第562話 漂流生活!? イカダの上で水を確保せよ!!
魔人が占領している『ナーストレンド』を目指すメサイア建築のイカダ。
あれから外回りに花壇を作り、辛うじて所持していた土を入れて簡易的な畑を作った。たぶん、これでは大きな野菜は作れないだろうけど。
ジャガイモくらいならいけるかも?
その昔、ジャガイモは育てたことがある。
こういう非常時用にメサイアのホワイトの中に“種芋”もある。
しばらく到着に時間が掛かることを考慮すると、食料を確保しておいた方がいいなと俺は判断した。
「まさか、イカダの上でジャガイモを育てることになるとはなぁ」
「こういうの久しぶりですね~」
楽しそうに種芋を植えるリース。
とはいえ、俺のオートスキルがあれば直ぐに育っちゃうんだけどね。
少し離れた場所では、フォルが海を下を眺めていた。泳いでいる魚を確保するつもりらしい。
しかも“素手”で。
んな無茶な――と、思いたいところだが……あのヘンタイ聖女は本当にやってのけてしまうからなぁ。
ここは普通、釣り竿を作って釣りをすればいいのだが、そういう常識が通じない連中だからな。ここは任せよう。
「――てやァッ! 冥王雷神拳!」
拳を海に向けるフォル。すると『ドゴォォォ!』っと轟音を立てて、稲妻が走る。その電気ショックのおかげだろう、複数の魚がプカプカ浮かんでいた。
本当に拳で吊り上げちまったよ。
つか、その技久しぶりだな。
「一撃で七匹も……凄いわね」
傍で見守っていたメサイアは、フォルの技を見てそんな感想を漏らす。
「もちろん、料理はわたくしにお任せください」
「ええ。フォルの料理スキルなら間違いないわ」
料理スキルがカンストしている聖女がいて良かった。フォルがいなければ、料理に関しては絶望的だったから……飢え死にしていたかもしれない。
ひとまず、食事は確保できた。
あとは飲み水かな。
「海水は飲めないしな……」
「大丈夫です!」
瞳を星のように輝かせるリース。その手には杖が握られていた。……って、まさか。
予想通り、リースは魔法陣を展開していた。イカン! もしや、水属性魔法スキルの『エターナルフロスト』を使う気か?
それだとイカダが吹き飛ぶ。
てか、氷しか出てこないぞ!
「まてまて!」
「安心してください。このスキルは『鏡花水月』!」
鏡花水月!?
珍しく四字熟語!
リースって、そういうタイプのスキルも習得していたのか……知らなかったぞ。
つか、どこかの異世界の駄女神が似たようなスキルを使っていたような。いや、そもそも色んなジャンルの作品に使われているし、曲名にもなっていたし――その影響でサクリファイスオンラインも実装していたのかもしれないな。
【鏡花水月】
【詳細】
指定した場所に『湧き水』を発生させる。
この水は安全で飲める。
湧き水のポイントは一か所のみ生成可能。
持続時間は30分。
スキルレベルに応じて持続時間がアップする。
「おぉ、こりゃ凄い! ……って、アレ。湧き水はどこに?」
「……あ」
「あ?」
「サトルさんの目を見つめていたので……サトルさんの目から『湧き水』が!」
「え……ぎゃああああああ、水があふれ出て目が、目があああああああああああ!!」
両目から大量の水が出て視界が奪われた。
リース、なんちゅうところに湧き水ポイントを指定したんだよォ!!
「ちょっとなに遊んでるのよ! 真面目にやりなさい!」
ぷりぷり起こるメサイアだが、この状況見て言ってるのか?
つうか助けろよ!?
「メサイア! 俺を助けろ!!」
「なんでそんな滝のように泣いてるのよ? リースに振られた?」
「ちゃうわ! リースの魔法で俺の両目から湧き水が生成されてるんだよ! 30分間も!」
「……わ、湧き水!? 飲めるの? ……いえ、さすがに飲みたくないわね」
ドン引きするメサイアだが、贅沢言っている場合じゃないだろ! 早く助けろ! 俺を!
「がああああああ、目が!」
どばああぁああぁぁと流れ続ける水。もはや、瀑布。イカダがぶっ壊れるくらい流れ続けている。俺はなにも見えない……地獄だ。
「ディ、ディスペル!」
その時、リースが魔法解除のスキルを俺に付与してくれた。おかげで鏡花水月は消失。……そうか! ディスペルなら魔法を解除できるんだった。
「…………っあぁ、助かった」
「ご、ごめんなさーい、サトルさん!」
「い、いや……気にするな」
今度はリースが両目から涙を流しまくっていた。水たまりができるくらいに。
「わたくしは兄様の涙だったら100リットルは飲めますけどね!」
……ヘンタイ聖女は黙っとれ!
つ……目が死んだ。視界が戻らん。目の前が真っ暗だぜ。
・
・
・
フォルからグロリアスヒールを受け、俺は視界を回復。地獄から脱した。
「――結局、サトルの両目から流した水を確保ね」
樽を見つめるメサイア。あれはメサイアが建築スキルで作ったものだ。その樽の中には俺が流しまくった水が収められている。
結構勢いよく流れたので、一瞬で溜まったらしい。
……あれで良かったのか?
「もう一度、鏡花水月を使って水を確保した方がいいんじゃないか? 安全面も考慮して」
「なに言ってるの。冗談よ」
「冗談かよ!」
俺の両目から流した水はなかったらしい。
視界が奪われている間、生成し直して水を確保したようだ。……いつの間に。
「本当にごめんなさい、サトルさん」
「気にすんなって。誰でも失敗はあるさ」
そういえば、リースが“ポンコツエルフ”だってことを忘れていたよ。
あれから外は日が落ちて夜。
俺たちは小屋へ戻り、まったり。
フォルが料理スキルで今日獲った魚を調理しているようだ。うーん、良い匂いがするぜ。
「――ところで」
「どうした、メサイア」
「このイカダの移動速度が遅すぎるわね」
「オートスキルで動かしてはいるがな……。イカダでは厳しいな」
「このままだと到着に数日、数週間かかるかも」
「そうだな」
「なので」
「なので?」
「娯楽が必要ね」
「へ……」
娯楽ぅ?
このただでさえ狭い小屋に娯楽ね。
「カジノのスロットマシーンなんて置けないだろ」
「そんなの物理的に無理でしょ。ほら、遊●王とかポ●カとか出しなさいよ、サトル」
「無茶言うな!! てか、なんで知ってる!?」
まさかメサイアの口から、日本にあったカードゲームの名前が出てくるとは今日一番に驚いた。そもそも、ミクトランによれば日本どころか世界は滅亡しちゃってるらしいからな。
この世界はサクリファイスオンラインによって繋ぎ止められている異世界なんだからな。今の俺にはそれがよく分かる。仮初のアルクトゥルスであっても。
……そして、女神はただの女神でははないからなぁ。
俺の記憶が正しければ――
「みなさん、お待たせです! ご飯できましたよ~!」
料理が完成したようだ。
考えるのはまた今度だ。
今はフォルの作ってくれた魚料理を満喫しよう。




