第109話 宝の在り処
赤い月。
血が滲んでいる。まるで月が血の涙を流しているかのように不気味で、恐怖心を煽っていた。そんな真っ赤な月だった。
嫌な予感を抱いたまま、リースと外へ散歩へ行くことにした。が、異変に気付いた皆も合流してきた。家の外には、俺、メサイア、ベル、フォル、リースといつものメンバーとなった。……おっと、パロもだったな。
「なんだ、結局みんな集合か」
「なんだって何よ、サトル。散歩とか言いつつも、このアヴァロンに眠るという伝説のお宝探しに行くんでしょ? 独り占めはさせないわよ」
と、メサイアはまるで名探偵であるかのように、ビシッと指をさしてきた。
「チッ。バレたか。そうさ、リースとデートついでにお宝探ししようと思ったのさ。……まあ、無断で悪かったよ。みんなもスマン。この通りだ」
俺は素直に頭を下げた。
「お気になさらず兄様。それより、お宝ですよ! リース、そのお宝って『聖剣』のことじゃないですか!? そうですよね!」
フォルは目を輝かせ、興奮していた。むしろ、リースに襲い掛かっていた。……おい。なにしてんだこのヘンタイ聖女。
そいや、フォルのヤツも随分と前に『聖剣』の話をしていたっけな。
「フォルちゃん、そんなにぎゅっとしないでぇ~~~! あと、変なところ触らないでください~~~!」
へ、変なところ!? どこだ!? どこなんだ!?
夜で視界が悪いんだよね……チクショウ。
ワーワーやっとると、ベルがフォルを引きはがした。
「そこら辺にしておこうね、フォルちゃん。リースちゃんが苦しそうだよ」
「あ……ベルさん。すみませんです」
ほう、ベルのヤツ、すっかりお姉さんポジションだな。
相変わらずの露出度90%超えのビキニアーマーだけど。
おっと、ベルのビキニアーマーに見とれとる場合じゃない。
「さあ、みんな。お宝探しに行くぞー!」
俺はみんなに号令を出し、出発を宣言したが――。
『まてい!!』
図太い声に静止させられた。
「誰だ止めたヤツは!」
「私だ……さっき振りだな、サトル」
「あ、あんたは! リースの親父さん……ふんどし一丁で何やっとるんですか!?」
「そんな事はどうでもいい」
「いやよくねーだろ!? 若い娘さんの目の毒だぞそれ。あー…ほら言わんこっちゃない。女性陣、めっちゃ引いてるぞ」
俺は、リースにジェスチャーで振ると、
「お父さんサイテーです」
そんな核ミサイル並の一言が返って来た。
「ぬぉぉおぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!」
リースの親父さんは、即死級のショックを受けていたが、なんとか踏みとどまっていた。なにっ!? アレを耐えるだと……! 俺だったら死んじゃうね!
「…………くぅ。……い、いいか、サトル。悪いがアヴァロンから出て行ってもらう。今すぐにだ」
「はぁ?」
「聞こえなかったのか? 追放といったのだ」
まて、親父さんは何を言っている?
追放だって?
エルフの郷を?
なぜ、ホワイ?
「逆恨みならよしてくれ。俺は宝探しに行くんだ」
「宝探しだと!? 罰当たりな! おのれ……所詮はよそ者、賊だったか。信じた私が愚かだった……。今なら娘に免じて見逃す。頼むから、静かに出て行ってくれないか!」
あの目は本気か。
親父さんは正気を失ったワケでもなさそうだ。ならば、ここで対立しても無意味。彼の言葉に従い、俺たちは出ていくしか――。
『そうはさせん!! 我らエルフの郷に不法侵入した輩がいると聞いていたが、……お前が匿っていたとはな!! ベラドンナ!!』
ベラドンナ――リースの親父さんの名前か。
そんな名前だったとは、意外すぎた、いや、そこはいいな。
それより、またエルフが複数人現れた。
今度はちょっとイカついおっちゃん達だ。
「ベラドンナ。お前は俺たちを騙していたんだな」
「ま、まて! 違う。この方たちは娘の仲間で……ええい!!! サトル、私の大切な娘を……リースをよろしく頼む……! 娘は……私の宝なんだ……傷ひとつ付けてみろ!!! お前とリースの結婚は絶対に認めんからな!!」
その言葉の次には、親父さんは激しい光を同胞達に向かって放ちまくっていた。なんて、スキルの連射速度だ……バケモノか!
「お……親父さん! あんた! 分かった……!」
俺が戦っても良かったが……。
いや、それをしたら余計に心象を悪くさせてしまう。
ここはリースの親父さんを頼りにするしか……ない。
「お父さん! お父さぁぁぁぁぁあん!!! サイテーなんて言ってごめんなさい! だから……だから、戻ってきて!!」
リースは大粒の涙を流し、親父さんのもとへ駆けだそうとしていたが、メサイアに止められていた。
そうして、俺たちはエルフの郷・アヴァロンから追放された。
◆
郷から離れ、まだアヴァロンが見える距離。
赤い月が俺たちを見下すように、ゲラゲラと笑っていた。
今宵起きるであろう、運命を暗示しているかのように。
その通り、残酷な運命がまた始まった。
「サトにゃん、アレを見るにゃ!」
見張り番をしていたパロが、アヴァロンの方角を指さし騒ぎ出した。……まさか。
まさかなのか。
「……そんな……」
リースが信じられないと手で顔を覆っていた。
……アヴァロンが燃えていた。
メラメラとグラグラと……。こんなに離れているのに、熱気が伝わってくるほどに、その炎は凄まじかった。
――アヴァロンはまた滅んだ。
……また?
なんで、俺はまたと思った?
そんなはずはないのに。この違和感は何だ。
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