第466話 神王と女神の降臨
暗闇の中でも希望の光はあった。
聴覚だけは残り、会話は耳に入った。感覚を研ぎ澄ますことで女の子たちの会話を楽しむことができた。
――って、嬉しくねえッ!
嬉しくはないものの、視覚を奪われている以上はメサイアたちが俺の面倒を見なければならず、ある程度の肌の接触が期待できた。
どうやら俺は、リースとフォルの手によって温泉に浸かっているようだった。
「……はぁ」
「元気ないですね、兄様」
「ったりめぇよ。リースの魔法で視覚を奪われて真っ暗なんだぜ!? 女の子の裸が見れないとか……辛い。辛すぎる」
「そんな泣くほど!?」
「見たい。エルフの女の子を見たい……」
欲望をぶちまけるとリースが「あたしで我慢してくださいっ」とくっついてきた。……こ、この柔らかい感触はまさかッ! でも、どの部分が俺の体に触れているのか解からん!! 見えないから!!
どうにかして『目』を戻す方法ないものか。
脳内でスキル一覧を巡らせていく。
…………お!
千里眼スキル『クレアボイヤンス』なんてものがあったな!
かなり初期に獲得した補助スキルだが、そや以前も風呂を覗いたときに使ったっけな。
まてよ、これを使えば見られるのでは!?
試しにクレアボイヤンスを発動してみる。
――すると。
真っ暗だった。
あああああああああああああああ…………!!!
俺の視界がそのまま反映されるらしい。だから見えないのかよ。クソがッ!
なんだよこれ、詐欺じゃねえか!
いや、そうではなくリースの魔法が強力すぎるんだ。チキショー。
「無駄な抵抗はよしなさいな、サトル」
「メサイア……せっかく女の子に戻れたんだ。その礼くらいしてくれてもいいだろ? あと女神なんだから」
「女神だからって慈悲深いと思ったら大間違いよ。二人きりの時にキスくらいなら許す……!」
「やっぱり女神じゃねぇか!!」
って、ツッコんでいる場合ではない。
奪われた俺の目をなんとかせねば。
これでは、何の為の混浴なのか解からんではないか!
こうなったらリースを落とすしかないか。パーティ崩壊の危機になりかねんので、出来ればこの方法だけは避けたかったが止むを得ん。
「リース、話しがある」
俺は隣にいるリースに耳打ちした。小声で。
「……はぅっ! な、なんでしょー…」
「俺の暗闇を解除してくれないか。これはあまりに辛い」
「で、でもぉ……」
「俺の目を戻してくれたら、そうだな。今度、二人きりでデートしよう」
「デ、デ、デ、デートぉ!? 本当ですか!!」
めちゃくちゃ慌てるリース。多分、顔真っ赤だろうな。
「ああ、だから――がふっ!?」
なにかに引っ張られ、俺は喉が痞えた。おい、誰だ!
「ダメです! 兄様はわたくしのものです!!」
フォルだった。
傍にいたフォルの耳に入ってしまったらしい。まてまて、かなり音声を抑えたつもりだぞ……地獄耳かよ。
「ちょ、フォルちゃん! サトルさんを放してください!」
「嫌です! 兄様はわたくしとデートするんです!」
え、
あれ、
ちょっと……リースもフォルも俺の腕を引っ張り合ってないか……?
「……ふ、ふたりとも?」
不安というか既に絶望が脳裏を過っていた。
まさか!
『ギチ……ギチギチギチ……ミシミシミシミシ…………!!!』
骨から嫌な音がした。
ちょ、ちょ、まてえええええええ!!
「んぎゃああああああああああああああああああ!!!」
リースもフォルも馬鹿力で俺の腕を引っ張っていた。ヤ、ヤメロオオオオオ!!
ちぎれちゃう!!
引きちぎれて真っ二つになっちゃううううううううううう!!
「あらら。理くんが二人になっちゃうねー」
「ば、馬鹿! ベル、見てないで助けろよ!?」
「ごめん。サウナに行きたいから~」
「なにィ!?」
この温泉、サウナ付きなのかよ。そんな便利なものまで異世界にあるとはな……いや、感心している場合ではなかったあああああああああ!
「サトルさん、あたしとデートですよね!?」
「わたくしとデートですよね!」
「ひいいいいいいいいいいいぎいいいいいいいいいい…………!!」
・
・
・
暗闇の中で地獄を見たような。
あの後、俺はいったいどうなった――? また死んだのか?
瞼を開けると、知らない場所にいた。
なんだココ。見たことも聞いたこともない場所だ。まるで『虹の空中庭園』のような、でもアレよりも小規模だ。一畳しかない。
『――おや、久しぶりですね。サトル殿』
「この声、まさか!」
視界が定まると、そこにはかつてのアルクトゥルスとソフィアの姿があった。
王座みたいな椅子でイチャコラしていた。
なにしてんだよ!
「久しぶりですね、サトルさん」
ソフィアは女神のように微笑み、アルクトゥルスと抱き合っていた。……抱き合うなッ!
「どうして二人が……消えたんじゃなかったのかよ」
「神の座をあなたに譲っただけです。神を演じるのが面倒臭くなったので!」
「真剣な顔して言うな! 俺にアルクトゥルスを押し付けやがって……おかげで助かったけどさ」
「それは良かった。私とソフィアは常にあなたの“心の中”に」
「え、ちょい……まだ話したいことが!」
消えていくアルクトゥルスとソフィア。……ああ、そうか。俺をずっと見守っていたんだな。
『リザレクション』
そんな蘇生魔法の“声”が聞こえた。
――って、俺死んでたのかよおおおおおおお……!




