第424話 貧民街を救って感謝された
もう満腹でなにも食えない。
このまま俺たちばかりがご馳走になるのは、ちょっと違う。
マクドネルとシェフに貧民街の人たちの為に料理を振舞えと指示を出した。
「な、なんであんなゴミカス共に料理なんて……!」
やはり、マクドネルは反発した。
だがしかし、それが俺が許さなかった。
殺す目つきでぐっと顔を近づける――。
「よほど死にたいらしいな」
「ヒイィィィィ…………! それだけは許してくれ! 貧民街の住人に施しなどすれば……将軍ルキウス様に殺されるぅ……!」
もはや半泣きのマクドネル。
顔を紫色に変色させ、ぶるぶると震える。
そんなに怖いヤツなのか、その将軍は。だがな、そのルキウスをぶっ飛ばすために、わざわざ『ケントゥリア』から『賢者の街・ギンヌンガガプ』へ来たのだからな。
ベルが婚約を申し込まれた件も気になる。
もし本気ならこの俺が許さん。オートスキルで地獄を見せてやろう。
「わたくし、聖女として困っている人を見過ごすなんてできません!」
ぷんぷんと憤慨するフォルは、マクドネルに詰め寄った。続いてメサイアも「ありったけの食糧を運びなさい」と目くじらを立てる。
リースも貧民街の人たちを案じているのか「なんとかしてください!」と珍しく、強い口調で訴えかけていた。
ベルの姿は――なかった。
あれ、どこへ行った!?
いつの間に気配を消していたんだか。まあいい、アイツは野良猫のようにひょっこり現れるさ。
「……く、無念」
ついにマクドネルは折れた。
俺たちはシェフから食糧庫を教えてもらい、そこへ向かった。
やはり、キッチンに食料はあった。しかも、そこにはベルの姿があった。なるほど、居ても立っても居られなくなり先行したわけね。
すでにサンタクロースのように袋を背負っていた。どんだけ食い物を詰め込んだんだか。
「ベル、それを貧民街の人たちに?」
「うん。彼らは困っている。今も空腹に喘いでいるし、あのままだと餓死しちゃうよ。――いや、すでに餓死者も見た。この街はどうかしているよ」
縛って連行しているマクドネルを睨みつけるベル。悪いのは全て貴族だ。この男も、その他の貴族。そして、なによりも将軍ルキウス。いったい、なにを考えてこんな貧富の差を生み出しているんだ。なんの得にもならんぞ。
マクドネルを空になった食糧庫に放置し、俺たちは邸宅を脱出。
貧民街へ戻った。
大きな袋を抱えたまま、ついに到着。
住人たちは匂いに釣られてこちらにゾンビのように歩いてくる。
「なんだ、あの大きな袋を持った女の子……」「あ、さっきマクドネルを連れて行った人たちだー」「おっちゃんの娘を救ってくれたんだよな。ありがとう」「ん~? なにを持ってきたんだ?」「腹減った……」「もう一週間、なにも食っていない」
などなど様々な声が上がっていた。
ベルは袋をあの被害を受けたおっちゃんに渡した。
「これ、食べてください」
「なんだい、これ?」
「本物の食糧です。これでお腹いっぱい食べてください」
「な、なんと! どうやってこれを……」
「細かいことは気になさらず。どうぞ」
みんな群がり、パンやら肉やら野菜やらそのまま貪っていた。涙を滝のように流し、何度も感謝していた。
「ありがとうありがとう」「うめええええ!」「神様だよ、君たち!」「お姉ちゃん、ありがとー!」「そこに兄ちゃんもな!」「おかげで生き延びられる!!」「こんな美味いものが存在したのか!」「肉じゃ、本物の肉が食える!」「幻じゃないぞ!!」
ほとんどの人たちに食料が行き渡った。これでしばらく大丈夫だろう。
そんなお祭り状態の中、あのおっちゃんが俺に話しかけてきた。
「娘をありがとうございました」
「いや、いいんだ。俺はただ貴族が許せなかっただけだから」
「本当に感謝しかありません。お役に立てることがあれば、なんでも申し付けてください」
「そうだな。なら、将軍ルキウスの住んでいる場所を教えてくれ」
「しょ、将軍ルキウスですか……。それなら、この賢者の街・ギンヌンガガプの果てにあります『スターバトマーテル城』におられるかと」
スターバトマーテル城。そこにいるんだな。よし、直ちに向かいボコす!




