第45話 最終試練 - 導きより集いし最強の力と仲間 -
土埃が晴れると、そこには男が静かに佇んでいた。
「あんた……『鉄の街』にいた……それに『シンビジウム』でもいたな」
あの変な髪形のオッサン――間違いない。
以前、俺に『おまえの神はどこにいる!』とスゴイ形相で問い詰めてきたオッサン。確か、フォルの信者だとかいう。
あのオッサンがどうして、この『第80層』のボスフロアにいるんだ!?
「久しぶりだな――ギリギリ中年。それに……フォルトゥナ様」
オッサンは、フォルを見据えた。
「あ……あなたは以前、わたくしに懺悔を」
「そうです。私は、神王様に絶対的な忠誠を誓ったが、あなた様に盲信していた罪深き男。だから、あの時、懺悔を――だが、それはもういい。フォルトゥナ様、この手であなた方を滅せねばなりません。いえ……あなた様を葬るなど言語道断。あなた様だけは生かさせて戴きますゆえ。
――さあ、始めよう最終試練を」
「まて、オッサン。あんたがこの『第80層』のボスモンスターだっていうのか!?」
「そうだ。私はお前たちをずっと遠くから見ていた。何れ来たる時の『聖者の試練』の為に。おまえの信じる神を見定める為にな」
「俺の信じる神……だって? 前も言ったろう……『知るか!!』ってな」
「そうか…………。あの時は見逃したが、今度はそうはいかない。この世界の絶対神【アルクトゥルス】様の名の下に、貴様に引導を渡してやろう」
「それこそ知るか。俺の信じるものは、ただひとつ。仲間だ」
「それが貴様の答えか。
なんとつまらぬ……。いいだろう、【アルクトゥルス】様を崇め奉らぬというのなら、この世界の【理】に反するも同義である。なぜ、あの御方が貴様程度の人間を特別扱いするのかずっと疑問だったが……今分かった。貴様は全てにおいて逸脱している。はみ出し者というわけだな」
「なんの事だかサッパリ分からんけどな。言いたい事はそれだけか?」
「ああ、もう言葉は不要。あとは剣を交え、どちらかが死に、どちらかが生きる――それだけだ。……さあ、この私を倒して見せよ! 『第99層』にある【虹】に到達したくば、決死の覚悟で掛かって来いッ!!」
息苦しいほどの殺意の波動が周囲を包み込んだ。
あの、オッサンは本気だ。それに、このオーラは、ボスモンターのものに相違ない。ヤツは明確な『敵』だ!!
オッサンは、俺だけを真っすぐ見つめると――
「おまえの神は……どこにいる!!」
それを投げかけてきた。
俺は、その問いに勿論、
「知るか!!」
そう返すと――オッサンは、
「良い答えだ。それでは、私の本当の、真の姿を見せてやろう……ハァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!」
叫ぶオッサン。
マジか、なんだあの声量!
次第に、オッサンの体形が大きく膨らんでいく。
な、なんだ急激に膨張していくじゃないか!
オッサンは、ついに『巨人化』して、20メートルほどになった。
「あのオッサン……! おい、みんな気を付けろ!」
「サトル、あれは尋常じゃない。全部補助するから気を付けて」
「頼む、メサイア。リース、もっと下がれ! 危険だぞ。フォル、俺と一緒に戦ってくれ。ベル、リースとメサイアを守ってやってくれ」
「ああ、守備は任せてくれ、理くん」
「兄様……わたくしはどうすれば……信者を相手にするなど、あってはならない行為、ですから……」
「違う。あれはお前の信者なんかじゃない。お前を欺き、騙していたモンスターだ。だから、戦うべき敵だ。お前の滅するべき敵なんだ」
「……兄様。そうですね、そうでした。わたくしは『聖職者』として、邪悪なモンスター共を! 一緒に戦います!」
「良い返事だ、フォル。よし、アグニとスイカも、もちろん手伝ってくれるよな?」
「あんなバケモン相手なら、喜んで組むよ。なあ、スイカ」
「はい。あたしも戦います。ご指示下さい」
よし、全員の意見が一致したところで……!
俺は、瞬時に『千里眼』を発動。
アグリオス 【Lv.7100】
HP:不明 属性:【無】
武器:不明
――『アグリオス』。
ヤツは全身が真っ黒で、体が鋼のようにゴツゴツしている。非常に固そうなボディをしているな。それと【Lv.7100】……高すぎるな。だが、俺たちの戦力は充分に揃っている。力を合わせればきっと。
「巨人か……。だが、図体が大きいということは、それほど動きも速くはないはず。フォル、ちょっと耳を貸せ」
「は、はい」
俺は、フォルに耳打ちした。
なんだかフォルは落ち着かない様子で、耳を赤くしていたが。
「いいか、ヤツはこう言っていた。お前は殺さないと。だから、それを逆手に取るんだ。まずは攪乱。そっちは左、俺は右から回っていく。――で、フォル、その後は――」
「えぇ……兄様、それは中々非道にございます! はい、でも分かりました! 兄様の為なら、悦んで一肌脱ぎ……いえ、全裸にでもなりましょう」
全裸はスルーして。
――さて、ヤツの出方を伺って【オートスキル】の発動を待つのは自殺行為に等しい。間違いなく一瞬で殺されるだろう。その例があの『第20層』のチェーンソーだったし。
もう、同じ失敗を繰り返すワケにはいかない。
だったら、俺は不本意ながらも『攻め』に入った!
駆ける。
ひたすら走って、ヤツの注意を引き付ける。
その間は、リース、アグニ、スイカの魔法スキルがヤツのHPをある程度は削ってくれるはず。
「サトルさん。あなたは、あたしが守ります! プロミネンス! エターナルフロスト! ダークサイクロン! ダイアストロフィズム!」
あの無数に広がる『月』と『太陽』の魔法陣は間違いない。リースの得意とする大魔法。それら全て『アグリオス』に完全命中し、ヤツは体勢を大きく崩していた。
「あ、あのエルフむちゃくちゃだな……。よし、アタシらも! アカームの炎を見せてやる。クリムゾンフィアー!」
純粋な紅蓮の炎を焚き上がらせるアグニ。へえ、彼女は『青』ではないんだな。しかも、あのグレンの『青炎』よりも広範囲に広がって、渦を形成していた。なんつー、威力だよ。あれでは、炎の海だ。
しかしそれよりも――
賢者の娘だとかいう、不羈魔法使いのスイカ。彼女は何もない宙から杖を出すと、それを構えて無詠唱でそれを発動した。
「ノーム、シルフ、ウンディーネ、サラマンダー」
スイカは、四大精霊(なんか猫っぽい)を自身の周囲に召喚した。それで準備完了のようで、次も詠唱もなく。
「エレメンタルフォース!!」
そう叫んだ途端に、あの巨人の『アグリオス』すら超える四色レーザーが猫たちから飛び出た。あまりの大きさ、破壊力、衝撃に俺は目を瞑る。
「うわぁっ!!!?」
ウソだろオイ……!
あの魔法使い――いや、厳密には小猫が、あんな超特大レーザーを放つのか。ヤバすぎるだろ。つか、巻き込まれたら死ぬぞ。
超特大レーザーは『アグリオス』を一気に押し返し、かなり遠くへ吹き飛ばした。あれなら、相当なダメージも受けただろうな。
「こ、これはやったか……?」
あのレーザーなら『アグリオス』を倒して――
が
ヤツは瞬時に起き上がり、一瞬で俺の目の前に。あの巨体でなんてスピードだ! しかも、何処から出したのか『大戦斧』を凄まじい勢いで振り下ろしてきやがった。
「んなっ………まずい!」
あんなモン受け止める術は俺にはない。
「――なんてな……!!
よし、フォル! 未だ! 俺に思いっきり抱きつけ!!」
「はいっ、喜んで!!」
合図と共に、フォルが俺の胸に飛び込んでくる。これを待っていた!
俺は、すかさず彼女を前向きに抱き、ヤツと対峙した。
「…………ッ!!」
やっぱり!
『アグリオス』は動きをピタッと止めた。
フォルを殺すことだけは躊躇っている。
これが、お前の弱点ってワケだ。
「兄様、今です! わたくしを離してくださいまし!」
「ああ……頼んだぞ」
フォルが俺から離れ、高く跳んだ。
そして、
【磨穿鉄硯】なるアクティブスキルを全開にすると、赤いオーラを纏った。それからフォルの猛攻が始まった。
「奥義・冥王風神拳! 冥王雷神拳!」
風属性奥義の連続コンボ攻撃。
何度も何度も決まる。それが、あまりに速すぎて殆ど目に捉えられないが、あの固そうな敵のボディをベコンベコンに凹ませている!
それから、フォルは更に宙で体を捻らせ、舞うと――
「奥義・覇王天翔拳――――ッ!!!!!」
トドメの奥義を放った。
巨人『アグリオス』はまったく反撃できず、倒れた。
――と、同時にフォルは俺の元へ戻ってくる。
「フォル、よくやったぞ!」
「兄様、まだ終わってはいません。ボスは健在――ですので、ぎゅっと抱きしめてくださいまし! あとは、兄様の力を信じております」
「ああ……決着をつける。フォル、絶対に俺から離れるなよ」
「はい。絶対に……何があっても離れません。だって、わたくしは……サトル様のモノなのですから」
目尻に涙を滲ませ、フォルは天使のような微笑みを浮かべた。あまりに急だったので、ギクッとしてしまう俺。
つーか……急に名前で呼ぶなよ、ビックリしたわ……!
「バ、バカ。こんな時に逆プロポーズしてるんじゃない。終わったらいくらでも聞いてやるから……! さあ、いくぜ!」
【リミットブレイクⅡ】
「これで…………終わりだああああああああああああああッ!!!!!!」
俺は全身全霊をかけて、
全ての力を【精神集中】させた。
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