第37話 ヴァルハラ - 女神の力を借りて攻略作戦 -
ようやく『炭鉱ダンジョン』を攻略した。
結局、半日以上掛かった。掛かってしまった……。
もう日も沈み、夜だ。
「……ふぅ、さすがに疲れたな。でも、モンスターも全部倒したし、これでやっと【虹の空中庭園】へ……」
「何言ってるの、サトル。【虹の空中庭園】はまだまだ先よ」
「……なんだって?」
「いい、サトル。この『炭鉱ダンジョン』の奥にある扉。そこからやっと始まりよ。扉の向こうは『ヴァルハラ』という塔のようなものに通じていて、しかも100層もあるの。その第99層にある【虹】を使えば、ようやく【虹の空中庭園】へ辿り着けるの。先は長いわよ」
「ほうほう、100層ねー…って、100層もあんのかよ!? おいおい、もっと簡単に攻略する術はないのかよ。ワープとかないのか」
「ある事にはあるけど、まー…神王にバレたら、神罰を受けるかもしれないわ」
「だよなあ。てか、今日やっと攻略した『炭鉱』がまだ始まりですらなかったとか、そっちの方が衝撃的すぎたわ。あー、もう今日は疲れた。帰って飯にしようぜ」
「賛成です~…あたし、もうクタクタで一歩も動けないですぅ~…」
リースがゲッソリしている。
魔法スキルを乱発しまくってくれたからなぁ……。
疲労困憊になるよな。
「リースは、わたくしが背負いますよ」
「フォルちゃん。ありがとうなのです……。でも、どうせならサトルさんにぃ~!」
まだ余力があるのか、フォルがリースをおんぶしていた。
さすが筋力だけはあるな。
「それじゃ、メサイアは俺が……」
「却下。あんた、私の胸の感触を楽しもうとしたでしょ。下心ありまくりね」
メサイアは、胸を押さえジトっとした目を向けてきた。
ちぇー…。
「でも、サトル。今日は頑張ったわね」
「………………」
マジか。
メサイアがあんな向日葵のような笑顔を――。
……やべ、俺ちょっと……いや、かなりときめいた。
あの破顔は卑怯だぜ。
◆
いったん、山小屋へ戻った。
『炭鉱ダンジョン』のちょい隣に展開し、設置した。おかげで、楽に行ったり来たりを出来るってものだ。
ひとまず、体力を回復せねば。
「……フォルの手料理も食べれたし、そろそろ風呂へっと」
ぴくん。
三名がその俺の言葉に反応を示した。
なぜ、風呂って単語でそう期待するかな。
な~んか、嫌な予感がするぞ。
――で、
風呂の扉は、厳重にロック!
今日はひとりで色々考えたい気分なのだ。
「サトル~。お邪魔するわ」
「うあぁぁぁぁぁぁ!? もうロック解除されてるー!!」
振り向くと、そこには半裸のメサイアが。
入ってきやがった。
「おま……! しかも、バスタオル一枚……! くぅ、それは中々刺激が……。つか、フォルとリースは?」
「あの二人なら……しばらく眠って貰ったわ」
眠って貰ったって……この女神、なにをしやがったァー!?
なんか不敵に笑ってるし、怖いんですけどー!
「ねぇ、サトル。バスタオル捲ってみたい……?」
「ゴ…………ゴクリ……」
そ、そりゃ。男としては当然、捲りたいだろ。
「なーんてね。さあ、椅子に座って」
「くっ……俺の心を弄びやがって。いいさ、座るよ。で、ナニをしてくれるんだ。背中を洗ってくれるのか? それとも、サービスしてくれるのか」
「サトル……」
「うお……メサイア。どうした」
メサイアは言葉を返すことなく、俺の横に腰を下ろした。
その姿を見せてくれるだけでも、充分ヤバいっていうのに、俺の手を握るなりそのまま自身の『お腹』へ触れさせた。
「……お、おま! おおお腹!」
いや、ま……たかがお腹だし、タオル越しではあるが、いや……タオルなんて、ただの布切れだ。本物の感触に限りなく近い。これが、メサイアのお腹。
ふんわり、もちもちしている……。
な……なんて甘美な感触だ……ずっと触っていたい。
「私こんなにドキドキしてるの……。どうかしてるみたい」
「ば、ばか。俺だってドキドキしとるわ……!」
「……こ、このまま聞いて」
このままって……
メサイアのお腹に触れている状態でかよ……。
「いい、サトル。
まず、明日から向かう『ヴァルハラ』だけど……確かに、いちいち一つ一つ攻略してたら、何年掛かるか分かったものじゃないわ。そんなの肉体的にも精神的にも持たない。だから、ちょっとだけズルをする」
「……その方法は?」
「まず【聖者の試練】の期間中は、いくら私の力でも【虹の空中庭園】へは直接アクセス出来ないの。でも、実は『女神の力』でボスフロアまでは飛べる。つまり、20、40、60、80層まではワープ可能。でも、試練だから、ボスは一体ずつ倒さなきゃいけない。何故なら全部倒さないと【虹】が起動しないの」
マジか!
つい驚いて、俺は手の力を強めてしまった。
するとメサイアは、
「……ちょ! …………ば、ばかぁ。いきなり力を籠めないでよ……」
まずい。
そう思って俺は手を離そうとしたのに……
メサイアは俺の手を離そうとしなかった。
「こ……このままがいいの。私、サトルにお腹を触れられたまま説明したい」
「なんでだよ!? さすがに話に集中できないだろうが……」
あわわ……。
ダメだ。メサイア、これだけは絶対譲らないと言わんばかりに、強い意思を顔で主張している。拒めないなこりゃ。
ま……お腹だしいいケド。
「わかったわかった。……けどな、どうせならタオル越しじゃなくて、直がいいけどな」
「な……直って……もう!! う、うぅ……。分かったわよ。タオルは取りたくないから、隙間から手を入れて……」
メサイアは頭を俯かせ、もう顔真っ赤で限界そうだった。
「バ、バカ! 冗談だ! これでいい! これでいいから!」
「……うん。
話の続きだけどね、各層に配置されている四体のボスは、それは超強力よ。その代わり、パーティを組んでいれば仲間内で挑んでもいいの。だから、戦力を増やすという手もある」
「ほー。そんな手を使ってもいいんだな」
「そ。【聖者の試練】とは言うけれど、パーティを組むのは禁止されていないの。神王がオッケーって言ってるんだから、いいんでしょう。ちなみに、昔はギルド単位の大規模な攻略も多かったけどね」
「それなら何とかなりそうだな。有益な情報をありがとうな、メサイア」
「役に立てたのなら良かったわ」
そんな風に、まさに女神の微笑みを浮かべてくれたのだから、俺はドキッとしてしまった。――で、つい手に力が入ってしまった。
「……ひんっ!」
擽ったいのだろう、そんな堪えるような甘い声が、俺の耳元で囁かれる。やば……メサイア、こんな声も出せるんだな。
というか、よっぽど擽ったかったのだろう、体の力抜けてるじゃないか。
やれやれ……。
俺はお腹から手を離して、メサイアを椅子に座らせた。
「俺は、また後で風呂入りなおすよ。だから、お前はちゃんと体を温めてから出るんだぞ。いいな」
「……うん。そうする」
メサイアのヤツ、完全にボ~っとして、恍惚としてる。
俺は……まだ手にお腹の感触が残っている。
むぅ~…。
ほとんど内容が頭に入らなかったぞ。
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