第551話 料理レシピ本 Lv.9999
『…………グ、ギィ』
亡霊騎士ランスロットは、オーゼラの婆さんの拘束魔法によって手足を縛られていた。……スゲェ。魔法の縄が蛇のようにまとわりついていやがる。
これはエルフの――いや、賢者のスキルなのか!
「今じゃ、サトル!」
「おう!」
俺は即座に移動を開始、ランスロットへ接近しようとしたが――
「ランスロットが動けなくなったぞ!」
「これなら俺らも余裕だよなァ!」
生存している冒険者二人組が先に前へ出てしまった。……あ、バカ! せっかくの命を無駄にする気か!
その直後、ランスロットは拘束されているにも関わらず暴れまくった。身動きし辛い分でダメージが低かったのか、二人の男は吹き飛ばされた。俺のところまで。
「…………が、は」
「クソ、こ、こんなはずでは……」
あれで下半身を失うのかよ。そんなのアリかよ!
「お、おい!」
俺は剣士らしき若い男に声を掛けた。
「……た、たのむ」
「え?」
「かたきを……とってくれ…………」
絶望しながら絶命する二人。せっかく助かったのに、バカ野郎。
こうなっては蘇生魔法もクソもない。
あのボスモンスター、俺が今まで出会った中で最悪に最強クラスだぜ。しかも、人間をここまでバラバラにしちまうとは。
ヤツに感情なんてものはない。ただ、人間を蹂躙する為に君臨した大ボス。
なぜ、湖の底にいるのか定かではないが――今はそんなことはどうでもいいな。
「俺がやるしかない」
改めて接近しようとすると、メサイアが叫んだ。
「サトル! スキルで分析してみたけど、ランスロットに弱点はないわ!」
「……了解」
ウィークポイントすらないとはな。そんなボスが存在するなんて聞いたことがない。俺がプレイしていたサクリファイスオンラインでは、ボスモンスターに弱点くらいは存在したものだがな。
この異世界のボスモンスターは桁違いの進化を遂げているのか!
「ホーリーグレイル!」
「覇王轟翔波!」
今度こそと思ったが、リースの聖属性魔法とフォルの秘奥義が炸裂していた。さっきの状況を見て居てもたってもいられなくなったのだろう。
反撃される危険もあるが――しかし、今は二人の最大にして最強スキルがありがたい。
まず、リースのホーリーグレイル。
火、水、風、地のあらゆる最強魔法スキルを掛け合わせ、更に火力を高めたエルフ族の秘伝魔法スキル。これを今使える者は指で数えるほどらしい。
聖属性魔法となった奇跡の大魔法は、巨大な魔導レーザーとなっていく。
一方でフォルは両手を前に出し、指二本と親指で三角形を作る。腕を前へ押し出し、秘奥義を放つ。その光景はリースと同じく城を覆いつくそうなレベルの魔法。
巨大な、巨大すぎる波動砲。
まばゆくも神々しい閃光が混じり合い、合体技となって向かっていく。もしかして、もしかしたらこれならランスロットを倒せるか? そうでなくとも、ダメージくらいは入るはず!
――いや、慢心するな俺!
ここは俺もいくべきタイミングだろう!
オートスキルを“任意”へ変え、俺はそれを放つ。
「エンデュランス!!!」
神王の槍は、神速となって亡霊騎士ランスロットを穿つ! よぉし、三人の力ならヤツをぶっ倒せるぞ!
『グオオオオオオオオォォォォ……!!』
あのランスロットが三人分のパワーにギリギリ耐えているような状況になった。こりゃ、マジでいけるかもしれん。
だが、もう一押しだ!
あともう一人の力が欲しいところ。
誰か、力を貸してくれ!!
「なら、私しかないわよね……!」
「メサイア! お前、なにか技があったか!?」
すると、メサイアはダブルピースを構えた。え、なんでそんなポーズを……って、まさか!
「ホワイトビーム!!」
すると、ズドオオオオオオォォォと怪光線が放たれた。
そういえば、以前に『ネメシア』がそんなスキルを使っていたな! なるほど、メサイアも女神専用スキル『ホワイト』の使い手。なら、使えてもおかしくないわけだ。
これで四人分のパワーだ!
『ガアアアアアアアアアアアアアッッ!!』
さすがのランスロットも四人分の猛攻に耐えかねていた。押し切れば勝てそうだぞ!
だがしかし、それもヤツは抗った。
なんてバケモノ!
俺たち四人分の最大スキルを押し返そうとするのかよ!
円卓の騎士ってのは……本当に“伝説”なんだなと俺は感じた。
「……やれやれ。かつての聖騎士が今や亡霊とは憐れなものよのぅ」
「婆さん!?」
ぴょこっと俺の横に現れるオーゼラは、軽くため息を吐くと『本』を武器召喚していた。どうやら婆さんの武器らしい。
「ついにこれを使う時が来たようじゃ」
「な、なにをする気だ?」
「――これは『料理レシピ本 Lv.9999』!」
婆さんは本を適当にめくると、そこから『カツ丼』がパッと現れた。へえ、便利だな! そして、オーゼラはカツ丼をガツガツと食い始めていた。
え……?
「腹減ったのかよ!!」
「空腹じゃ!!」
こんな戦闘の時に飲食はいい度胸だな!!
つーか、少しは働けよ!!
「ちょっと、オーゼラさん! 真面目にやってよ!」
さすがのメサイアもブチギレだ。
だが、婆さんは冷静だった。
「真面目にやっておる」
「はあ?」
「今のカツ丼は、ただのカツ丼ではない。魔力を高める効果のある究極のカツ丼。勝利へ導いてくれるカツ丼なのじゃ」
勝つってそういう意味のカツ!?
なんてバカバカしいと頭を痛めていると、その瞬間。
「心臓完全掌握!」
いきなり腕を伸ばし、掴むような動作を見せるオーゼラ。その手には“心臓”のようなものが握られていた。
も、もしかしてランスロットの心臓を掴んだということか――!?




