第12話 武闘派聖女 - 一撃必殺の覇王天翔拳! -
【花の都フリージア:草原フィールド】
メサイアによれば、この周囲には【Lv.100】相当の『レッドゴブリン』に『レッドオーク』が大量に生息する危険地帯だという。そや、そうだったな。
だけど、レッドゴブリンにレッドオークだと……?
俺の知るゲームの世界の仕様とは少し違うらしい。
なんだかイヤな予感がする組み合わせだ。
俺がどうにかして、メサイアたちを守っておかないとマズイ気がしてきた……うん、小屋には絶対近づけさせないぞ。
俺は、小屋の周囲を固めるべく【オートスキル】の『煉獄 Lv.2』と『ヒドゥンクレバス』の発動に問題がないかを念のため確認した。
「オーケー」
「なにがオーケーよ?」
メサイアがベッドの上で、黒いワンピースのスカート部分をたくし上げていた……。なぜ、たくしあげる! アレが見えそうだぞ、アレが! ギリギリ見えてないけども! でもちょっと見たい気も!
「メサイア。それ以上は危険だぞ」
「あぁ~…これ。なに、意識しちゃった~?」
ニッ……と、悪戯っ子のような表情を俺に向けてくる。
いやだってなぁ。あと数センチなんだけどなぁ。際どいところまで来ているのに、不思議と見えないものだ。どうなってんだか。
「これでも俺は男。……一応、健全な男子なのだ、多少なりとも意識はするぞ」
「そうね。男の子だもんね。でも、残念でした~! これはね、こうすると――」
と、メサイアはスカートの中から『醤油煎餅の袋』とこの世界の通貨であるお金『プル』を落とした。ベッドの上にたくさん落ちてる。
「はぁ? どうなってんだよ、お前のスカートの中……」
「覗いてみる?」
「……バ、バカ。出来るか! そんな事……。教えてくれ、それはどーゆー理屈なんだ」
「ふふ。そんな顔を真っ赤にして、案外可愛いところがあるのね、サトル」
「う、うるさい……」
「じゃあ、説明してあげるけど――」
メサイアがスカートについて説明しようとした、その時。
「サトルさん!」
「兄様!」
リースとフォルが慌てた様子で俺を囲んだ。叫んだ。なんだ騒々しい。
「どーした、ふたりとも。俺は今、メサイアのスカートの謎について尋ねているところなんだ。忙しいから後にして…………ん?」
ん!?
なんだか、小屋の外が変だ。
「サトルさん。外に『レッドオーク』がいっぱいですぅ!!」
「マジか! 来やがったか!」
俺は、窓に向かいおそるおそる顔を出した。
するとそこには……
数十体の『レッドオーク』の群れが。
「……多いな。しかも【Lv.160】もあるのか。……んなッ!」
おかしい。
俺の【オートスキル】で燃えていない。凍ってもいない。いつもなら、ある距離までモンスターが接近すると自動的に排除されるのだが、まったくされていなかった。
どうして?
「メサイア、あのレッドオークだが」
「違う……」
「違う? なにが違うっていうんだ?」
「レッドオークじゃない! アレは、突然変異の『タイラントオーク』よ!! ボス属性付きのヤバイヤツよ!」
「なに!? 『タイラントオーク』だって…………って、なんだそれ」
「あんたね……」
メサイアは、呆れた顔で俺を見る。
オイヤメロ。そんな可哀相なガキを見るような目で俺を見るな!
「とにかく、ヤバイのよ!! いったん、小屋から出るわ。生命優先よ。いい皆」
「は……小屋から出るだぁ!? んな事できるか。小屋が破壊されたらどうする! そんな真似をするくらいなら、俺は戦うぞ」
「戦うって、あんたのレベルじゃ無理よ。確か今【Lv.107】だっけ。ちょっと厳しいわ……。それに【オートスキル】もほとんどダメージを与えられていなかったでしょ」
ちょっとか。
ちょっとならいけるだろ。
一応、少しダメージを与えてはいたらしいが……効かなかったのは、なかなかに悔しいな! レベルがまだ低いってことは理解できるが、くそう!
つーか、そもそも、戦力はなにも俺だけじゃない。
「おい、メサイア。リースとフォルの存在を忘れていないか? このエルフと聖女は、そのタイラントオークを超えるレベルだぞ。一応、リース【Lv.329】、フォルトゥナ【Lv.533】だ。余裕だろ」
「それはそうだけど、リースは戦うのが好きじゃないでしょ。フォルも聖職者だし、戦闘には不向きじゃないかしら」
なんだか、メサイアはいつになく弱気だ。
だが、俺はそうは思わない。
「リース。一緒に戦ってくれるよな?」
「良いですよ~。小屋がなくなったらひきこもれないじゃないですかぁ。ですから勇気を振り絞ってでも戦います! ……でも、あたしは後方からしか戦えないです……」
「充分。よし、じゃあ、フォルはどうだ?」
「お任せ下さい! タイラップだかタイアップだか知りませんけど、わたくしの奥義『覇王天翔拳』をついにお見せする時がきましたね!!」
ぶんぶんとフォルは、シャドーボクシングを繰り出していた。
は、速い……!
むちゃくちゃ速い!
手元がまったく見えないぞ!
結果、二人とも乗り気だった。
つーか、フォルに至っては殺る気マンマンで闘志をメラメラ燃やしている。なんか、いつもと違って生き生きしてるな。なんていうか……これ以上なく、バイタリティ溢れている。心強いなぁ。
にしても、なるほど……『殴り聖女』はあながち間違いではないらしい。
「みたいだぞ、メサイア」
「ぐっ……お、おかしいわね。……ああ、もう分かった。戦えばいいんでしょ、戦えば!」
「よっしゃぁ、俺たちの小屋を守るぞ……!!」
◆
ありがとうございましたぁぁぁ!! フォルトゥナ様!!
「つ、つえぇぇ…………」
数十体はいた【Lv.160】の『タイラントオーク』は全滅した。フォルの奥義『覇王天翔拳』とやらの大技スキルが連続攻撃されまくった結果だ。
演舞のような柔軟かつ機敏な動きで、次から次へと一撃で『タイラントオーク』を拳で沈めていた。
あの動きはヤバかった。人間を辞めていた動きだ。
そもそも……なんも見えなかったんだけど。速すぎて。
唯一、蒼白い龍とか虎のエフェクトがド派手に見えた気がするが、如何せん一瞬の出来事。俺の今の動体視力じゃあ、到底捉えきれないらしい。
くそう、歯がゆいぜ。
ただ、言えることは、アレは、インフレした少年漫画並みのハイスピードだったとは思う。うん。間違いない。あんな戦闘民族を見た事がある。
あの聖女は……フォルは……プリーストというか、どっちかといえば、武闘派の『モンク』だな。
「ふぅ~~~……。如何でしたか、兄様!」
可愛らしくウィンクを飛ばしてくるフォル。
いやぁ、そりゃもうね、イロイロ凄すぎてなんと言っていいやら。
「あ、あぁ……圧巻だったよ。格好良かった。フォルのおかげで俺たちも小屋も助かったよ、ありがとな」
「い……いえいえ! こ、これくらい普通ですよ」
フォルは、モジモジと体をくねらせ、すっごく照れていた。よっぽど嬉しかったのか、笑顔が零れ落ちそうだった。そ、そんな顔を向けられると、俺……惚れてまう。
「ま、まあなんだ。フォルは本当に『殴り聖女』だったんだな。感服したよ」
「ええ、これでわたくしの強さがハッキリ分ったかと思います。ですので、兄様。以後は、わたくしを子ども扱いしないでくださいね! ちゃんと大人のレディとして扱ってくださいまし」
「あぁ、認識を改めるよ。さて――」
さて、小屋に戻るかと、背を向けようとしたところ、
「きゃぁぁぁあっ~~! こっちに『レッドゴブリン』現れましたぁ!!」
突然、リースが叫んだ。
後方から『レッドゴブリン』の群れが!
……くそっ、終わったかと思ったのに!
「よし、今度こそ俺の出番だな。みんな、手出し不要だ。俺の【オートスキル】でヤツ等を倒す…………すぅ!?」
あれぇ~~~…おかしいなぁ。
『レッドゴブリン』は確かにいるんだけど、その更に後方から『巨大なゴブリン』がのしっと現れた。デカイ。かなりの巨体だ。
「おい、メサイア。あれはなんだ」
「あれは……『キングレッドゴブリン』らしいわ。ボスね」
「そうか、ボスか」
「ええ、ボスね」
「……なんだってぇえええ!?」
次から次へと!!
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