第563話 導かれる神様と導く女神
テーブルの上には、やたら豪勢な魚料理。
フォルが釣ってくれた魚なのだが、焼き魚や刺身になっていて盛り付けも完璧。さすが料理スキルをマスターしているだけある。
「フォルがいて本当に良かったわ」
木製の椅子に座るメサイアは、ぽつりとつぶやく。その通り。フォル以外は料理なんてまともに作れないからな。少なくとも俺とメサイアは食材を丸焦げにして終わりだ。
さっそく箸で魚料理を堪能していく。
まずは焼き魚。
海に泳いでいる一般的な魚モンスターであり、市場にも出回っているヤツだ。本来は樽のようにデカいのだが、フォルは上手く調理して食べやすいサイズにしてくれている。
「おぉ、脂がのっていて美味いな」
「この辺りの海魚は旬のようですね!」
さすが取れたて。新鮮な魚だし、味も濃厚だ。
「塩焼き最高です……!」
エルフ耳を激しく動かすリースは、焼き魚を気に入っていた。
という俺も箸が止まらない。
まさかイカダの上で、こんな美味い魚にありつけるとは……ナーストレンドの到着、もうちょい遅くなってもいいかもしれない。
しばらくは海の幸を堪能したいかも。
「うん。こっちの天ぷらも凄く美味しいわ!」
サクサクと音を立て魚の天ぷらを味わうメサイア。上品に味わっているが、笑みがこぼれている。
「海上生活も悪くないかもな?」
「そうね、サトル。私は陸上が一番だと思っていたけど、魚が直ぐ獲れるのはメリットあるわ」
「どうせ目的地到着まで数日掛かるんだ。しばらくはサバイバルだな」
「さっさと魔人を討伐したいところだったけど、このイカダじゃ仕方ないもんね」
諦めたかのようにメサイアは力を抜き、ようやくリラックスしていた。このところ、ずっと緊張感が漂っていたが、ようやく自然に戻ったな。
フォルの最高の料理を楽しみ――お腹は満腹に。
おかげで遭難だろうが漂流だろうが、なんとか生き残れそうだと確信した。
そうだ。
俺は一人ぼっちじゃない。
建築スキルを持つメサイア。
万能掃除スキルを持つリース。
料理マスターのフォルがいる。
そして、俺は危険なモンスターを排除する役目。みんなを守る存在だ。
ああ、きっとなんとかなるさ。
◆
大きな満月が落ちていく。
俺は小屋の外、つまりイカダの外回りを監視していた。
静かな海とはいえ、危険なモンスターがウヨウヨしているからな。襲われたらひとたまりもない。
――とはいえ【超覚醒オートスキル】で常に監視しているし、殺気には反応するようになっている。
モンスターがこちらに敵意を向ければ、俺のいつもの“覚醒煉獄”や“覚醒ヒドゥンクレバス”などなど強力な大技スキルがモンスターを迎撃および撃破する。
なので安全といえば安全だ。
イカダの安全を確かめていると、背後から気配が。
「見回りしているのね、サトル」
この落ち着いた声はメサイアだ。
俺は振り向き、視線を合わせた。
こうして二人きりなのは久しぶりな気がして、ちょっと照れるけど。
「まあな。俺にできることをしているのさ」
「魔人……倒さなきゃね」
「もちろんだ。世界がまたヤバいことになりかけているから、俺が守らないと」
レイドボスや魔王、支配者や死神やら……秘密結社などなど散々世界は支配されかけてきたが、俺が止めた。
一度は死にかけたこともあったけどな。
でも、それでも俺はこの世界に戻ってきた。
そして、平和を取り戻してきた。
だから、魔人だって俺がぶっ飛ばす。こんな最高な世界を好き勝手させてたまるかってーの。
それに、俺はこれでも一応、アルクトゥルスの名を引き継いだ責任がある。だから世界をひっくり返そうとするアホ共を阻止する責務があるのだ。
「メサイア、また俺に力を貸してくれ」
「いつも貸してるわ」
「……そうだな。いつも借りてる。俺の女神に……救世主に助けられてる」
なんとなく普段のお礼も込めて言ったつもりだったのだが、メサイアの反応は俺の予想を遥かに超えて――顔を真っ赤にしていた。
ふ、沸騰してる!?
「――なッ! な、な……!」
そんなに引くほど照れる!?
俺からどんどん離れて後退していくメサイアは、海に落ちそうなほど離れた。どこまで行くつもりだ。マジで落ちるぞ。
「すまん。変なこと言ったか?」
「べ、別に変なことではないけど……!」
「そうなのか」
「……そ、そうよ」
明らかに動揺しているのだが、こんな照れるメサイアは久々に見たような気がする。
「これからも導いてくれ」
「当たり前じゃない。私以外に誰が導けるのよ」
反論の余地もない。そうだ、ようやくここまで“普通”に戻れたんだ。魔人なんかに世界を破壊されてたまるか。
あのスターゲイザー事件で、俺は散々な目に遭ったからな。あんなパーティが離散するようなことはもう二度と御免だ。
「……メサイア」
「えっ、サトル! ちょ、ちょっと……こんなところでダメよ」
と、口では拒否していたものの体は素直だった。なんとアッサリと抱きしめさせてくれた。こうするの……久しぶりだ。
――いや、そうでもないか。
つい最近、お姫様抱っこしたっけ。でも、それは違う温もり。
全身でメサイアを感じられる。
……俺はメサイアがいないと生きていけないからな。




