第559話 惰性な神様・数奇な運命・混沌とした世界
もちろん、倒す。あの巨大生物を!
覚悟を決めていると、妙な気配を感じていた。……誰だ?
「……あ! この気配はまさか……」
メサイアが声を上げる。その視線は空に向いているから、俺たちの頭上か――!
ニトロで滞空を維持しつつ、俺は見上げた。
すると、そこには『人影』があった。漆黒の翼を生やした堕天使。いや、堕女神。
そうか、あの野郎が関係していたのか。
「魔人サリエリ!」
「……久しぶりだな、サトル。どうだ、古代モンスターと楽しんでいるか?」
やはり、サリエリが俺たちを妨害する為に配置したのか。そうだよな、こんなモンスターは見たことがない。
魔人が召喚した特殊モンスターってことか。
「てめぇ! ナーストレンドを占領したそうだな」
「そうとも。あの島は私の占領下にある。これから世界を闇に染める為に必要な拠点だ」
「そうかよ。直ぐに取り戻してやる」
「だろうな。だから、お前たちを“削除”する必要がある」
ニヤリと不敵に笑うサリエリ。あの女、不気味に笑いやがって……!
「削除ですって……!」
不快そうにサリエリを睨むメサイアは、明らかにキレていた。
「そうさ、メサイア。女神も……神も、そして世界すら削除する。一片も残さず……消す。そして、魔人だけの新世界を創造するのだ」
「くだらないわ! あんたなんか封印されていればよかったのよ」
「すべては神王のせいさ……! 恨むなら、そこの神にもなれぬ出来損ない以下の半端者を恨むがいい!」
俺を指さすサリエリは、そんな悪口を吐き捨てやがった。半端者だとぉ!? そりゃ、俺は昔から完璧じゃないさ。
この世界に来る前は自堕落した人生でマトモじゃなかった。毎日毎日ゲーム三昧。ネトゲーの仲間はいたけど、でも現実は終わってた。
だらだら過ごしていれば時間もあっという間に過ぎ、気づけば多くを失っていた。
――でも、後悔はない。
あれも俺だからな。
あの経験があったら、今がある。
半端者でも、ここまで来れた。メサイア、リース、フォル、そしてベルやオルクスたちに出会えた。そこにミクトランとソフィアを加えてやってもいい。いや、全聖地の人たちも追加だ。
そうだよ。俺はこの世界が好きなんだよ。だから壊したくないし、壊されたくない。
何度も何度も現れる破壊者。
そんな馬鹿共を阻止するのが俺の役目。使命なんだ。
惰性な神様の、数奇な運命だ。この混沌とした世界の――。
「サリエリ! お前はなにも分かっちゃいない!」
「なんだと……?」
「俺は自分を完璧だとは一度も思ったことがねーんだ。ダメなところは、メサイアたちが支えてくれるから問題ないのさ」
「……これだから人間は劣等種……魔人に及ばぬ下等生物なのだ」
興味を失ったかのように後退していくサリエリ。どうやら、この場は古代モンスターに任せるらしい。野郎、現場を見に来ただけか。
「う、うわっ! あ、兄様!」
いかん、フォルたちが危険だ。
小舟は激しい波で流されている。あの巨大モンスター『モサモサ』が何度も体を海面に打ち付けているせいだ。
「サトル。早くあのモンスターを倒しましょう」
「ああ、サリエリの邪魔がないから何とかなるはず」
メサイアを抱いたまま、俺はニトロを微調整して海へ接近。モサモサの“殺気”に反応して、超覚醒オートスキルが発動する。
聖属性魔法スキル【オーディール】が激しい閃光を生成。それは雨のように降り注ぎ、海の中にいるモサモサに目掛けていく!
これならどうだ……!?
激しい衝撃で水しぶきが上がるが、手応えがあまりない。
掠っただけか?
『――グ、ルゥゥゥゥウ……!』
ざぶーんと、再び海の中から姿を現す。俺のオーディールは命中しているようで、ダメージは与えられていた。……よし、効いてはいるぞ。
「やるじゃない、サトル!」
「可能ならメサイアも手伝ってくれよな」
「そうしたいのは山々なんだけど……私のスキルではダメージが与えられないわ」
マジか。女神のスキルでも無理なのか。
やはり、俺のオートスキルで倒すしかない。
旋回して俺はモサモサの影を追う。空中からなら、あの巨大な影は丸見えだ。
(サトルさん! あたしです。リースです!)
「こ、これはリースのテレパシーか!」
(はいっ。あたしたち、邪魔だと思うので退避しますっ!)
「どうやって!?」
(こうするんです!)
船の辺りに巨大な魔法陣が展開していた。ま、まさか……大魔法の反動で船を加速させるのか!
予想通りだった。
リースは大魔法ホーリーグレイルを放ち、その爆発力で船を前進させた。物凄い加速を得て一気に彼方へ。どこまで行く気だ……!?
いや、今はこれでいい。
フォルとリースが退避してくれたおかげで、俺は本気が出せる。
オートスキルを“任意”に変え、俺は右手に光を集中させる。
喜び、怒り、悲しみ、楽しさ……全ての感情をこの手に。
「エンデュランス!!」
瞬きするよりも速く到達する俺の最大にして最強スキルは、海を割り――モサモサに激突して海底の奥深くへ押し込めていく。
やがて深海で大爆発を起こし、それは何度も連鎖。
【Good Job!!】
討伐完了のメッセージが表示され、俺はモサモサ撃破を確信した。
よっしゃあっ!
「倒したぜ、メサイア」
「さすが私のサトル! かっこいいわっ!」
ぎゅっと抱きしめられ、俺は顔が熱くなった。……こ、これは予想外のご褒美だ。




