第102話 俺のレベルが限界突破
困ったことに何故か泳げない。
どうやらカナヅチになってしまったようだ。
息はもう長く持たない。だいぶ苦しくなってきた……。こうなるとスキルで何とかするしかないのだが、その肝心のスキルも何故か使用できない。
絶望の使用不可状態に陥っている。
なんでだよ……!!
覚えがあるとしたら、レベルだ。
俺のレベルはこの聖地に訪れてから勝手に『-1』になってしまった。つまり、俺は雑魚になっちまったらしい。
なんでだよ……。
いや、だがまだ雑魚になったと決まったワケじゃない。『-1』だからといって、雑魚と確定したワケじゃないのだ。もしかしたらまだ充電期間で、これからひょっとすると最強ということも十分ありえるだろう。そう、まだ決まったワケじゃない。ここはポジティブに考えたい。
そ、そう……なにか手立てがあるはずだ!
なにか…………。
・
・
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…………なにもねぇ。
息はもうヤバイ。
こりゃ、もうダメかと諦めかけたその時だった。
かなり水深のある海の底にも関わらず、人影が見えた。
だ、誰だ!?
謎の人影が手を振っている。
その影は『安心して、もう大丈夫だよ』と言っているようだった。なんとこんなところに天使が? それとも、モンスターのセイレーンか!?
顔はよく見えないが…………って!!
コイツは……!
◆
……目を覚ますと、俺はどっかの浜に打ち上げられていた。
どうやら、気を失っていたらしい。
「えーっと……なにがあったっけ」
あんまり覚えていない。
確か、海で溺れかけて……それで?
俺の膝の上には『フォル』がいて…………。
「って、フォルぅ!? どうして、俺の膝の上にいるんだよ! しかも、そんな面積の少ない水着姿で!」
「おはようございます、兄様~♡」
フォルは寝ていたのか、寝ぼけながらもスリスリとしてくる。お前は猫か。
「そりゃいいが、どうしてお前がここに……確か、聖地巡礼の件で教会へ挨拶に行っていたんじゃなかったのか」
「ええ。要件が終わったので遊びに来たのですよ。そうしたら、ちょうど兄様が海へ投げ出されていたのを目撃したのです。ですので、助けに行ったのですよ~。さすが、わたくし!」
なるほどな~。
そいや、フォルは強運の持ち主だったな。フォーチュンだとかの。
このダイヤモンドダストのような光を放つ銀髪少女は『フォルトゥナ』である。武闘派の聖女であり、むちゃんこ強い。で、しかも最強の運の持ち主ときたもんだ。俺はどうやらその運に助けられたらしいな。
「そっか。フォルが助けてくれたんだな。ありがとな」
「と、当然のことをしたまでです。ですから、ご褒美は――」
顔を赤らめながらも、フォルはキスを要求してきた。
まあ確かに今回はフォルのおかげで助かったしな。よしよし、頑張った子にはご褒美をあげなくっちゃな。
俺はフォルの肩に手を置き、要求通りに口づけを――と思ったのだが。
また男たちに取り囲まれたんだな、これが。
「ま~~~~~~~~~たかよ!!」
しかし困った。
俺は雑魚(仮)である。また海に投げ出されたら面倒だ。
ということで……
「フォル。俺は現在、レベル『-1』人間で、一応の雑魚(仮)になっちまった。情けないが、助けてくれ」
「はい……? 兄様、今レベル『-1』なんです!? どうして……」
「さあ、俺にもさっぱり分からん」
本当にどうしてだろうねぇ。
「分かりました。そういう事でしたら、この黒々とした謎で怪しい集団をぶちのめして差し上げますね!」
「あ、ああ……なるべく手加減はしてやってくれ。フォル、お前のレベルは『9999』で、全ステータスもカンストしているんだからな。指一本で殺人事件に発展しちまうから気をつけろよ」
フォルは華麗に構え、今にも『奥義』を繰り出さんとしていた。
っておい、手加減しろと言ったはずだが!?
「奥義! 覇王爆砕拳!!」
見事に奥義発動。
見事に地面をぶっ飛ばし、敵をも四方八方へぶっ飛ばした。
「うわバカ! 手加減しろって――って、もう遅いか……」
何にしてもこれで終わった。
一安心だ……そう思ったのも束の間。
『我ら黒の十字……貴様たちの聖地巡礼を阻止する』
男のひとりが大きく飛躍すると、俺との距離を一気に縮めてきた。――ヤツだけ異様、動きがまるで違う……!
「くそぉぉぉぉ! 『-1』をナメんなよおおおおおおお!!」
フォルの援護は間に合わない。
ならば、一か八かだ。
スキルを発動する!!
海の底では使用不可能だったが、今は分からない。
不可能を可能にするのが俺のはずだ。
「うおおおおおおおおおおおおお!! くらえやああああああああ…………って、やっぱり発動しねえええええええええええ!!!!!」
スキルは発動しなかった。
オワッタ……。
そう思っていたのは俺の勘違いだったようだ。
「……む?」
気づいた時には、俺はいつの間にか敵のレベルを奪っていた。
こ……これは【オートスキル】が発動したのか!?
よく見ると、こんなのが勝手に発動していた……
【スキル】レベルスティール
効果:敵のレベルを少し奪い、奪った分だけ低下させる。奪った分は自身のレベルにプラスする。ただし、経験値テーブルでの計算はされる。3分間のクールタイムが存在する。
俺のレベルが限界突破し――【10000】になった。
……え?
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