第143話 赤い影の正体
いつか、アヴァロンで何十、何百とループした。
女神専用スキル【インフィニティ・オーディール】が発動していたからだ。あれは、特定の範囲をループさせる、いわば獄禁呪スキルに相当するものだ。
そんな危険なもの、二度と発動しないようにしてもらっていた。
しかし、今回ばかりは、
「――――っ、変な夢を見た」
とてもリアルな夢を。
【聖地・モードレッド】が焼かれ、仲間たちが次々に倒れていく悪夢を。
いや、夢なんかじゃない。
あれは本当だった。
「どうやら、成功したんだな。一度っきりのループを」
「ん? どうした、サトル。ねえ、続きは?」
「あ、ああ……メサイア。それより、ちょっと」
「え。どうしたのそんな怖い顔して……あ」
今はただ、メサイアを抱きしめたかった。
「ありがとう。お前のおかげで助かった……」
「えぇ? 意味分かんないわよ。いきなりどうしたの?」
俺は、一度起きた出来事をメサイアに話した。
「――な、なによそれ。蜂に刺されて全員が麻痺? 突然、コンスタンティン王が現れて、ボコボコにされた? うそでしょ。信じられない……」
「信じ難いかもしれんが本当だ。お前の【女神のネックレス】をトリガーに、ループしたんだ。けど、これは一度きりだ」
「え、どうして」
「これ以上は、ネックレスに穢れが生じてしまうからだ。メサイア、お前が『死神』に戻っちまう。だから、一度しか無理だった」
『死神』に戻るということは、以前の状況に戻るということ。
しかも、女神専用スキルが消えるだけじゃない。
【レイドボス】がまた出現しちまう。それはダメだ。あんな苦労したのに……またやり直しなんて、それだけは絶対に避けたかった。
「そんな……」
けどな、これは奇跡的な一度。
これが最大のチャンスなんだ。
「メサイア、みんなを招集してくれ。大至急、作戦を立て直す」
◆
「そんなわけだ……この聖地は滅びる」
俺は、みんなに事情を細部まで説明した。
「その話からして、裏切者がいるのは確かだね」
冷静にベルは断言した。
「こっちの行動を読めすぎだからな、間違いないだろうな」
「これからどうするんですか?」
「おう、よくぞ聞いてくれたリース。
これから、この闇夜に乗じ【聖地・コンスタンティン】へ直接乗り込む。けど、ただ向かうだけじゃない。チームに別れ、俺、メサイア、フォルは聖地へ。リース、ベル、レッドスカーフ、アーサーには、【聖地・モードレッド】の防衛を頼みたい。それと、リース……嫌かもしれないが、グースケとパースケに伝達を頼む」
「……いえ、大丈夫です。サトルさんのためなら!」
俺は、リースにある事をグースケ&パースケに伝達してもらった。これで、八万の兵の侵攻は少し遅れるはずだ。
「よし、みんな! 作戦開始だ!!」
◆
俺たちは【聖地・モードレッド】を出た。
ただし、人数はさっきの通りだ。
「うぅ、夜の砂漠は冷えますね」
「寒そうだな、フォル。どれ手を貸してみろ」
「え……あ、はい」
フォルの両手を取ってみる。うあ、冷たいな。
「ほら、どうだ」
「ええ……暖かいです。兄様のぬくもりを感じます……。でもその、なんか優しいです」
「なに言ってやがる。俺はいつだって女の子には優しいぞ」
「えー…」
何だその顔は。
なんてやっとると、メサイアが何か発見したらしい。
「どうした!」
「うん。あれっぽいわね、プロキシマとケンタウリ」
「発見したか。やっぱり、聖地・モードレッドに向かってきていたか。……よし、二人とも、準備はいいな。ヤツ等は【獄麻痺】を使ってくる。気をつけろ! ……ん、まてよ」
ヤツ等が奇襲をかけてきたように、俺も反撃だ。
「フォル。いいか――」
「……分かりました。では、わたくしは全力で」
「おう、頼むぜ。それと、メサイア」
「ん?」
「俺から離れるなよ。あと補助支援を頼む」
「ええ、任せて!」
ここでヤツ等を叩き潰す……!
俺は『聖槍・アンティオキア』を出した。
ヤツ等には【聖槍・エクスカリバー】でも良かったが、それでは目立ちすぎる。八万の兵に見つかるわけにはいかない。
「この距離なら……!! うらあぁぁあァ!!」
力を可能な限り篭めて、槍を投げた。
槍は一直線に飛行し、ケンタウリの足を貫いた。
「ぬぁぁぁ!!!」
「おのれ、何奴!!」
プロキシマがケンタウリを守る姿勢に入った。よし、これで隙だらけだ!
「ここだ!! パニッシャートライデント!!」
俺は、更に槍を投げた。
だが、槍は剣で弾かれ、どこかへ消えた。だめか……!
「なんだお前らは!! む……情報屋の言っていたヤツ等か。おのれ、こちらの情報が洩れていたか……! だがな、我らは不死身なのだ――見よ、この姿をな!!」
なに……プロキシマとケンタウリの姿が変貌していく。
あの姿は――――まさか。
魔法の森【ブロセリアンド】にいたあの『赤い影』か――!!
そうか、アイツ等だったのか……。
そして、死なない理由はそこにあったのか。ヤツ等、人間を食らい、力を増幅させていたんだ……なんてヤツ等だ!!
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