第50話 聖者 - 早々に即死したけど更に究極最強 -
神王に案内されると、そこは何もない白い空間だった。
「なにもない……真っ白。反応に困るほど白いな」
そんなところで、ポツンと人がいた。
ありゃ……誰だ?
「皆さん、紹介しましょう。この美しい黄金の髪、この部屋のように真っ白の肌、愛嬌たっぷりの絶世の美女は、私の妻です」
「……は?」
あの姿――メサイアそっくりの!
【リミットブレイクⅡ】の時に現れた女神じゃないか!
「……え、神王の妻?」
「はい、そうです。私の妻です。可愛いでしょう。【死の呪い】のせいで霊体ですけどね」
「そ、そりゃ分かってますが……あんた、結婚していたのかよ!! しかも、相手はメサイアそっくりの金髪美女!」
「ええ、しかも妻は【原初の女神】です。つまり、全ての女神の源というわけですな」
……【原初の女神】だって……。
「はじめまして――でもないですね。理、あなたとは一度お会いしていますね。でもまだ名乗ってはいませんでした。私は『ソフィア』。神王様とはラブラブで、もう100億年くらい妻をやっています」
と――ソフィアは、神王・アルクトゥルスにベタベタしていた。
あの感じだと本当らしい。
てか――100億年。
途方もねぇ……!
つーか、俺等おかまいなしにイチャイチャすんな!
「し、神王様に奥さんがいただなんて……」
アグニがどう反応していいか困っていた。
俺も同じ気持ちさ。というか結構複雑。メサイアそっくりだけに。……まあ、ソフィア曰く、メサイアとアルラトゥは自分の娘らしいけど。
「神王様、どうしてこの場所へ?」
スイカが口を開く。
「私の可愛くて、自慢の妻を自慢したかったのです」
「は!? 殴るぞ、神王!」
「おっと、ちょっとだけ冗談ですよ、サトル殿」
「ちょっとだけかよ。で、真意は?」
「ええ。現在、妻は――ソフィアは【死の呪い】を受けています。ですから、レイドボスを全て倒して呪いを解放して欲しいというワケです」
「……はぁ、呪いを、ね。って、あんた神王だろ。自分でやれよ。俺を巻き込むな。家でゆっくりしたいんだよ。これでも本当は超絶面倒臭がりなんだぜよ」
「ええ、そうしたいのは山々ですが、もし出来たのならとっくにやってますね。あなた方の助力を得る必要もありませんでした」
「どうして……出来ないんです?」
珍しくスイカが口を開きまくっていた。
珍しいな。
「ソフィアは、多くの『女神』を生み出しましたが、それと同時に多くの『死神』を輩出してしまった。そう、ご存知の通り、ほぼ全ての女神は【死の呪い】によって消え去りました。そして、ミューテーション、メタモルフォーゼなどというモンスターに悪影響を及ぼす異常状態が発生――『レイドボス』が誕生したワケですね」
アルクトゥルスは言葉を一度切った。
「ここからが本題です。
サトル殿、覚えていないでしょうが、あなたは一度だけ『死の魔王・ゾルタクスゼイアン』と接触しているのですよ」
「え……」
そういえば……以前そんな夢っぽいものを見た。
フォルが魔王の娘だとかの。てっきり、夢だと思っていたんだが……アレ、本当だったのか!?
「あなたの仲間の聖女・フォルトゥナ様。
彼女の胸に刻まれた『聖痕』を介して、魔王と繋がってしまったのですよ。ですが、あの情報は、あなたを陥れるための罠。ですので――申し訳ないのですが、誠に勝手ながら、混乱を避けるためにも余計な情報をこちらで消去させて戴きました。
あれは魔王の得意とする【情報操作】という、この世で最も恐ろしい『心理スキル』なのです。彼はそんな情報・心理戦に長けた男。その知略を活かし、今現在、聖地・アーサーを支配している」
「マジか! そんな恐ろしい目に合っていたのか俺。
……まるで覚えてないけど、危うく魔王を信じるところだったぜ。でも、それでもフォルの『聖痕』は分からんな。俺は、確かフォルの『聖痕』に触れて意識を失い、あの変な夢を見たと思うんだが」
「そうです。あの『聖痕』は彼女が子供の頃に、私が与えたもの。聖痕は『聖女の証』。そして、ご存知でしょうが、それ故にフォルトゥナ様は【最強の幸運】をお持ちです。まあ、実のところ彼女の先天的能力でもありますが、それを更に高めているのが『聖痕』なのですよ。
そんな『聖痕』を持つ彼女には、聖女専用【神託】スキルが備わっているのです。それにより、私と対話ができるようになるのですが、どうやら彼女は気づいていなかったみたいですね。なので、それを魔王に悪用されてしまったようです。
それこそがサトル殿が見た夢だった――というワケです」
困った。
なんと反応していいやら。
「……あー、なんだ。つまりどういう事なんだ!?」
「つまり、死の魔王・ゾルタクスゼイアンは、この世界の【傷】という特異的存在。彼は、元々は『聖者』でした。ですが、闇に堕ちてしまい【死】を極めたのです。その強大な力を利用し、女神をすべて死神へと変えてしまった。その【死の呪い】は私の妻にも影響を――。
この【死の呪い】を受けた者は、死神になるだけでなく、何れは魔王の糧として【生贄】にされます。彼の一部となるワケですね」
魔王の一部……。
なんて恐ろしい。そんなのって……!
「ですので、以前、魔王打倒のために『オルクス』『プルート』『モルス』『メサイア』の四人の死神を向かわせたのです。彼らは、私に唯一味方する特別な死神でしたから、討伐をお願いしたのですよ。
ですが、オルクス、プルート、モルスの三人は、もう既に魔王の手に落ちました。ですので、現在の我が戦力は『聖者』のみ。しかしその数も決して多くはありません。敗北し、消えていってしまわれた方も多いのです。
さて――なぜ、私が手を下せないか、そこでしたね。それは何故なら……」
「何故なら?」
「面倒臭いからです」
「殴るぞ」
「冗談です。冗談ですから、その真っ黒で物騒な拳を引っ込めてください……コホン。本当の理由はこうです。
――神はサイコロを振らない。
この世界は出鱈目に見えて、規則正しく、あらゆる法則によって成り立っている。この世、すべての森羅万象には【理】があるのです。私はそのようにこの世界を創造しましたから、神といえど【理】には従わねばなりません。無論、それを破ることもできますが、その瞬間、この世界は均衡を失い、崩壊し、全ては無に帰すわけですな。神様なんて所詮は『破壊と再生』しか脳がありません。それが現実です」
だから、神王は干渉できないと――。
そうだなよな。
なんであれ、法・秩序・ルールは存在する。
アレでもまてよ、王様の時はだいぶ干渉していたような。アレはありなのか!? ……でもま、バリアしてただけだし、いいのか……?
「分かったよ、俺たちがなんとかすりゃいいってことだな。それじゃ――『聖者』にしてくれ。俺たちがレイドボスをぶっ潰して【死の呪い】を何とかするさ。それで、神王の奥さんも復活ってワケだ。あと、メサイアも何とかなるんだろう?」
「その通りです。であれば、サトル殿が『聖者』になる意味も大いにあるというわけです。それに、あなたは最強になれるのですから、メリットだらけです。
話が長くなりましたね――それでは儀式を」
神王が儀式を始めようとしたその時――
「ごはっ…………」
アレ……。
俺、口から血が。
「サ……サトル! アンタ!」
アグニが俺の腹部を見て驚いている。
スイカも血の気が引いて、顔が真っ青だ。
なんでそんな恐怖して俺を?
俺の、腹……?
自身の腹を見ると、血色の悪い腕が貫いていた。
――なんだ、この腕。
『私はこの時を待っていた……ようやく、ビフロストへ来られたのだ。……久しぶりだな、神王……それと、サトル』
「魔王・ゾルタクスゼイアン……! なぜここに!」
『神王よ、貴様は私の【隠された質量】にまでは気づけなかったようだな。この『ダークスキル』は、サトルとの接触時に仕込んでおいたのだがね。おかげで、このビフロストへ容易くアクセスできた、感謝する。
……さて、このままサトルの体を介して、ビフロストへ出ても良いが……死んでしまうが致し方ない。私は、神を抹殺せねばならないのだから。許せよ、サトル』
「こ、こいつ……。ごっほごっ…………」
だ…………大丈夫だ。
俺には【リミットブレイクⅡ】がある――。
「し……神王! 俺に構うな、みんなを避難させてくれ!! 俺はスキルで蘇る! それでこの魔王を倒す。でも出来れば『聖者』にしてからにしてくれ!! ワンパンできるんだろ!」
「サトル殿。もうあなたは立派な『聖者』です。この部屋にきたその瞬間から、あなたはもう既に生まれ変わっていた! 仲間は任せなさい」
『おのれ、神王! 余計な真似を――死ね』
――俺の体から、魔王が飛び出てきた。
「ごほふぁぁっ…………」
俺は……大量に出血し、死んだ。
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きたきた……! やっぱり……!
ちょうど、原初の女神・ソフィアもいるし……!
って……『ウルトラ』?
とにかく、俺は『聖者』となり――、
ついでに、究極の【リミットブレイク】を解放した!
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