第454話 性別変換スキル『ペルソナ・ノン・グラータ』
ユーモレスク宮殿の奥。
巨人専用のような巨大扉の前に立つ俺たち。
リースを抱えたまま、ここまで来た。この際なのでリースを降ろしたくない。このまま勝利して事を終えたいが……カムランを支配しているポウラがいるはず。
となれば、リースを抱えたままはキツいか。
俺が女に、リースが男の子にされるかもしれんし、力だって失うかも。
覚悟しなければな。いろいろと。
「さて、行くか!」
「このまま行くんですね?」
「もちろんだ。リースをお姫様抱っこしたまま勝利する!」
「幸せすぎて死んじゃいますっ! でも、無理なさらないで下さいね」
柔らかい小さな手が俺の頬に触れる。
リースの笑顔が大天使のように映り、俺の鼓動を加速させた。
うおおおおおお……元気百倍だぜ!!
目がメラメラ燃える俺。
今ならポウラをワンパン出来そうな気がしてきた。実際戦ってみないと分からんけど。
というわけで俺は巨大扉を――開けられなかった。
デカすぎて無理!
「どうやって開けるんだ、コレ」
「任せてください!」
武器召喚して杖を取り出すリース。なるほど、魔法でなければ開けないわけか。
簡単な呪文を唱えると巨大扉は開き始めた。
ゴゴゴと重苦しい音を響かせて。
ガシャンと最後まで開いて、ようやく奥を覗くことができた。……濃霧のせいでよくは見えないが、かなり広そうだな。
「宮殿の中に霧ってどうなってんだ?」
「サトルさん。これは魔力によるものです。風属性魔法で払いましょう」
即座に『ダークサイクロン』を放つリース。火力は抑えているものの強烈な風によって霧は簡単に掻き消えた。一気に視界良好となり、奥の部屋の広さが判明。
「こ、こりゃ……広い」
「なんだか、お庭みたいな雰囲気ですね」
どこぞの庭園がそのまま押し込められたような、そんな部屋だった。無駄に広いし、天井も高すぎる。本当は巨人専用なのかもしれない。
そして、気配がひとつ。
あれがポウラか……?
気になって足を運ぶ。すると謎の光線がの体に命中。ふわふわとした感覚に陥りかけたところで、すぐに光は消えた。……なんだ、こりゃ?
『……どういうことなの。なぜ貴様には性別変換スキル『ペルソナ・ノン・グラータ』が効かないの……!』
今のは性別変換だったのかよ。
でも、俺には効かなかった。
男である俺は、本来なら女になるはず。
――あ、いや……まてよ。俺はすでに“女”の俺を持っているじゃないか。今もリアルタイムに動いている『ヘデラ』が!
だから俺には性別変換は無効というわけだ!
そうだよな、女の俺もいるんだから……ここで性別変換されるのはパラドックスが許さんわな。
「よかった、サトルさん。か弱い女の子にならなくて……!」
「大丈夫だよ、俺は。そもそもヘデラがいるからね」
「……あ! なるほど!」
リースも察したようで納得していた。
ということは今の俺は無敵じゃないか!?
「残念だったな、ポウラ。俺にはそのナントカというスキルは通じねえ!」
「この世に性別変換が効かない人間がいるとはね。貴様、性別すらない異種族なのか?」
ついに姿を現す桃色の髪をしたエルフ。ポウラは、小柄な女の子だった。しかし、黒い目隠しをしていてハッキリとした容姿は分からない。分からないが、美少女っぽいことは確かだ。
しかし、エルフってのは何故こうも薄着なんだろうな。
腰には剣。ルクルの言っていた通り、こいつは騎士らしい。
「俺は人間さ。それより、ポウラ。支配を止めろ! みんなの性別を元に戻すんだ」
「……元に戻せ? ふざけるな。このカムランは今やわたしのモノ。いずれアヴァロンも手に入れる。全エルフの郷は支配下に置く。奴隷のようにな」
「お前こそふざけるな。自分のやらかしたことで逆恨みすんな」
「フン、許せなくて当然でしょう。わたしの好きな人を寝取ったエルフを殺して何が悪いッ!」
「なに……?」
「わたしはカムランの長の娘だった。騎士を志して恋愛とは程遠い場所にいた。でも、恋とは突然訪れるもの。稲妻のように始まってしまった。……現れた騎士の名はアロンダイト。闇の騎士アロンダイト」
アロンダイト……?
どこかで聞いた名前だな。
どこだ……?
なんか昔に戦ったような覚えがあるような、ないような。
「って、サトルさん!」
「へ」
「その騎士さんとは戦ったり、共闘したりしましたよ!?」
「なにィ!?」
そうだったけ。随分昔だろうし、憶えていない。ていうか、色々ありすぎて記憶が曖昧だ。
「あたしのお姉ちゃん、カローラとかグレンさん、チャルチさんとかいたじゃないですか~」
あ……ああああああああああああ!!
思い出したー!!
そや、闇の騎士なんてのいたな。光の騎士っていうのも。かなり前だぞ、それ。
闇の騎士アロンダイト。
そうか、あの狂人野郎か。
褐色肌で、無駄にイケメンだったような気がする。でも狂っていたんだよなぁ。
最終的には正気に戻って俺たちの援護をしてくれたが。
そういえば、あの後どうなったのか知らなかったな。
なるほど、その闇の騎士アロンダイトに恋してしまったわけか。だが、ポウラは“寝取られた”という。
どんな状況だよ!




