第469話 驚くべき女神の戦略
エルフの郷カムランにカジノなんてあっただろうか……?
ただでさえ少ない所持金を賭けるなんて破産の未来しかないのだがなぁ。メサイアはいったい、なにを考えているのだろうな。
いや、まだギャンブルと決まったワケでもないけど。
みんなと共にカムランの街中を歩く。
どうやらメサイアは“アテ”があるらしく、そこを目指して歩いていた。
いつから目星をつけていたんだ?
「あのぅ、サトルさん」
「どうした、リース」
「メサイアさん、どこへ行くつもりなんでしょー?」
「うーん。俺にも解らん。このカムランに来た時には、カジノなんて見かけなかったけどなぁ」
「ですよね」
俺、リース、フォル、そしてベルはメサイアの背中を追っていく。
やがて見えてきたボロい小屋のような建物。
ん、こんなところに何があるんだ?
ただの小屋にしか見えないが。
「ここよ!」
と、メサイアは手を広げ堂々としていた。……意味が解らねえ。
あ、いや、まてよ!
ピコーンと頭上に電球が立つ俺。それはベルも同様だったようで先にメサイアに質問を投げていた。
「シア、まさかと思うけどこの小屋の地下に違法賭博場があるとか」
「なに言ってるのベル。そんなわけないでしょう」
えぇ、違うのかよ。
俺もそう思ったんだがな。レート数百倍、数千倍とかの。
ということはギャンブルではないのかよ。
「では姉様、この小屋はいったい……」
「いい質問ね、フォル!」
早く答えろよ!?
いちいちドヤ顔を向けるなっ。
可愛いけどっ。
さっさと結が欲しかった俺は、やる気のないスライムのような口調で言った。
「……で、なんなんだよ。いい加減、答えを教えてくれメサイア」
「フッ。要は稼げればいいのよね」
「そりゃそうだ。俺たちの所持金は全部合わせても3,000セルってところ。飯食ったら終わりだ」
ちなみに、これはベルのヘソクリを合わせた合計金額だ。もっと言えば、フォルも大金を持っているのだが――どうやら、レメディオスの銀行に預けているらしい。
俺との結婚資金だとかで。
「じゃあ、簡単よ」
「なにが!?」
「あんた、前に『自動自販機』を作ったことあるでしょ」
「……!!」
あれはメサイアと出会って間もない小屋生活(オッサン移動式)の頃。お金が必要だった俺は、なにかいい方法がないかと模索。
その結果、野菜販売機なるものを作り設置したのだ。
そや、メサイアの建築スキルで作ってもらったっけな。
ジャガイモがやたら売れた覚えがある。
「どう、サトル。ここで自動で売れば楽々稼げるわよ!」
「懐かしいな。でも、名案だ」
「でしょ!」
「だけど、この小屋の持ち主は? 勝手に自販機を作っていいのかよ?」
またもドヤ顔で、今度は俺に顔を近づけるメサイア。非常に整った顔が目の前に……。そして、赤い瞳を俺に向けた。まつ毛長ぇ。
「ここね、ルクルの実家なんだって」
「へ。ここが?」
「うん。もうお店が成功して使わないっていうから」
このボロボロの小屋がルクルの実家……相当な苦労人だったんだな。
試しに玄関のドアを開けると一発で崩れ落ちた。
……えぇ。
完全に崩壊しちゃったぞ。
残ったのは更地となった土地だけ。
ここなら自販機を大量に設置できるな。
しかもカムランの割と中心街。
人通りも多いし、期待はできる。
「ありがとう、メサイア。ここなら商売ができるぞ」
「でしょでしょ。売るものは任せるけど、ルクルのポーションも売ってあげて。それが条件でもあるから」
なるほど、ルクルと交渉済みだったわけか。
確かにポーションも自動で売れれば……って、まてよ。なら、販売マージンを貰えるよな。
つか、まさか!
「おい、メサイア。手数料は?」
そう聞くと、メサイアは硬直した。
「へ……え。なに? なんのこと?」
めっちゃ動揺しているじゃねえか、この女神!
ルクルから販売手数料をブン取って自分の懐に収めるつもりだったのか! 上手すぎる話だとは思ったぜ。アブねえ、確認するべきことはすべきだな。
「おっと、シア。独り占めはよくないな」
「…………う。ベル、その……そ、それは……違うわ」
目がグルグル回ってるし、汗も凄い。
メサイアは嘘をつくのが下手だ。
フォルもリースも白い眼差しをメサイアに向けていた。
「……姉様」
「メサイアさん……」
おいおい、二人から完全に可哀そうな子を見る目で見られているぞ。
「……ちょっと、そんな目で見ないでよぉ」
「自業自得だ。メサイア、お金の管理はベルに任せる」
「そんなぁ……」
やっぱり手数料を!
このアホ女神っ!
でも、これで一気に稼げそうだな。
材料の『鉄』や『木材』を集めて自販機を設置するか。
「メサイア、建築スキルで頼むぞ」
「うん。私、がんばるからさ……せめてボーナスくらいちょうだい!」
ぶわぁっと涙を流すメサイア。
そんなにお金が必要なのか。
なにか欲しいものでもあるのだろうか。
……ふむ。
「おまっ! ……解った解った。確かに今回のことはメサイアがキッカケだ。みんなもいいよな?」
確認するとフォルもリースも、ベルも頷いた。
みんな優しくて良かったな、メサイア。
そんなわけで、俺はカムランの外で材料集めを即終わらせ――メサイアに託した。
自販機の製作は任せ、あとは何を売るか考えないとな。




