……ん? 理くん、息が荒いけど、大丈夫かい?」
まずい!
それはメサイアだ。誤魔化せ俺!!
「ちょ、ちょっとだけ熱っぽいんだ。微熱だ。平気だから、心配するな! それより、ベル。お前は、なんでいつもビキニアーマーなんだ!? そんな肌の露出が高い装備で大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ、問題ない。それとも、理くんは、わたしがゴテゴテのプレートアーマーの方がいいっていうのかい?」
「甲冑もカッコいいけどな。ただ、ベルがその恰好っていうのも想像がつかないな。……オーケー。キミはそのままでいい」
「うん。それじゃ、わたしはシアを探しに行くよ。じゃあね」
「お、おう」
ベルは部屋から出て行った。
「ふぅ~~~~…。あぶねーあぶねー。メサイア、大丈夫か?」
「…………」
アレ……反応がない。
なんか顔が赤いな。
「お、おい?」
「……サトル♡」
「うおわっ!?」
急に首に腕を回され、キスされた。
「――――――」
……えーっと。
まあいいか。
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