第36話 炭鉱ダンジョン - はじまりの試練 -
以前の『炭鉱ダンジョン』は、もっと落ち着きがあった。
モンスターも『モグラ』とかなぜか工事帽をかぶった『ミノタウロス』がいた。そんな、ほのぼのとした低レベル向けのダンジョンだった――はず。
だが、どうだろう。
今この『炭鉱ダンジョン』を見渡せば、状況は……
「うい……メサイア、ありゃなんだ!!
あの『ミノタウロス』……図体アホほどでかくて、全身真っ黒で、角もぐるんぐるんで鋭利で……目つきもおかしいぞ!!
あと、やたら禍々しい戦斧……アレ、食らったら絶対ヤバイだろ」
「あ……あれは『ギガントミノタウロス』ね。【Lv.3150】らしいわ。強力な武器『ギガントアックス』で、恐ろしいほどのダメージを受けるみたいよ。それと、ノックバックもするから気を付けて」
【Lv.3150】……いくらなんでも高すぎる。
以前の工事帽のミノタウロスならノンアクティブで、レベルも精々『30』程度だったはず。それがなんだ……『3150』だって? 強くなりすぎだろ……。あれも、突然変異ってところか。
「きゃぁぁっ!! アレはなんですか、あの恐ろしい亡霊はぁ!」
リースの顔が青ざめている。
今度はなんだ……『亡霊』だって?
「おい、メサイア。あの明らかにヤバそうな亡霊はなんだ!」
「調べた! 『炭鉱労働者の怨霊』らしいわ。どうやら、奴隷のように働かされて無念の死を遂げ、亡くなったヒトの強い怨念が具現化したもののようね。【Lv.3200】で……ヤツには、物理攻撃は効かないみたい。気を付けて。それに『スクリーム』という叫びスキルは、聞いただけで【防御力半減】するらしいわ」
くっ、厄介な幽霊モンスターだな。
「あ……兄様、あのモンスターは何ですか!?」
またか!
まだいるのか!!
「あれは……ロボット! しかもなんだ、あの恐竜みたいなロボット……。メサイア、あの恐竜型ロボットはなんだ! 気になりすぎる。教えてくれ!」
「もう解析した。うん、あれはね『掘削用ロボット・T-REX』よ。元々はこの炭鉱で使われていたらしいけど、暴走でモンスター化したみたいね」
掘削用だったのかよ……。
そいや、以前、別のボスロボットも叛逆していたっけな。
――というワケで、この『炭鉱ダンジョン』にして、そんな強力なモンスターが跋扈しまくっていたのであった。
……なんでだよ!
「どうなってやがる……! 前とは大違いじゃないか。なんで【Lv.3000】相当のモンスターがこんなに大量にウヨウヨしてんだよ。ありえんだろ」
「サトル、これはね【聖者の試練】に切り替わったからよ。だから、この時期になると労働者は全員追い出されるし、職も一時的に失う。けど、今回はロボットも暴走していたし、苦労は絶えなかったみたいね……」
今明かされる真実!
そういう事かいっ。
「ええい……俺の【オートスキル】で叩き潰すだけだ! メサイア、分かっているな!」
「了解。【オルクス】と【プルート】をサトルに掛ける」
【オルクス】で火力3倍。
【プルート】で一定確率で【デス】を与えられる。
なんとかなるだろ……たぶん!
「まずは、あの前方一面に大量発生している『ミノタウロス』を倒す……! くらいやがれぇ! 久しぶりの、超爆発!! ……んなっ」
『ギガントミノタウロス』の動きが……!
むちゃくちゃはえええ!!
「ぐっぼほあああああああああッ!!」
ギガントアックスが俺の胴体にメリ込もうとした。その際『ヒドゥンクレバスⅢ』で氷の盾を即生成したので、致命傷は避けられた。しかし、それでも体を吹き飛ばされ、壁に激突。
「ぐ……!」
こ……これは、確かに大ダメージだ……。
HPが一気に半分削られやがった。頭から血が……。
「兄様! グロリアスヒール!!」
フォルの『グロリアスヒール』が皆に降りかかる。
おかげで、HPを全回復した!
尚、これは、パーティ全体に効果があるようだ。便利である。
「せんきゅ、さすが聖女様。
……さて、血も出来たことだしな。これしかないよな! 『血の煉獄』!」
ごうっと勢いよく、炎の渦が『ミノタウロス』の体を絡めとり、燃やし続けた。あとは倒すのを待つだけ。敵のHPが高すぎるから、時間が掛かるな。
【デス】がたまに発動してくれれば、一瞬で倒せるから楽だけど。
「よし、これなら何とか倒せるぞ。
フォル。今のうちに他の『ミノタウロス』も引っ張ってくれ。リースは、なるべく距離を取りつつ、怨霊とロボットが近寄ってこないように魔法で牽制を。メサイアは……レアアイテム収集!」
しかないし……。
「サトル。私は、モンスターの処理が終わるまで煎餅食べてるわ」
――と、緊張感なく『醤油煎餅』をバリバリ頬張っていた。
だめだ、この女神……早くなんとかしないと。
少し緊張が解れていたその時、
「っ!! おい、メサイア、後ろだ!」
「……え」
「っらぁぁぁぁ、間に合え! ホーリーブレード!!」
俺は、メサイアを手繰り寄せ、
急に湧いて出て来た亡霊の脳天に『ホーリーブレード』をぶっ刺した。
『~~~~~~!!』
するとモンスターは、言葉にならない叫びを上げ、消滅した。
「……危なかったな、メサイア。怪我はないな?」
「う、うん……ありがと。助かったわ、サトル」
「ああ。お前が無事ならそれでいい。けど、油断は禁物だぞ……って」
そういえば、メサイアと密着しちゃっている。
……こうしてみれば、身長差あるな。体も小さいものだ。なんかこう、無性に抱きしめたくなる体つきをしているな、コイツは。
「な……なによ」
「メサイア。俺は……」
【Congratulations!!】
【Congratulations!!】
【Congratulations!!】
「………………」
気づけば、ミノタウロスを数十体まとめて倒していた。ああ、フォルが引っ張ってきてくれたのか。そりゃ、レベルも上がるよね。
「また、みんなレベルアップだな」
「その、サトル……守ってくれてありがとね。私、契約したのサトルで本当に良かった……だから、その」
【Congratulations!!】
【Congratulations!!】
【Congratulations!!】
「――あ? なんだって? すまん、このレベルアップの嵐で何も聞こえない」
「…………なんでもない」
なんかすげぇ睨まれた。
あれ~…俺なにかしたっけな?
さて――俺の【オートスキル】大炸裂でモンスターが減りまくっている。
はじまりの試練『炭鉱ダンジョン』攻略も近い。
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