第450話 エルフの支配者
怯えて震えるエルフ。
俺は腰を下ろし、そのエルフの肩に手を置いた。
「命は取らないよ。ていうか、俺たちは冒険者だ」
「……え。あれ、あなた方はいったい……?」
顔を上げるエルフは若い女性で、リースと同じくらい美人で可愛かった。……やはり、金髪エルフはレベルが高い。
てか、和風の着物なんだな。
「俺はサトル。こっちの黒いのがメサイア。銀髪が聖女でフォル。そっちビキニアーマーがベル。そして、エルフのリースだ」
「ポウラ様ではないのですね……」
「ポウラ?」
「はい。このカムランを支配するエルフの騎士にございます」
エルフの騎士か。
カムランっていうくらいだから――そうなるよな。
つまり、ここも“聖地”に関連する場所ということ。
俺の考えていることを察したのか、リースは不安気に声を漏らす。
「サトルさん。このカムランには自由がないのかも」
「そうだな。エルフはいつもこんな目に遭っている。でも、今回はエルフの騎士が支配しているらしい。今までとは少し違うな」
「こんなの悲しいです。みんな怯えて生活するなんて……」
「ああ。街の様子もおかしかったしな」
人があまりにいなさすぎだ。
つまり、ポウラというヤツが住民を力を抑え込み、恐怖で支配しているってところだろう。なんて野郎だよ。
「俺に任せろ、エルフさん」
「……申し遅れました。私はポーション屋を営むルクルと申します」
ルクル? なんだか男っぽい名前のような気が。いやいや、こんな美人が男の子なわけないだろう……!
しかし、さっきから背後からリースの殺気を感じるんだよな。
相手がエルフなだけに激しく嫉妬しているに――うん、しているね。
振り向くと不満そうな目線を俺に送っていた。
「…………」
これは早々に離れておいた方がいいな。
「ルクルさん。もっとポウラのことを教えてくれ」
「解かりました。では、こちらへ。お茶も淹れますので」
「そりゃ助かる」
◆
美味すぎるコーヒーをいただく。
香りも最高だな。
ポーション屋なだけあって、茶葉の扱いもプロ級なのかもしれない。
「へえ、こりゃコクが深いや」
表情をわずかに崩して感嘆するベル。おぉ、マジか。コイツが絶賛するとはね。
メサイアやフォル、リースもコーヒーを美味しそうに味わっていた。
さて、本題だな。
「教えてくれ、ルクルさん。ポウラってヤツはなぜ、こんなことをしているんだ?」
「……はい。あれは半月前でした……」
彼女の話によれば、それは突然起きたそうだ。
性別不明エルフのポウラは、過去に事件を起こしてしまい以来はずっと幽閉されていたらしい。
だが、半月前に監禁されていた部屋から脱出。このエルフの郷カムランへの復讐を決めて、ついには支配に収めたという。
しかも、たった一人で……。
「ひ、ひとりで?」
「はい。あの方はたった一人で人口一万人を平伏させたのです」
そんなことが可能なのか?
エルフは、いろんな魔法をスキルを持つ種族。
もちろん抵抗もあったはず。
なのに、たった一人でカムランを落とすとは……何者だ?
「いったい、どんな力を?」
俺の代わりにリースが聞いてくれた。
ルクルは恥ずかしそうに視線を落とし、意外すぎる事実を教えてくれた。
「じ、実は……私は本当は男なんです」
「え?」
俺もだが、みんな固まった。
いやいや、こんな超絶美人が男?
胸も膨らんでいるし、肌も透き通っているし……ありえんだろ。
「ウソウソ、信じられないわ!!」
ガバッと立ち上がるメサイアは、ルクルの胸などに触れて確かめた。いいなぁ、俺も触りたかったぜ。
「あぅ」
「ごめん。でも確かめたかったの。……っていうか、やっぱり女じゃん」
「今は女なんです。これは、ポウラのスキルによって性別が変えられてしまったんですよぉ……」
「なんだって!?」
俺とメサイアたちは驚きのあまり叫んだ。
性別を変えるだと……!?
そんなスキルが存在するのかよ。
「男性エルフは全員、か弱い女性にされてしまいました。それと同時に魔力も奪われて反抗できなくなり……今や支配下に」
な、なんだって……そんなことが可能なのか。
性別を変えるだけでなく、相手の魔力も奪う。んな、ムチャクチャな!
「……恐ろしい敵だね」
さすがのベルも青ざめていた。
ワンチャン、女は男にされてしまう可能性もあるからな。……マズい、俺の仲間が男にされたら、それはそれで困る!
「兄様、今なにを想像していましたか?」
じっとした目を向けるフォル。……見透かされてんなぁ。
「大丈夫。お前たちを男になどさせん!」
「わたくしも嫌すぎです。聖女が男だとか……お嫁にいけませんし!」
確かにそれは嫌だ。
くそう、ポウラという奴をなんとかしないとイカンな。先手を打っておかないと、こっちの性別を変えられてしまうぞ。
「よし、今回はお前たちは留守番だ!」
「なんでよ!!」
バンッとテーブルを叩くメサイア。ってうぉい、聞いてなかったのかこの女神は!
「男にされちまうぞ、メサイア」
「……う。だ、大丈夫よ。女神だもん!」
「そういう問題じゃないだろ。てか、男になったお前を見たくないぞ……」
「そ、そうね。今回ばかりはサトル一人に任せるしかないかも」
そんな中でリースだけは手を挙げた。
「あたしは行きます!」
「リース……」
「だって、エルフ族のひとたちが困っているんですよ。見過ごせません」
「だが男になるかもしれないんだぞ」
「そ、それでもですっ!」
リースの決意は固いようだ。正直、リースなら美少年になれそうだ。だが、やっぱり女の子の方がいい!
まあいい、一人くらいなら守れるさ。
「よし、今回はリースだけを連れていく。みんな、いいな!」
「仕方ないですね」
と、フォル。
「解かった。任せる」
ベルも納得。
最後にメサイアも「こっちはこっちで情報収集しとくから」と全員が賛同してくれた。
よぉし、俺とリースでポウラをぶっ潰すぜ!




