第475話 古のツンデレ女神
おでん缶の販売が始まり、直ぐに反応があった。
やはり『自販機』というもの自体が珍しくて話題となり、そのウワサがカムラン中に流れて勝手に宣伝されていった。
次の日には郷中のエルフたちが集まり、列をなしていた。
おでん缶はあっという間に売れ、保存が効くし美味いという評判で大変好評。一日も立たずに売り切れてしまった。
「完売、ですね……!」
感動して涙を零すフォル。
これだけ多くの人に料理が行き渡って満足してもらえるんだ。そりゃ嬉しいよな。
という俺も、感じたことのない感情が込み上げていた。
商売ってこんなに楽しいものだったんだな……!
もうしばらくはカムランでビジネスしてもいいかもしれない。
そして、土地を貸してくれたルクルも涙を滝のように流していた。
「こんな多くの方に買っていただけるなんて感激です……。僕のポーションが飛ぶように売れてる~…!」
「ルクルのおかげだよ」
「いえいえ、僕なんて何も。自販機を作ったサトルさんたちが神です!」
神という意味では間違ってはいないけどな。
今回の功労者であるメサイアも“女神”だしな。
その本人は、ここにはいない。
疲れているのか照れているのか何なのか、顔を見せようとしなかった。
「メサイアさんも来ればよかったのに」
俺が思っていたことをリースが口にする。
「多分、いつもの怠け癖だとは思うけどね」
「そうなのでしょうか」
「大丈夫。あとで俺が様子を見に行く」
「お願いします」
現場をみんなに任せ、俺は一足先にルクルのポーション屋へ。
その屋根にメサイアの姿があった。
あんなところでゴロゴロしてるし。
アイツは屋根が好きだなぁ。
ひょいっとジャンプして俺は、屋根へ飛び移った。
「どうした、メサイア」
「……なんだ、サトルか」
「誰を期待していたんだよ」
「そ、それは……」
なんで照れているんだ?
なんで背を向けるんだ?
耳まで赤くして解かりやすい反応だな、オイ。
これは明らかだ。コイツは照れているんだ。自分の成し遂げたことに。
エルフ達の反応があまりに良かったものだから、感情がぐちゃぐちゃになったんだろうな。俺もだけど――。
「人の役に立てたんだ、誇っていいじゃないか」
「なによ。煽てたってなにも出やしないわよ。出せてもスカートの中から煎餅なものよ」
「それはそれで欲しいけどな」
「はい」
本当に出す奴がいるか。
相変わらず謎スカートだな。
ちゃんと袋詰めされている新品だから困る。
メサイアのスカートの中は四次元なのか……? それともホワイトスキルと繋がっているのだろうか。女神の不思議だね。
俺は煎餅を頬張りながら、次の製造を頼んだ。
「追加で1万ほど頼む」
「……は?」
当然、メサイアは顔を青くした。
ですよねぇ。
「頼む。完売でもう在庫がないんだ」
「もう!? そんなに人気なの?」
半身を起こし、状況に驚くメサイア。
まさか売れるとは思わなかったらしい。
「おでん缶は、俺の期待値を越えてくれたよ」
「凄いわね。大儲けじゃない」
「そうでもない。まだ数が足りなくて利益がそれほどではないんだ」
「なるほど、それで増産ね」
「そうだ。もっと数を増やさないと莫大な利益は生み出せない」
缶を作って貰わないとな。
建築スキルは、メサイアにしか使えないのだから。
「仕方ないわね。でも、鉄を切らしてしまってるのよね」
「なら、俺が採りにいくさ。この周辺ダンジョンにいるモンスターが鉄をドロップするんだよ」
「へえ。聞かなかったけど、ちなみにどんなモンスター?」
「アイアンゴーレムだ。アホみたいに防御力が高いんだが、俺の敵ではない」
「解かった。私もついていく」
「マジか。お前はここでのんびりしていてもいいんだぞ」
「いいのよ。気晴らしもしたいし」
「そりゃ嬉しいな、ありがとう」
「べ、別にあんたの為に――」
「なんで、いちいちツンデレなんだよ!?」
とはいえ、お互いになんだかソワソワしている。目を合わせられない状況が続いている。……なんだこの不器用すぎるラブコメ。いつから始まった?
いつものメサイアはどこへ行った?
誰か教えてくれ。
そんな妙な空気の中で『ドォン』とカムランの街中で爆発が起きていた。
あ、あれは……自販機の設置している場所の辺りじゃないか!
「サトル……」
「ああ! 急いで向かうぞ!」
フォルとリース、ルクルが心配だ。
それにお客さんも!
なにがあった……?




