第556話 魔人化解除の杖
覚醒ヒドゥンクレバスは巨大すぎる氷塊を作り出した。
寒気がするほど冷気が凄い。
これなら、あの“二体”を凍らせられる――!
「いけええええッ!」
無数の氷塊が魔人に二体に激突。そして、瞬時に凍結をはじめた。……おぉ、かなりの速度だぞ。
当然、魔人は抵抗を見せるが、成す術なく氷に飲み込まれていく。
カチコチと氷に覆われる魔人は動きが鈍くなり――やがて凍結。動かなくなった。
「成功ですね、サトルさん!」
自分のことのように嬉しそうにするリースは、真っ先に俺のところへ。うんうん、可愛い。この笑顔は無敵・最強! 本当に癒される。
つい顔が砕けていると、メサイアの殺意の波動が俺の胸を貫いた。……イカン、最近は機嫌が悪いらしい。以前ならほぼ無関心だったのだが、なにか変わったようだ。
そういえば、さっきプロポーズがどうとか。
首を傾げていると、チャルチも合流。
「お疲れ様です、サトル」
「ああ、チャルチも大活躍だな」
そんな中でグレンは、膝をつき両手すら地面につけていた。
「……マモレナカッタ」
と、小さく弱弱しくつぶやくグレンは自信を喪失しているように見えた。ま、まさか……さっきの戦闘で貢献できなくて、自分が情けないと感じたのだろうか。思いつめないといいが。
「グレン、気にしすぎるなよ」
「慰めはよせ。私は……修行不足だ。師匠の教えに背きすぎた結果だ」
そりゃそうなのだが、今更気づいたのかよっ。
残念だが、グレンのファイヤーボルトはまるで効いていなかったしな。完全に修行不足というか、実力不足である。
掛ける言葉が見つからずいると、フォルがグレンに対して「さっさとシベリウスさんのところへ頭を下げに行くのです。それがあなたの運命ですから」と助言していた。
フォルが言うと説得力がある。聖女だし。
「その言葉に救われました……聖女様」
いや、フォルは当たり前のことを言っただけだがな! とはいえ、フォーチュンの導きであることに違いはない。
グレンはようやく決意したようで、背を向けて街の方へ向かった。やれやれ、ようやく重い腰を上げたか。これでパワーアップしてくれるといいんだがな。
「さて、この氷漬けの魔人二体をどうするか」
「そりゃ当然、魔人化を解除するのよ」
と、メサイア。
そうだな。もともとフォルの母親をそうするつもりだった。となると『聖杖』の出番だ。リースの神器カファルジドマなら、この二体を人間に戻せるかもしれない。
「どうなんだ、リース」
「やってみます……?」
「不安がありそうだな」
「はい……正直、成功するかどうか未知数すぎて」
「でもまあ、いきなり本番じゃなくてよかったかもな。ちょっと申し訳ないけど、あの二体には実験台になってもらうしかない」
「そうですね。あたしの力が足りるかどうか心配なので」
とはいえ、リースほどのエルフならきっと大丈夫さ。
魔力だってパーティの中ではトップクラス。いつも大魔法を乱発してくれているほどだからな。
「やってみてくれ。また暴れ出しても、俺が止めるさ」
「わ、わかりました!」
やる気を出したリースは、肉球のついた杖――『神器カファルジドマ』を取り出した。相変わらず可愛らしい見た目をしている
「これで魔人化を解除できるのかしら」
「大丈夫さ、メサイア。リースを信じるんだ」
「そうね。今はリースと杖の力を信じましょう」
杖を構えながらもリースは一歩ずつ凍結魔人に近づいていく。さっきまで暴れていたからな、怖いのだろう。
だが、敵が動くことはない。
俺の覚醒ヒドゥンクレバスによって完全凍結しているからな。
「……いきます!」
神器カファルジドマを向けるリースは、魔力を高めていく。
すると杖が反応を示した。
白く光り始め、それは魔人二体を包み込む。なんだか神々しい輝きだな。いや、それもそうか。そもそもバテンカイトスの――その相棒の杖。
あれなら魔人を解けるかもしれん。
いや、解ける……!
『………………!』
氷の中で二体の魔人が形を変えていた。あれは明らかに縮んでいる……!
「おぉ、兄様! あれは間違いなく元に戻っているのでは!?」
フォルの言う通り、魔人の姿が崩壊しはじめていた。これはイケるんじゃないか。
そうして待つこと数分。
ついに魔人化は解除され、もとの『人間』に戻った!
「……やったわね! さすがリースだわ!」
「えへへ。ありがとうございます、メサイアさん」
リースは頬を赤くして微笑んだ。
氷の中ではナーストレンドのおじさんとその息子が無事に眠っていた。あとは氷を解除するだけだ!
俺がスキルを解除すれば、それで二人は無事だ。
直ぐに覚醒ヒドゥンクレバスを終了させた。
魔人化を解除完了……!




