第547話 賢者スキル『サンダーボール』
オーゼラの婆さんは、短い詠唱で魔法を生成。
「サンダーボール!!」
――って、ボール!
詠唱がカッコイイ割にはボールなのかよ。
だがしかし、オーゼラはニヤリと不敵に笑う。俺から離れてそのサンダーボールを信じられないほどの威力で蹴った。
『バシュゥゥゥゥゥ……!!』
なんてあまり聞きなれない轟音と共に、電気の塊が猛スピードでエロンガータに命中。ビリビリのバリバリにしていた。……な、なんて威力!
敵の体中に電気が走って丸焦げにしていた。
しかも、驚いたことに魔法攻撃力が半減していないように見えた。え……なんで? どういうカラクリなんだ?
つか、プロサッカー選手顔負けの弾丸シュートだったな。バケモンだな、この婆さん。
「あの凶悪な魚人を倒しちまうとは……」
「ふぉっふぉっふぉ。アヴァロンのエルフにして賢者クラスのみが使える秘術じゃ」
そうだったの!?
てか、この婆さんしか使えないユニークスキルか何かだろうな。
なんて納得している場合ではない。
「おい、婆さん。あんたの魔法攻撃力は半減していなかったぞ。どういうこと?」
「あ~、賢者に限っては半減せんのだよ。だから、余計に重宝されるわけじゃ」
「マジかよ!」
「うむ。だから、ワシをパーティに入れるべき」
……なるほどね。それもあってみんなパーティに賢者を入れているわけか。ただトロイメライ語が使えるだけではない――というわけだな。
なら、一時的に婆さんを仲間にするしかないようだな。
渋々ながらオーゼラを加入させていると、メサイアたちが追い付いていた。危険地帯を上手く移動してきたらしい。
「お前ら、危ないぞ……!」
「大丈夫ですよ、兄様」
「え?」
「だって、兄様とオーゼラさんが魚人モンスターをやっつけてしまったので」
……お。
よく見ると、後方のエロンガータは激減していた。そうか、俺のパニッシャートライデントとオーゼラのサンダーボールがかなり効いたらしい。
なるほど、力を合わせればここまで違うのか。
「サトル、そのお婆さんどうするの?」
と、メサイアがちょっと警戒しながら言った。
「もうパーティに入れた」
「えぇ……」
怪訝そうな顔をするメサイアは、ちょっと引いていた。さっき、セクハラっぽいことされたので警戒しているんだろうな。だが、賢者が必要だ。
「ダンジョン攻略の為さ」
「……仕方ないわね」
今回だけの臨時だからね、とメサイアは声を低くして言った。どうやら、婆さんが苦手らしい。
一方でリースは久しぶりに婆さんに会えて嬉しいらしく、甘えていた。そんな姿が微笑ましく映った。
「お婆ちゃん、元気そうでなによりですっ」
「リースも変わらず可愛いのぅ」
「えへへ~」
和やかな空気が流れるが――そんな場合でもない。これより先はエロンガータが鬼沸きしている超危険地帯。その数……1000以上。さすが“破滅級”と呼ばれるだけあるぜ。
ここまでモンスターがうようよしているとは。
「……こ、これはカオスですね、兄様」
さすがのフォルも恐怖して俺に抱きつく。
「この先は地獄だ」
これを突破できる気がしない。
しないが、攻略しなければならない。
だがしかし、数千はいるエロンガータをどう倒す? さすがに俺の魔力では足りないかもしれない。それに、メサイアたちを守り抜けるかどうか。
いや…………まてよ。
要はモンスターを倒せればいいんだよな。
「……どうした、サトル。ワシの顔に何かついているかの?」」
「婆さん! さっきのサンダーボールって賢者のスキルなのか?」
「そうじゃ。賢者が開発したという秘術である」
婆さんはスキルの詳細を教えてくれた。
【サンダーボール】
【効果】
大帝国の大賢者の開発したスキル。
雷の球体を生成。
サンダーボールを蹴って攻撃する。
膨大な魔力を凝縮するので火力が高い。
風属性魔法攻撃力 10000% + レベル依存
風属性魔法攻撃力 20000% + レベル依存
風属性魔法攻撃力 30000% + レベル依存
風属性魔法攻撃力 40000% + レベル依存
風属性魔法攻撃力 50000% + レベル依存
敵を一定確率でスタンにする。
魔力消費量が50%上昇する。
「こりゃ凄い! このスキルなら威力が半減せずエロンガータを倒せるってことだよな?」
「鋭いな、サトル。その通りじゃ。じゃが、賢者ではないお主には使えぬ」
「いや、使えるさ」
「なんと?」
「俺にはコピースキルがある」
そう、ほとんどのスキルを一時的にコピーできる『イミテーション』があるのだ。これなら、婆さんのサンダーボールも使えるはず。
「なるほどね! サトル、お婆さんのサンダーボールをオートスキルで使うのね!」
「その通りだ、メサイア」
そうすれば威力は半減せず、むしろメサイアのオルクスで更に火力アップ。フォルには支援スキルをしてもらい、リースは俺を励ましてくれるだけでいい。
それでこの地獄を突破する寸法だ。
「いいか? 婆さん!」
「ほう。それは面白そうじゃな。どぅれ、やってみるがいい」
婆さんの許可は貰った。
俺はコピースキルのイミテーションを発動。婆さんのサンダーボールをコピーして一時的に習得。
――成功だ!
賢者スキルもコピーできた!
これを俺の【超覚醒オートスキル】へセット。これで歩きながら自動で発動できるわけだ。ならば、俺は無敵。最強。
この破滅級ダンジョンをサクッと攻略できるわけだ――!
それから、俺の予想通りだった。
超覚醒オートスキルから無数のサンダーボールが放たれ、自動で敵を討伐。エロンガータがどんどん消滅していった。
「やるわね、サトル!」
気持ちいほど賞賛するメサイア。
「さすが兄様ですっ! あとでキスします!」
フォルは俺に抱きつきながら自分のことのように喜ぶ。
「素晴らしいです。賢者のスキルを使えるようになるなんて奇跡です!」
リースも同様に俺を讃えてくれた。
よ~し、この調子でボス部屋まで一直線だぜ!




