第19話 スキル覚醒 - 血潮は煉獄の炎となりて -
世界はなんて理不尽なんだ。
この状況だってそうだろう?
なんだよ『突然変異』ってよ……!
そんなゲームの仕様はサクリファイスオンラインにはなかった。この世界はどうなっているんだ。独自の進化でも遂げたのか?
ボスモンスターは、突如として突然変異。その結果『バスターデビルクラーケン』とかいうバケモンになっちまった。そんなのアリかよ! 反則だ!
しかも【Lv.1320】と目玉が飛び出るような数字が表示されていた。
か……勝てるのか?
「いや、やるしかないだろ……」
たとえ勝てない相手と分かっていても……それに立ち向かうのが俺だ。……ああ、やってやるさ。なにより、仲間を……フォルを見捨てるだなんて真似は絶対にできない。
「アスターだかダスターだか知らんけどな……フォルを返してもらうぞ、このニョロニョロのイカ野郎!」
俺は浜を駆け抜けてモンスターに接近していく。
……が、気づけば、俺の腹には大きな触手がメリ込んでいた。
は――はやァ!?
ぐあああああぁぁッッ!!
猛烈な一撃で浜に叩きつけられ、体が地面にメリ込む。
「グぶっ…………」
大ダメージを負った。
マズい。血反吐が……アバラが何本かイッた……。腕の骨もヒビくらいは入ったかもしれない。いてぇ……すげぇ痛ぇ。激痛だ。
くぅ……!
な、なんちゅー速さだ。なにも見えなかった。
あぁ、くそ…………。
吐いた血が体にベットリだ。しかも、体全体がギシギシ悲鳴を上げてやがる。
体力もヤベー……。
残り僅かのレッドゾーンだ。死ぬ、死んでしまう。
「サトル!」
「サトルさん!」
メサイアとリースが俺を心配してくれる。
「ふ、ふたりともこっちに来るな! あんなモン喰らったらひとたまりもないぞ! 俺は平気だ……あと一歩くらいなら動け…………」
ダメだった。
情けない事に、俺は倒れ――て、いない!
「ん……? なんだ? 体力が急に回復したぞ! ケガも治ってやがる! なんだ、俺はついに特殊能力を手に入れてしまったのか!?」
バスターデビルクラーケンは?
……まだ元気にしてやがる。フォルも触手に捕まったままだ。
「ぁ……兄様…………」
フォル! 気絶したのか。
まずい、あのままだとフォルが!!
「許さん……許さんぞ、このクソイカぁぁッ!!」
俺は、怒りに身を任せ――
突然出現したスキル『血の煉獄』をイカ野郎に向けて撃ち放った!
鮮血の炎が地獄と化し――
破滅的なの渦が触手を一方的に蹂躙した。
血と地獄が融合した俺の『血炎』はバスターテビルクラーケンに侵食していくや否や、内部から体を破壊していき、蝕み、ついに――
「グォォオォォォオォォォオォォォオォォォォォォォオオオオオッ!!」
モンスターは雄叫びを上げ、崩壊していく。
すると、
【Good Job!!】
バスターテビルクラーケンを灰になるまで燃やし尽くし、ついに勝利した。
「…………やった、のか」
ボスモンスターが灰燼になっていくところを見ると、やったらしい。まじか……。【Lv.1320】もあるボスモンスターを倒したっていうのか。俺が? 信じられん。
「……いや、それよりフォルだ」
海にプカプカ浮かんで気絶しているフォルを回収。浜に戻った。
「サトル……あんた、さっきのスキルは……」
「サトルさん、ケガは?」
メサイアもリースも駆けつけてきた。
「スキルの説明は後だ。ケガは俺より、フォルを……ん? おい、メサイア、お前の後ろにいる人間はなんだ?」
「ん? 私の後ろ……? って、うあっ! いつの間に!」
気づかなかったのか。
「どうも。私は通りすがりの“花の王”です。この先にある【花の都フリージア】の王ですが……今はそれは置いておき、そこの気絶されておられる聖女様を回復して差し上げましょう」
妙にドヤ顔でメガネをクイッと上げる桃色髪の優男。
花の王(?)とやらは、掌をフォルに翳すと治癒魔法の『ヒール』をかけていた。いや、これはただのヒールじゃないぞ。かなり高位の回復スキルだ。
「……あ、兄様。申し訳ありません……です」
気づいたのか、開口一番に俺に謝るフォル。
「バカ。謝るな。お前のせいじゃない。あれは突然変異だったんだ。【Lv.1320】だったんだ。勝てる方がどうかしている」
「はは……兄様。ご無事でよかった……」
フォルは、また気絶してしまった。
「――しかし、この聖女様はとても運がいいですね。普通、あの突然変異したボスモンスターに捕まったら、まず即死ですよ。
さすが『フォーチュン』の加護をお持ちだ。もっとも、私もそのフォーチュンに導かれてきたのですがね。あと、そこの女神様もね」
自称『花の王』とか名乗るメガネの男は、俺の横でそんな風に淡々と語っていた。
確かに、貴族っぽい衣装だから嘘ではないかもしれない。
だが、本当に王様なのかは怪しい。
「あんた、王、とか言っていた気がするか本物なのか?」
「ええ、疑いようのない本物です。大切なことなのでもう一度言いますが、私は花の都フリージアの王『ミクトラン』です。以後お見知りおきください。
――それと、あなたはサトルさんでしたね」
「お、おう。そうだが」
「あなたには、体力と魔力の回復と……若干のスキル覚醒を促しておきました」
なっ……まさか。
急に回復したのも、急に上位スキルが使えるようになったのも、この王とやらのおかげ……?
だとすれば、本物の王様だ。
ミクトランとかいう花の王は、メサイアを見つめ「メサイア、お久しぶりですね」と挨拶を交わしていた。知り合いか!? ――が、一方のメサイアは、ツ~ンとしており無視していた。
「お、おい、メサイア。王様に対して失礼だろ。挨拶くらいは……」
「はぁ~…分かったわよ。久しぶりね、ミクトラン。あんたのおかげで、サトルの能力が若干だけど、上がったわ。でも、本当だったら一ヶ月後の『聖者祭』でお願いしに行くつもりだったの!」
「そうでしたか。それは余計なお節介を」
「いえ、助かったわ。あ、ありがと……」
ぷいっとメサイアはそっぽを向いた。
どうやら、メサイアと王は知り合いのようだ。へぇ、どういう関係なんだろう。
「とにかく、助かったよ王様。俺らは一度、小屋に戻るよ。また改めて礼を言いに行きたい」
「ええ、いいですよ。いつでもお城に参られて下さい。話したい事もありますので。――それでは、私は帰りますね」
俺たちに微笑むミクトランは「テレポート」とつぶやく。
するとミクトランの姿が忽然と消えやがった。あれは転移魔法スキルか。この世界では初めて見たな。
「ふぅ。みんな無事で良かった。俺たちも帰ろう」
「そうね。遊ぶ気も失せたし疲れちゃったし、帰りましょ」
メサイアは、特にミクトランのことを気に留めず先へ向かう。その背後をついて行くように疲れきった様子のリース。こりゃ限界だな。
「はいぃ~……あたしももう限界ですぅ」
俺は気絶しているフォルを背負い歩く。
本当に疲れた。
当分は……ひきこもりたいな。
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