第557話 建築スキルで船を生成!!
チャルチが人差し指で氷塊に触れた。
すると『バリン』とガラスのように砕け散り、中にいた二人がぬるりと出てきた。無事に人間に戻っている。
リースの魔人解除の杖――神器カファルジドマは“本物”だ。
あんな醜いバケモノだったのに、今は間違いなく人間そのもの。
「「…………」」
二人とも気絶しているのか意識は戻らない。が、生きてはいるようだ。
「兄様、このお二方にグロリアスヒールを施しました。ですが、しばらく安静がよいかと」
治療をしていたフォルがそう報告する。
「ふむ。もう少し詳しく聞きたかったが……仕方ないな」
とにもかくにも、杖の効果は本物だった。それが知れただけでも大きな成果といえよう。フォルの母親のアイファを元の姿に戻せる可能性があるってことだからな。
「サトル、これで戦えるわね」
「そうだな、メサイア。アイファの方はなんとかなるはず。問題は……」
「サリエリね」
そうだ。魔人の大本であるサリエリ。
おそらく、さっきの状況を鑑みるに、ナーストレンドを支配している可能性が高い。となると、船が必要か。
などと思案していると、少し離れた場所に光の柱が現れた。ん、なんだ……転移?
転移光から誰か出てくる。
まさかサリエリじゃないだろうな!
状況を注視していると、転移の中から人影が――!
『…………サトル』
こ、この禍々しい声はまさか!
身構えていると、それは……ん?
「お前、オルクスか!?」
「ソウダ、ワタシダ」
「な、なんか声が枯れてないか……!?」
ガラガラじゃないか。ゾンビモンスターみたいな酷い声だぞ。いったい、なにがあったし。
まともに喋れないのか、隣のプルートが理由を教えてくれた。
「オルクスってば、女神のクセに風邪を引いちゃったの」
「か、風邪だって?」
「うん。北の方角に魔人が現れてさ~。討伐に追われていたの。」
「マジか……!」
どおりで姿が見えないと思ったら、まさか魔人が出現していたとはな。
背後で棒立ちしているベルに詳しく聞くと、俺たちが破滅級ダンジョンを攻略中に“緊急事態”が起きたらしく――ミクトランの要請で出かけていたようだ。
なるほどね。
「それはご苦労だった。しばらく休んでくれ。サリエリの方は任せろ」
「本命を倒しにいくのですね?」
モルスが珍しく真剣な眼差しを俺に向ける。
「ああ、そのつもりだ。女神の力が必要になったら呼ぶよ。それまでは体力を温存してくれ」
「わかった。いざとなったらリースさんのテレパシーで呼んでください」
オルクス、プルート、モルス、そしてベルたちは家へ戻った。だいぶお疲れのようだ。……さて、そうなると。
グレンは修行を申し込みにシベリウスのところへ戻ってしまった。
「チャルチはどうする?」
「私はこの島の防衛をします。マナスとアロンダイトも同じです」
そうだな、島やネオフリージアを守れる人がいないと困るだろう。こっちは任せて、俺たちは『ナーストレンド』へ向かう。
こちらのことをチャルチたちに任せた。
「というわけだ、メサイア」
「……まさか、船を作れって言うんじゃないでしょうね」
「そのまさかだ! 船がなければナーストレンドへ行けないだろう」
「仕方ないわね。建築スキルでサクっと作るわ」
さすが我が女神。話が早い。
材料の在庫もたまたまあるようで、手持ちでなんとかなるようだ。
メサイアは気だるそうにしながらも、海に向かって右手を伸ばす。そして『建築スキル』を唱えると一瞬で船が出現。
……おぉ――って、これはスワンボートならぬ謎のドラゴンボート。
「って、なんでだよ!? つーか、このドラゴンはなんだ?」
「海の怪物リヴァイアサンよ」
無駄にカッコいいと思ったら、そういうことかよ。
どうしてそうなるのやら。
しかも――。
「あ、これ“足漕ぎボート”ですよ!」
と、リースが驚いていた。
足漕ぎボートって……そりゃ、自転車のように漕ぐってことだよな。疲れるだろうがっ。
「おいおい、メサイア。これじゃあ、日が暮れちまうよ」
「贅沢言わないでよ。今の材料じゃ、これが精一杯。手漕ぎじゃないだけマシと思いなさい」
なぜか威張るメサイアだが、確かに足の方が疲れにくいようなイメージはある。しかし、ここからナーストレンドまで遠そうだ。到着する頃にはヘトヘトになるだろう。意味ねー!
つか、リヴァイアサンのデザイン分のせいで材料を余分に浪費してないだろうな……?
「ええい、こんな時こそ【オートスキル】だろう」
「そうよ、サトル。あんたのオートスキルで自動運航できるようにすればいいのよ!」
「さすがに人力は面倒だからな。魔法で無理やり自動化すりゃいい」
おお~と、メサイアたちは俺を絶賛する。
よかったなお前ら。
俺が自動スキルを持っていて。
リヴァイアサンボートへ乗り込み、さっそく出航だ――!
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