第549話 破滅する冒険者パーティたち
【亡霊騎士ランスロット】
【詳細】
伝説の“円卓の騎士”の亡霊。
魔剣アロンダイトは一振りで城を破壊する力を持つ。
「詳細はほんの僅かだけか」
メサイアの解析によってランスロットの情報が開示されたが――あまりに少ない。能力値や使う技などは一切不明だ。
あと分かることと言えば、全身のほとんどを兜や鎧に覆われた騎士ってことくらいだ。
若々しいイケメンには見えるが、冒険者を一掃しているところを見ると……あまりに凶悪。なんていうか、かつての騎士の誉だとか、騎士道精神なんてものは微塵も感じられなかった。
あれはまさしく『モンスター』だ。
「ちょっとサトル。あんなボスモンスターがいるなんて聞いてないわよ!」
俺の腕を引っ張ってくるメサイアは、青ざめて慌てまくっていた。いつもの冷静な表情はそこにはなく余裕がない。
「ああ……今までで一番ヤバいボスモンスターだ」
「一度、撤退した方がいいんじゃ」
「幸い、俺たちはボス部屋に足をつけていない。だから大丈夫なんだが……」
――だが、冒険者が次々に真っ二つにされていた。もう全滅も時間の問題だ。あまりに一方的な戦況に、目を背けたくなるほどだ。あまりに惨い。
「ぎゃああああああ!」「助けてくれ!!」「うあああああ!」「なんだよ、これ!!」「こんなの倒せるワケねぇだろ!!」「うぐわぁッ!」「うあああ、逃げろ!!」
パーティが束になっても無理そうだ。
しかも、扉が閉まりつつあった。
「ど、どうしますか、兄様……!」
「どうするたって、この先へ行くとか自殺行為だろ」
「ですが、冒険者の皆様が次々に肉塊に……地獄の様相ですよ!」
フォルも冷静を失っているのか、言葉が荒々しい。
だがしかし、事実恐ろしい光景が広がりつつあった。なんだこれ……なんだよこれ。血の海じゃねえか。
あの亡霊騎士ランスロットも容赦がない。慈悲すらもない。
ただ闇雲に魔剣アロンダイトを振るい、人体を真っ二つやミンチにしていた。たったの一振りで。……バケモンだよ、アイツは。
「見ていられません……!」
リースはその場に崩れて泣き出しそうだった。心が清らかで純粋なリースにはキツすぎる現場だな。
だけど、婆さんは至って冷静だった。
「リースよ、目を背けてはならん」
「え……」
「なぁに、ダンジョン内であれば蘇生魔法も使えるはずじゃ」
「……そ、そっか! フォルちゃんのリザレクションで蘇らせれば!」
と、リースは期待を胸にフォルを見つめるが――顔を横に振っていた。
「確かに、わたくしは聖女ですが……蘇生魔法のリザレクションは心得ておりません。習得しているのなら、とっくに兄様に使っています」
だよなぁ。俺は過去に何度か殺されているんだが、自ら蘇るかミクトランあるいはソフィアに蘇生してもらっていた。
もし、フォルが蘇生魔法が使えたのなら、そうしてもらっているしな。
「そんなぁ……」
再び泣き崩れるリース。
「なぁ、メサイアは女神族なんだろ。蘇生魔法とか……」
「む、無茶言わないでよ。……お母さまは使えるらしいけど」
なんだ、メサイアもソフィアのことは知っていたんだな。血縁関係があるのだから当たり前か。
残念だが死者を蘇らせる術は――あ、まてよ。
「オーゼラの婆さん」
「なんじゃ?」
「蘇生アイテムは存在するんじゃないか?」
「ほう、よく気づいたのう。うむ、存在する」
「マジか! 詳しく教えてくれ」
「なぁに、簡単じゃ。そこにいる亡霊騎士ランスロットを倒すと落とすかもしれないとウワサになっておる。みな、その奇跡のアイテムを狙っておるのじゃ」
「な――!?」
簡単じゃねえじゃん!!
つか、あの亡霊騎士ランスロットがドロップするのかよ。でも、なんであんな亡霊が落とすんだ……?
「聖地巡礼をすると不老不死になれるウワサがあったろう?」
「あ、ああ……でもそれってウソだったんじゃ」
「――いや、本当なんじゃよ」
「なんだって!?」
「まあ、多少尾ひれがついてしまったが、つまり蘇生アイテムのことじゃな」
そういうことか。婆さんのおかげで希望が増えた。
つまり、魔人にせよ、この惨状にせよ……亡霊騎士を倒せばなんとかなるってことだよな。
じゃあ、やっぱり俺が戦うしかないな!
それにもう迷っているヒマもなさそうだった。扉がいつ閉まってもおかしくない状況だった。早く入らねば、また最初からやり直しになるはずだ。それも面倒だ。
「いくぞ、みんな!」
「「「ええッ!?」」」
メサイアたちは嫌そうに叫ぶ。
「仕方ないさ。ヤツを倒すしかないんだから」
「サトル、あんた一人で行きなさいよ。私はまだ死にたくはないわ」
「おまっ! 俺の味方でいてくれるんじゃなかったのかよっ」
「それはそれ、これはこれ」
なんでやねん!
こんな時に役に立たない女神だな、オイ!
だけど、メサイアは強制連行していく。そうしないと俺が不安で押しつぶされてしまうからな! 心のよりどころは必要だ。
「……あ、あ、あ、兄様。わ、わたくし……が、がんばります……」
珍しくガクブルと震えるフォル。さすがの彼女もあのボスモンスター相手には震えるらしい。という俺も結構ビビッているけどな。
「ありがとうな、フォル」
「今にもチビりそうです……!」
「聖女がチビるとか言うな……!」
「では漏れそうです!」
「それもダメ!」
やれやれ、恐怖に支配されてもフォルは相変わらずだな。
その隣でリースは頭を抱えていた。
「…………」
「リース、無理はしなくていい。今からでも地上へ帰ってもいいんだぞ」
「…………いえ。あたしだけ一人なんて嫌です」
その瞬間、すっくと立ちあがるリース。顔は青かったし、涙目だし、手足も震えていたけど、その勇気に俺は敬意を表した。
「さすが俺の認めた最強のエルフだ」
「愛の力で勝ちます……!」
「そうだ。力を合わせれば勝てる」
えいえいおーっと発起しようとしたところ――
「ちょっとまった!」
「どうした、メサイア。いいところなのに」
「私ちょっと……お花摘みに……」
どこかで聞いたようなセリフだ。……ああ、そうだ。昔もそんなこと言ったな、メサイアのヤツ。あれは炭鉱ダンジョンだったかな。緊張で漏れそうになったか。
「あ、わたくしも!」
「あたしも!」
フォルとリースも!?
でも、こんな破滅級ダンジョンにトイレなんかないぞ。
「そこらでする気か?」
「なに言ってんのよ、サトル。ぶっ飛ばすわよ」
ジトっとした目で見られた。冗談に決まってるだろ。
などと心の中で抗議していると、メサイアは『ホワイト』を展開した。なるほどね。ちゃんと“家”でするわけか。
メサイアのホワイトの中は亜空間に繋がっており、俺たちの家が建てられている。そこで普通の生活も可能なわけだ。
「早く済ませろよ。冒険者たちが全滅しちまう」
「なにをグズグズしておるんじゃ、サトル!」
と、その時だった。
オーゼラの婆さんが俺の背中を蹴り飛ばしてきた。……え、ウソ。
「うああああああああああ!」
ボス部屋に入っちまった……!




