第553話 神器カファルジドマ
メサイアが建築スキルで作った転移ゲート『レンブラント』を潜り、島へ戻った。
帰還を果たすと、変わらぬ風景がそこにはあった。
街は活気があって問題なさそうに見えた。……うん、大丈夫だな。
あれからモンスターが出現することもなかったようだ。
魔人の脅威は依然として続いているからな。
「カジノは無事ね……!」
メサイアは安堵していた。自分が経営するカジノが破壊されていないことに。大事な収入源だからな。
「ベルやオルクスたちが街を守ってくれたのさ」
「きっとそうね」
そう納得するメサイア。後方でリースとフォルも微笑む。……お前たちもすっかりギャンブル依存症だな。
カジノを通り過ぎ、我が家へ向かう。
街中を突き進み――到着した。
「ただいまっと」
ようやく生きて帰ってこれた。破滅級ダンジョンはなかなかに苦労したが、パーティが全滅することなく全員が家に戻った。俺やみんなの力があってこそだ。
そして、特別報酬の『聖杖』も入手した。
これが恐らくだが、魔人対策のアイテムだろう。
詳しくはこの家の中にいる人物に聞くしかない。
扉を開け、リビングまで向かうとそこにはソファでくつろぐ花の王様の姿があった。ミクトランだ。
「おや、おかえりなさい」
「戻ったぜ、ミクトラン。つか、破滅級すぎだろう!」
「でしょうね。生きて帰ってこれたのが奇跡です。よくあの亡霊騎士を討伐できたものですよ」
「知っていたのか」
「もちろん。私はアルクトゥルスでしたので」
それもそうか。きっと今も世界の情勢をある程度は理解しているんだろうな。
その通り、ミクトランは自身のスキル『ミレニアム』で見通していると説明した。そんな便利なスキルなのかよ。俺も欲しいな。
などと考えているとリースが珍しくミクトランに話しかけていた。
「あ、あの……ミクトラン様」
「なんでしょう、リースさん」
「亡霊騎士から入手した『聖杖』でフォルちゃんのお母さんを助けられるのでしょうか……?」
そうだ、それが知りたい。
フォルもこれで戦わずに済むのかと気になっている様子。
――だが、ミクトランは首を横に振った。おい!
「残念ですが――」
「まて、ミクトラン! お前は魔人対策と言ったはずだぞ、詐欺じゃないか!」
「話は最後まで聞くものですよ、サトル殿」
「じゃあ、教えてくれ。聖杖でなんとかなるのか?」
「五分五分ですね」
「なんだって!? 最初に言えよ!?」
「申し訳ない。ただ、聖杖を使えば確実にアイファ様を助けられるでしょう」
と、ミクトランは断言した。なんだ、やっぱり救済が可能なんじゃないか。
「なにが問題なのよ」
今度はメサイアが声を低くしてミクトランに問う。その目はまったく笑っていない。……怖いぞ。
「聖杖を向ければ、その効力を発揮しますが――相手が闇落ちしたアイファ様では……」
勝率は低いかもしれないという。
そうか、いくら聖杖に魔人対策の効果があったとしても……それを命中させないといけないわけか。
つか、杖の効果を見てみるか。
む……これは。
「兄様、どうされたのですか?」
「いや、この『聖杖』なるアイテムの詳細が見れないんだ。未鑑定アイテムではないのに」
「え? そんなことありえるのですか?」
フォルは聖杖を見つめるが、確かになにも見えないとつぶやく。そう、なにも書かれていない。普通、アイテムには詳しく説明書きがされているのだが、これは一切なかった。未鑑定アイテムなら鑑定すればいいのだが、これは違う。通常アイテムなのである。だから、詳細が書かれているのが普通だ。
「どうなっているんだ、これは……!」
驚いていると、ミクトランは優雅に緑茶を啜って、煎餅を頬張っていた。こんな時に食ってる場合か!?
「その杖の名は『カファルジドマ』です」
「カファルジドマ……?」
「それはバテンカイトスの杖ですよ」
さらりと言うミクトラン。
俺たちはギョッとなった。
ま、まてまて!!
この聖杖って、あのバテンカイトスの持ち物だったのかよ!
つまり、三原神の神器ってことだ。
そりゃ、効果が記されていないわけだ。
神々の武器なら説明書きを非表示にするくらいワケないだろう。そして、バテンカイトスといえば――『ユメ』のこと。
アイツならやりかねん。
「そういうことか」
「サトル殿は、バテンカイトスが大切にしている“魔法使い”に会ったのでは?」
「……あ、ああ。あの小さな魔法使いか」
やたら魔力が高くて強かったな。名前は確か『フォース』だったはず。
なるほど、あの子の杖なんだな。
「正解です。それ故に杖は『聖杖』という名称だけになっているのでしょう」
微笑むミクトランは、杖に触れた。
その瞬間、白い閃光に包まれた。……まぶし!
直後、杖は形すら変えていた。なんだか『手』のような杖になったぞ。
「……ひぃっ!」
その禍々しい杖にリースは顔を青くする。見た目が悪すぎるな。つか、グロい。
「杖といえば、リースさんでしょう。どうぞ」
「ひょええええええ~~!!」
手――いや、杖を渡されてリースは直立不動のまま気絶した。ショックがデカすぎたらしい。
「ミクトラン、その杖の見た目はどうにかならんのか」
「む~、これが本来の杖の姿なのですが……お気に召さないようですね」
「いや、手はエグすぎるって。ほら、メサイアなんか今にもブチギレそうだし」
「……そ、そうですね。では形を変えましょう」
メサイアの圧に負けたミクトランは、杖に手を翳して形を変えていた。さすが元神様だな。こうしてみると今でも力は健在なんだな。
やがて杖は手ではなく、猫手となった。……肉球がついとる。
「こ、これは! 可愛いですね!」
目を輝かせるリースは、その杖の形状が気に入ったようだ。それならいいらしい。しかし、肉球とはなぁ。
「おぉ、いいではありませんか、リース!」
「うん! フォルちゃん。これなら使えるよっ」
「その杖で、わたくしのお母さまを救済してくださいまし」
「もちろん。あたし、がんばるよ」
よし、杖の件はリースに任せた。
うまくまとまったところで――む、メサイアがこそこそと動いていた。どこへ行く気だ?
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