第26話 聖者への道 - 誰がために聖鐘は鳴る -
狂暴にして、最強のドラゴンから家を守り抜いた直後……『ポインセチア城』の中へ案内された。どうやら、聖者のための儀式があるらしい。
王座に辿り着くと、そこにはビキニアーマー姿の『ベル』がいた。相変わらず、すごい恰好だ……。あと獣耳。あの猫耳の類の耳は、いつか触ってみたい。あと今更気づいたけど、尻尾も。
「ベル……!」
「やあ、理くん。あと皆さんも。それに、ミクトラン王」
「ベル。この3名が『聖者』を志す者たちです。
紹介しましょう。まず、この幼き少女は『マーリン』出身で、ある伝説を残した賢者の娘。不羈魔法使い『スイカ』です。二人目は、古き歴史を持つ炎の使い手、アーカム家の長女『アグニ・アーカム』。
そして、最後に冒険者の――『彼岸花 理』です。
以上、3名が『聖者』の道を歩む方々です」
「承知致しました、王様。それでは、これを――」
ベルから配られるソレは……
あのメサイアが首にかけている『ネックレス』そっくりだった!
これは……どういうことだ!?
「皆さま。このネックレスは『ヒトの魂の輝きを示す』モノです。
ご存知の方もいるかもしれませんが、現在では死神……元々は、女神の持つモノ。それと同等品です。――ですが、あなた方に差し上げるネックレスは完成品ではありません。『聖者』になったその時こそ、それは初めて完成するのです」
――そう、ベルは淡々と語った。
魂の輝き……ということは、メサイアの黒々としたあの輝きは……どういう事だ? つまり、腹黒って事か!? でもないよな、イイヤツだし。
そう考えていると、王様から、それぞれにネックレスをかけられていた。
今度は、俺の番か。
「拝領します」
「サトル殿。あなたの行くべき道は決まっています。
他の二人、スイカとアグニはそれぞれの道を……あなたとは少し違う道を行きます。ですので、あなたはそのまま『ビフロスト』へ向かうのです。いいですね」
「はい。いろいろ有難うございました。俺は、家の為……みんなの為なら『レイドボス』を倒しますよ。だから、世界の為とかでは動けないですが」
「ええ、それは百も承知です。
なによりも、あなたはとても特別な存在なのです。ですから――」
王様は、幽寂な眼で俺を見つめ、
「アルクトゥルスの加護があらんことを……」
そう祝福してくれた。
これがきっと――ベルの言っていた【大いなる祝福】なのだろうか。
そんな静かな時の中で、
ゴーン、ゴーン……。ゴーン、ゴーン……。
――と何処からともなく、
【鐘】の音が。
「……鐘の音?」
俺がそうつぶやくと、他のふたりも同じようにつぶやいていた。
「それは【聖鐘】――。
聖者の道を歩む者にしか聞こえない【大いなる祝福】です」
ベルはハッキリとそう言った。
そうか。
これこそが【大いなる祝福】なんだ。
結構うるさいな……!
まだ鳴ってるよ。
これずっと鳴り続けるのか?
スイカ……だっけ。
口数の少なそうな黄緑髪の少女は、まるで気にせず立ち尽くしているように見える。
「……」
いや……そうでもなかった。
なんだか急激に感情を失った顔している……。
やっぱり、うるさいんだな。
一方、アグニとかいう赤髪少女は、
「じゃ、アタシは一足先に『エーリューズニル』ヘ向かう」
と、耳を押さえながら行ってしまった。
それを見て、慌ててスイカとかいう少女も、
「…………あたしは『ナーストレンド』へ」
駆け足で行ってしまった……。
そんな急がなくてもなぁ?
それよりも、
「あークソ。これずっと鳴りっぱなしなのか、ベル」
「うん。この祭りが終わるまでね」
「うげー…終わるまでかよ。あと何時間だよ」
「あと一時間くらい。それまでは我慢だね」
うあー…。一時間も我慢しなきゃならんのかよ。
この鐘の音!
「あぁもう俺も行く。じゃ、王様……ベル。世話になったよ」
「サトル殿。……この世界は闇に包まれつつありますが、希望もあるのです。もしも、神王にお会いになられたら……あなたはきっと――」
そこで、王様は言葉を切った。
「いえ、今はあなたの信じる道を行けばいい」
なんだか気になるが。
気にしないでおこう。
「理。この祭りが終わったら……わたしも合流するから、その時はよろしくね」
「まじ? ベルも俺の家に住むのか?」
「そうだね。それもいいかも。だって、わたしは、理に会うために今まで頑張ってきたんだから。だから、ねぇ、王様」
「ええ。ベルはもう立派な『聖戦士』です。私が教えることはもう何もありません。自由に生きると良いでしょう」
「へえー、ベルって『聖戦士』だったのかー…へー…。えぇッ!?」
「隠していてゴメンね。これは神王様が特別にってね」
まさかベルが『聖戦士』だったとは。
一応、聖者って解釈でいいのだろうか。分からん。
「驚いたよ。ま、とにかく、たまに遊びに来いよ」
「……うん、たまに会いにいくよ、理。それじゃあね。頑張って」
「おう」
「それでは、体にお気をつけて。サトル殿」
俺は挨拶を済ませ、城を出た。
◆
城門を出ると、三人が待っていた。
「よ、みんな」
「サトル! どうだった!?」
「サトルさん、どうでしたか!?」
「兄様、どうだったんですか!?」
そんな風に一斉に飛び掛かってきた。
「なんかな……。頭の中で、鐘の音がずっと鳴ってるんだよ。それが鳴りやまない……脳内でスゲ~反響してる。きつい、だるい……」
「あ~、それか……。それシンドイのよね」
メサイアが舌を出し、両耳を押さえゲンナリしていた。
……あ。やっぱり分かるんだ。という事は、メサイアも。
「なんだ、メサイア。お前は経験済みなのか」
「ま……まあね。その、大昔にちょっとね。そう、昔よ昔」
「なんだ、汗すごいぞ」
「う、うぅ……。今のは聞かなかったことにして頂戴」
ん~?
「あ、兄様。そのネックレス……姉様と一緒のですね」
「ああ、そうそう。メサイアのヤツと同じ。どうやら、聖者になるには、これが必須らしくてね。貰ったんだが。魂の輝きが分かるとかなんとか」
「へ~! それは面白いアイテムですね。今のところ無地ですけれど」
そう、今のところ色はなにもない。
きっとこれから現れるに違いない!?
「さあ、みんな。家に帰ろう」
ご~ん、ご~ん。
鐘の音め……。
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