第16話 女神の真実 - レベルはそれでも勝手に上がる -
「メサイアがどうした」
「その御方は、女神ではない。正しくは『死神』だ」
し……『死神』だって……?
「――だろうと思ったよ」
「な、なによ。気づいていたのサトル!」
焦りながらメサイアが叫ぶ。
「当たり前だろ。こんな黒服姿の女神なんぞおるワケないと思った。あと、やたら触れるのを嫌がるネックレス。あれも、禍々しいオーラを纏っていたしな。とても、神聖なモノとは思えなかった」
「……ふ、不覚。もう少し女神らしく振る舞っておけば良かったわぁ」
「女神じゃないと素直に認めるんだな、メサイア」
「まーね。でも、一応、女神よ。『元死神』の『現女神』ってとこ」
「なんぞそれ。死神が女神に転身したのか」
「それ話すと長いのよね。掻い摘んで話すのなら、この世はもともと女神で溢れていたの。でも、今はひとり――いえ、ふたりを除いて全員、死神よ。だから、女神なんてほとんど存在しないの」
女神が存在しない?
なんじゃそら?
「そういう事情なので、サトル。私の花婿になってください!」
あの女騎士、まだあんなこと言ってるよ……。
意味分からんわ!
「俺は……メサイアが死神だろうが女神だろうが何だって構わん。俺にとってコイツは『救世主』だからな。その事実だけあれば充分だ」
「そうですか……。サトル、あなたの意志は固そうだ。――では、私は無理を押し通してでも貴殿を奪い取るだけ――と、言いたいところですが、時間がなくなりました。残念です……」
チャルチは剣を鞘に収め、背を向けた。
時間だって?
「この先の花の都フリージアを越えた場所にある『聖地パーシヴァル』という国で戦があるのです。……それでは、またどこかで」
と、チャルチは宙をハイジャンプして飛んで行ってしまった。
な、なんつージャンプ力だよ。
――いや、スキルを駆使して補助しているのか。チャルチの足元を見ると、氷の結晶の紋様が展開している。あれをバネにしているってところか。
ありゃ、いろんな意味で只者じゃないな。
「あら。行っちゃった」
「い、行ってしまいましたねぇ」
「お手合わせしてみたかったのですが」
メサイアもリースもフォルも空を見上げながら、つぶやいていた。
ともあれ……助かった、のか?
でも、戦って……物騒だな。
【Lv.167】 → 【Lv.171】
――あ、そういえば、こうしている間にもモンスターを【オートスキル】で狩っていた。レベルアップっと。新しいスキルも取れそうだぞ。
◆
小屋へ戻ったはいいが、リースと二人きりになってしまった。
メサイアは、隣国の『聖地パーシヴァル』の情報取集だとかで、花の都フリージアへ向かった。フォルもその護衛に。ついでに、いろいろ物資を買ってきてくれるそうで、久しぶりに、マイホームの改築も出来るかもな。
「いやぁでも、このポテチは美味いなぁ」
みんなと一緒に食べられなかったのは残念だが、いやしかし、改めてフォルの【料理スキル】は本物だな。おかげで、俺がかつて食っていたポテトチップスと同じものが完成した!
これを食べられる日が来ようとなぁ……。
感慨深いものがある。
てか、まて……。
このポテトチップスも自動販売したら……大儲け出来るんじゃ?
売りまくって、家を建てるのもありかもな!
夢が膨らむなぁ。
――なんて今後の商売を考えていると、
「サトルさ~ん、お茶ですぅ」
リースが熱いお茶を淹れて来てくれた。
……フム。
そういえば、リースには聞きたいことが山積していた。そろそろ、聞いておくべきだろう。こんな二人きりになる機会なんて滅多にないだろうし。
「なあ、リース。聞いていいか」
「はい? なんでしょう」
「単刀直入に聞くが……リース、キミの服についてなんだけど……」
「あたしの服、ですか?」
「うん。なんでそんなに、スケスケなんだい?」
「ス、スケスケ……って? ……あ。あぁっ……!」
今指摘されてようやく気付いたのか、リースは赤面してしまった。今にも大噴火しそうだ。……可愛すぎる。
「あ、あのっ。あのあの…………これはぁ……」
「お、おい、リース。もしかして、初めて気づいたのか!? いやさ、黄色が透けて見えてたし……」
色の付いた布地がね。あと、ラインとかもね、クッキリと。おかげで、目の保養に最高でしたが。
「こ……こんな、はしたない姿でごめんなさいぃ……」
リースは、唇を噛み涙目で、とても……すっごく恥ずかしそうにしていた。いやー、マテ、キミ、風呂上がりの時、裸で普通にウロついていたよね?
なんで、今の状況で恥ずかしがるかな!?
が、そんな風にされては、さすがに胸が苦しい。
というか……正直、たまりません。
「ふぇぐっ……。は、恥ずかしいです…………見ないで下さいぃ」
俺に見られているのが相当恥ずかしいのか、リースはその場で屈んだ。手で体を隠し、羞恥心でいっぱいだ。
一体、どういう心境の変化なのやら。
意外な反応に、俺はどうしていいか困る……。
「そ、そのなんだ。そんなつもりはなかったんだ。なんかスマン」
――と、俺は自身の、ジャージの上着を脱ぎ、それをリースの肩にかけてあげた。
「……サトルさん」
リースは、ウルッと瞳を潤ませる。
そんな居た堪れない状況に俺はつい、
「リース……誤解しないでくれ。俺、リースのことはすげぇ可愛いと思ってるしさ……」
なんて、気持ちを馬鹿正直に吐露してしまっていた……。
あっ……つい雰囲気に流されて!!
しまった、俺なに言ってんだー!
バカか俺は……。
こりゃ、嫌われちゃうかなぁ~…とか覚悟していると、
「…………」
時が止まった。
「――――」
自分も時が止まったが、次第にリースが俺に抱きついている。
小さい、本当に小さな体が俺に密着を。
しかも、リースは目を閉じ、まるでキスを待っているかのような……そんな体勢だった。
……やば。
俺……今、心臓口から飛び出そう。
動悸が狂いに狂いまくっている。激しいくらいに。
こんなに。
こんなにもドキドキするのは、人生で初めてだ。たぶん、リースもいっぱいドキドキしているのか、心音が聞こえそうだった。
あぁ、くそっ……手が震えてきやがった……。
女性経験皆無の俺には堪えるぜぇ。
「リース……」
なんとか気持ちを落ち着かせ、俺はリースの肩に手を置いた。
そして、
【LEVEL UP!!】
【LEVEL UP!!】
【LEVEL UP!!】
【LEVEL UP!!】
【LEVEL UP!!】
【LEVEL UP!!】
レベルが上がった。
「レベルアップうるせええッ!!」
【Lv.171】 → 【Lv.177】
「あはは……サトルさん。レベルアップおめでとうございます」
「あ、ありがとな」
すっかりそんな雰囲気でもなくなった。
おのれ、いまだに鬼湧きしている『レッドオーク』と『レッドゴブリン』が攻めてきたのだろうな。なにもこんなタイミングで襲って来なくてもいいだろ。
あとちょっとだったのに……!
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